一歩一歩、日進月歩。
◆◆◆↑立成17年8月◆◆◆
◆◆◆↓立成15年8月◆◆◆
アタシ、政所弓稀は、幼稚園の頃から水泳一筋で生きてきた。水泳が、その頃のアタシの全てだった。
◆
その日、アタシは昔から通いつめている市民プールでクロールの練習に没頭していた。
「……ふう」
片道25mのレーンを20往復、1000mの距離を一通り泳いだアタシは、ひと休みするためにプールサイドで休憩をとっていた。
「じー……」
……不意に向けられた視線が、気になった。
しびれを切らしたアタシは、視線の主に聞いた。
「……あなた、何?」
その当人……小学生くらいの少女は、自分から見ていたくせにいざアタシに声をかけられると驚いてはっと目を見開いた。
この少女が、当時の板隷つくしだ。
◆
「じー……」
明くる日、アタシはまた当時のつくし……ミニつくしに見つめられていた。
「……」
「じー……」
「……ひとつ、いい?」
「なに?」
「あなたは一体なんなの?」
「あたし、いたれーつくし!」
「あー……。そう……ね。名前は、聞いた。昨日も」
「お父さんとお母さんが『のびのびと育ってくれますように』って意味で、つくし!」
「名前の由来なんて聞いてないのだけど」
「名前に『つくし』はあれど、あたしに『つくし』は無いよ!」
「…………は?」
「えへへへ!」
意味がわからず、首をかしげて少しの間沈黙。その間、ミニつくしはずっとにこにこしていた。
ふと、彼女の言葉の意味がわかった。
「……」
彼女の言葉を無視することにした。
「冷たい!」
後ろでミニつくしが嘆いている声が聞こえてきた。
ちなみに、入学時の自己紹介で彼女が言ってクラスメイトからドン引きされた下ネタがこれだ。
◆
「ねえ! ここまで来るのに運賃いくらかかったの?」
「……」
「ねえ運賃!」
「…………運賃運賃運賃運賃運賃!」
ばかじゃないだろうか。
「……うるさい」
「やっと運賃しゃべった!」
「アタシは運賃じゃない」
「あうっ、ごめんなさい!」
「で? どうして交通費なんて聞いてるの」
「もー。こーつーひじゃなくてうんちん!」
「…………」
◆
「おねーちゃんって、二つのお山のアイランドっだよねっ! 背泳ぎしてる時!」
「…………」
「で、いつかそのお山が噴水になるんでしょ? ぶぴゅーって! あたしもそーなるのかなー」
「…………つくしちゃん、だっけ」
プールサイドでミニつくしに声をかけられるようになって数日が経ったある日、アタシは、初めて彼女の名前を呼んだ。
「うん、あたしつくしいたれーつくし!」
「あなたもしかして……『そういう話』好きなの?」
きょとんとした表情で、彼女は答えた。
「『そういう話』って? …………はっ! もーおねーちゃんったらなにをもーそーしたの!? えっちだえっちだー!」
「騒がないで黙って答えなさい」
「あうっ、冷たい視線! そこに痺れる憧れるぅ、カレーのルー、大○はルー!」
「…………」
開いた口がしばらく塞がらなかった。
くだらない。くだらなすぎる。
「はあ……。もういい。……あと、公共の場でそういう話題はやめた方がいいよ。かなり人を選ぶから」
「やだ! 下ネタの無い世界なんて退屈だもん!」
「しれっと白状したし。……もう勝手にして」
この頃の彼女は、ただの「下ネタマシンガン」だった。
ミニつくしちゃんの言動と同じく、私の小説もかなり人を選ぶ。