二年後の再会
下ネタ警報を発令します。
◆◆◆↑立成15年8月◆◆◆
◆◆◆↓立成17年4月◆◆◆
「ちょっと弓稀、ちゃんとやってる?」
「……この時間を練習に充てたいのよ」
春。四月。この時期になると、部活に入っている学生は「新入生勧誘」という名の強制学生運動に駆り出される。アタシはあまり乗り気じゃない。もちろん新入生が入部せずに部員が定数以下になれば廃部になるということは当然知っているのだが、マイナーな部活や同好会ならまだしも、水泳部なんてそこそこメジャーなところに入っているアタシ達に、果たしてこれは必要なのだろうか。
「……あっ! あのときのおねーちゃんだ!」
喧騒の中で、なんとなく聞き覚えのあるような声が聞こえてきた。
そして、パタパタと近づいてくる人影。二年前の記憶が、呼び起こされた。
「……あなたは、たしか」
「そう! あたしは板隷つくし! 今年からチューが臭い学年になりましたー!」
「あなたは水泳部に来なくていいわ」
「開幕早々冷たいっ!」
「この子、弓稀の知り合い?」
「いえ、ただの変質者よ」
「年下にその言い方はないんじゃない!?」
「でも事実でしょ?」
「イッツトゥース!」
「それを言うなら『truth』だし、それだと『それは歯です』になるわよ」
「冥界の神様!」
「なによそれ」
「ずいぶん仲良いね。いいよ、ここは私に任せて行っといで」
◆
「んー……、やっぱり相場は校舎裏! 年頃の女の子が人気のない所で二人きり。なにも起きないはずもなく……!」
「なにも起きないわよ」
同級生に変な気を遣われてしまった。そして成り行きでこんなところまで来てしまった。
「失礼だけどあなた…………星空女子学園に入れるくらいの家庭の子なのね」
「ふふん、驚いた?」
「そこそこ驚いたわ。……で? なんの用なの?」
「ううっ、せっかくの再会なのに全然嬉しそうじゃないっ!」
「そういえば、下ネタ好きなのかどうか聞いたあの日からプールに来なくなったわね」
「あー、あれ? あのとき、親戚のお兄さんがコーチをしていた水泳講習に通わされてて」
「それで一週間くらいプールに来ていたのね」
「あの日が最後の日で、次の日から違う習い事をさせられていて……もう、プールに行けなくなったの。講習はつまんなかったけど…………。……でも、いいの。貴女に出会い系できたから」
「しれっと下ネタ寄りのワードを使うのはやめなさい」
「そんなことより見て! あたしのこのボデー!」
そう言って、誇らしげに胸を張るミニつくし。……もう「ミニ」じゃなかった。
「あたし、おっきくなったんです! 『オトナ』の『カラダ』になったんですよ! いやん!」
「……もういい? そろそろ戻りたいのだけど」
こんな話に付き合わされるくらいなら、勧誘していた方が幾分か気が楽だ。
「そんなこと言わないでよおねーちゃん! ……そういえば、なんて名前なの? ちなみにあたしは板隷つくし!」
「何度も聞かされたから知ってるわ。……はぁ。…………アタシは政所弓稀よ」
「……まん(R18表現のため自主規制)どころゆき?」
「勝手に人の名前を下ネタに変換しないで。名誉毀損よ」
「フルネームの前に『お』って付けて呼んでもいい?」
「訴えるわよ」
「……はっ!」
「今度は何?」
「やっぱりあたし達って、運命の出会いだったんだ!」
「はぁ?」
「ほら、あたしの名前って『つくし』でしょ? そしておねーちゃん……んんっ! 先輩の名字は『まん』……!」
「『まんどころ』」
「だからホラ、こう…………棒と壺でピッタンコ的な、そういう運命的でベストマッチな組み合わせなんだよ! あたしが先輩と結婚カッコカリしたらもう『まんどころつくし』とか完璧な両性具有的な素晴らしさに……!」
「ならない」
「もちろん、カラダ的には壺と壺でもピタンとピッタンコで真珠の出来上がり的な感じで凄い!」
「真珠? どうして急に真珠の話を………………」
「知ってた? 真珠は貝の中で作られるんだよ?」
「…………もう帰るわ」
「あうっ! 冷たい! 冷水のように……聖水のように冷たいっ! ……あれ、これだと温かい?」
「いい加減にして」
「え?」
「あなたみたいな変態に構っていられるほど、アタシは暇じゃないのよ」
「あっ……待って……」
「金輪際声をかけないで」
アタシは彼女の言葉を待たずに、背中を向けた。