溶けるのは
深夜零時。
右隣りで微かに布団が動いた。それと共にベッドに掛かる重み、布団をかけ直す手。
その相手が誰なのかなんて分かり切っている。
既に意識は曖昧になっていたけれど、それでもあなたの体温を探して右手を伸ばす。
「あ、ごめん。起こした?」
触れるか触れないかの刹那、君の声がした。
気遣うように抑えた声。
「ん……。」
うっすら目を開くと、斜めに僕を見下ろす人。肩の辺りまで伸ばした髪は真っ直ぐで、思わず指で梳くと、あなたがくすくすと笑った。
それはそれは。
「どうしたの、急に。」
泣きそうな笑顔で。
「…………。」
ぐっ。
何でそうしたのかよく分からない。
でも、気付けば僕の体は腕の中にあなたを引き込んでいた。
腕の中では、あなたがびっくりしたように動かない。
『……大丈夫?』
右手で抱え込んだあなたの髪に鼻先を埋め《うずめ》る。
掠めるのは、何度も嗅いだ甘く優しい匂い。
「……しばらく、こうさせて。」
じゃないと、君は泣いてしまいそうだから。
君は何も言わない代わりに、僕のシャツの胸元をきゅっと掴んだ。
「狡いよ。」
鼻声で、君はぽそりと呟いた。
それから聞こえたのは、鼻を啜る音と、規則正しい寝息。顔を覗き込もうとしたけれど、君の手は僕のシャツをしっかりと握っていて、まるで。
「子供みたいだ。」
信じられないよ。
こんなに穏やかな眠りに墜ちている君が、さっきまであんなことで傷付いていたなんて。
狡い。
狡いよ。
君は何時でも狡いんだ。
他人の心配は余計な程するのに、自分のことには絶対誰かを巻き込んだりしない。
ひとりで悩んで、
ひとりで傷付いて、
僕の知らない所で泣くんだ。
何度も止めて欲しいと思ったけれど、君は止して《よして》くれそうに無いから、
だから。
こんな雨の夜くらいは、
僕の腕に君を抱かせて。
空が降らせる雫に、
どんな傷みも溶かしてしまうと良い。
真夜中の雨に怯えた振りをして。
子供のように全て預けて。
その仮面を外しておしまいよ。
君を見つめているのは、
空と、
雨粒と、
僕。
お久しぶりです。最近更新が遅れていました……。今回は久々にほっとできる(?)お話にしてみました。気に入って頂けると嬉しいです。お読み頂きありがとうございます。