6話 犯人、そして勇者の最後
それから更に数日が経った。
煉城も今はちゃんと前に進んでるみたいだ。
俺は、近接戦は今は教える事は無いとアグマスさんに言われ、煉城や雅と一緒に、キュシアさんに魔法を教わっていた。
雅も、最近は皆と普通に喋れる様になっている。
ある日、俺が訓練を終えて部屋に戻った後の事だった。
部屋の扉がノックされた。
「はい、今開けるよー、て、あんた誰だ?」
俺が扉を開けると、そこには全身黒ずくめの人が立っていた。
「マンゲツ様、ギルスガ王からの伝言です。犯人の目星がついた。数日前に、宰相が勇者召喚の間に入っていたらしい。詳しい証拠はまだない。確かに伝えました。失礼します」
それだけ言うと、その人は去っていった。
俺は、扉を閉めて考える。
「やっと分かったか。宰相……、行動は早めの方が良いよな」
俺は、訓練服は今は無いので、学生服に着替える。
これを着るのも久しぶりな気がするな。
小太刀を持っているのを確認して、部屋から出る。
部屋から出た俺は、宰相の部屋を探した。
少し時間がかかってしまったが、部屋を見つけ出す事に成功する。
宰相の部屋からは、一度も感じた事の無い気配があった。
さっき聞いた騎士さん達の話から、宰相は今、会議中だと分かっている。
俺は部屋に入り、その気配がある部屋へ続く扉へと進む。
扉を開けると、そこには見たこともない生物が立ち並んでいた。
見たこともないが、あっちの世界で聞いた事はある、実在しない筈の生物。
「ゴブリン、オーガ、って、これってもしかして……魔物………?」
「正解だ」
「っ!!?」
部屋を見ていたら、後ろから声が聞こえてきた。
驚いて振り向くと、そこには会議中で居ない筈の、宰相が立っていた。
「ん?確か君は、勇者の……マンゲツ様だったかな?まあ、これを見られたからには、殺すしかないんだが」
「宰相、何故お前がここにいる?」
「なに、会議中に嫌な予感がしたから、早めに終わらせて帰ってきたんだ。まあ、帰ってきて正解だったな」
くそ、見つかった。
せめて情報だけでも引き出して……。
「宰相、ここにいる魔物は、一体どういう事だ?ここで何をしていたんだ?」
「ふむ、良いだろう。冥土の土産に教えてやる。ここにいる魔物は研究用の素材だ」
「研究……?」
「魔物の力を得る為の研究だよ」
「っ!ま、魔物の力を?」
「ああ、そうだ。魔物の力は凄いぞ?溶岩を平気で泳ぐ魔物も居れば、一撃で大岩を粉砕出来る魔物も居る。この力を私が使えれば、他の奴等よりも、一歩上を行く事が出来る!」
「俺達を奴隷にしようとしたのも、同じ理由か……?」
「ん?何故その事を知っている?確かに私は術式に細工を施した。だが、何故だか知らんが、失敗したのだ。勇者という強大な力を持つ存在を実験台にしたかったのだが……」
やっぱり、そうだったか。
しかし、俺達を実験台だと?
やはり、こいつは殺しておかないと、危険だ。
「おっと、少し話しすぎたな。もういいだろう?せめて、最後に私の研究成果を見せてやる」
宰相がそう言うと、周りの魔物達が一斉に動き始めた。
宰相が腕を振り下ろす。
すると、魔物達が一斉に襲いかかって来た。
俺は、攻撃を避け、時にカウンターを加えていく。
宰相が笑いながら言ってきた。
「クハハハハッ!!どうだ、凄いだろ?研究をしていく内、魔物の死体を強制的に動かす方法を見つけたんだ」
「へー、じゃあこいつら、死体なんだ」
でも、流石に頭と胴体を分断すれば、動かなくなるだろ。
俺は、攻撃を避けながら、一匹、一匹と、着実に動かなくしていく。
そして、遂に最後の魔物が動かなくなった。
「ば、馬鹿な………」
「さて、お前の番だ……」
「わ、私をなめるなぁぁ!!お前など、これを使えば一瞬なのだ!ひれ伏せ!この私の研究成果の前に!!!」
宰相はそう言って、薬の様なものを飲み込んだ。
「ぐ、グワァァァァァォォォォォオオ!!」
宰相は叫び声を上げながら、どんどん身体を変えていった。
年老いた身体は膨れ上がり、3m以上大きくなり、頭からは牛の様な大きい角が生え、口からは大きな牙が、背中には蝙蝠の様な翼と鰐の様な尻尾が生えていた。
「ば、化物………」
「グババババ!ドウダ、オドロイタカ!ワタシハ、カンセイサセテイタノダ!マジュウノチカラヲ、ワタシハテニイレタノダ!!」
「っ!!」
宰相が拳を横に振るってくる。
俺は、それを後ろに下がり避けた。
(今の速さは普通の人間が出せるスピードじゃない!だが、今の動きは…………)
宰相はがむしゃらに俺を狙って、殴り付けてくる。
その攻撃は部屋を破壊し、戦場は中庭に変わる。
しかし、その拳は一撃も俺には当たらない。
(やっぱりそうだ!宰相は戦闘に関しては全くの素人なんだ。これなら……!)
「ヌワァァ!ナゼダ!ナゼアタラナイ!?」
「はっ!」
「ッ!?ぐ、グワァァァ!!!??!?」
俺が背後から振るった一撃は、宰相の左腕を肩から断ち切った。
大きな片腕が中を飛んでいく。
宰相は怒りに満ちた視線をこちらに向け、言った。
「キサマァァァ!!ユルサン!ゼッタイニユルサンゾ!!!」
また怒濤の攻撃をしてくるが、先程と同じ様に、背後から今度は右足を膝で断ち切った。
宰相は叫び声を上げながら、崩れ落ちる。
こちらを睨みつけてくるが、その身体は魔物のものから人間のものへと戻り始めていた。
「まあ、これでもう動けないだろ」
俺が一息つくと、向こうから誰かが近づいて来た。
あれは、御夏達か?
「おーい、満月ー!」
その時。
満身相違の筈の宰相が、懐から何かを取り出した。
「せめて、勇者、だけでも……!」
「!?皆!避けろ!」
宰相が皆に向かって何かを投げた。
皆は混乱してその場から動けていない。
「くそっ!我慢しろよ、皆!」
俺は、ダークボールを六つ放ち、皆にぶつける。
威力を最小限に留めたダークボールをくらった皆は、後方に勢い良く吹き飛んだ。
「ぐっ!?」
皆を避けさせた俺は、宰相の投げたものを避けきれずに、くらってしまう。
すると、足元に魔法陣が現れ、光出した。
それと同時に、とてつもない痛みが襲いかかってくる。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
自分の身体が、別のものへと変えられていくのを感じる。
これは、まさか……!
「ま、満月?お、おい!お前!これはどうなってる!?満月はどうなるんだ!!」
皆が宰相に武器を向け、御夏が宰相に疑問をぶつけている。
宰相は薄笑いを浮かべながら答えた。
「クフ、クフフ。わ、私が投げた、のは、人を魔物化させる、魔法を、込、めた、魔道具、だ……。あ、あれをくら、うと、身体に、激、痛が、はしる。身体、の、変化に、耐え、られなけ、れば、死、ある、のみ………」
「なっ!た、助ける方法は無いのか!?」
「ふ、ふふふ、そ、んなも、の、つくる、ものか………」
「そ、そんな……」
「ま、満月……………」
宰相の言葉に皆がこっちを見るが、それに反応を返す余裕は無い。
だが、皆が心配してくれているのだ。
ここで敗けれる訳ねぇだろ!
「オォォォォォォオオオ!!!」
俺は最後の気力を振り絞って、魔法に対抗する。
すると、魔法の力が消えるように無くなった。
「耐えきれた、のか?………っ!!?!」
気を緩めた瞬間、身体中から血が吹き出した。
俺は地面に倒れ込み、血を吐き出す。
俺が倒れると、皆が駆け寄って来てくれた。
「満月!大丈夫か!?」
「鏡君、生きてる!?」
「満月、大丈夫なのか!?」
「満月君、大丈夫ですか!?」
「満月、平気!?」
「ま、鏡君、その傷……」
「へへ、皆、なんて、顔、してんだよ」
「だ、だって、お前……」
「ああ、ゴフッ、せ、精神は、耐えきれた、が…、肉体の、方が、耐えきれ、なかった、みたい、だ……な」
あー、情けねぇ。
もっと鍛えときゃ良かったかな。
「お、おい、御夏。最後に、伝え、とく、ぞ。あい、つ、宰相、が、俺達を奴隷化、しようと、した、犯、人、だ……」
「最後なんて言うな!おい、雅!治癒はまだ終わらないのか!?」
「まだ!なんで!?なんで治らないの!?」
「そ、りゃあ、俺、が、もう、気力だ、けで、生きて、るから、だろう、な…。おい、皆………、最後に言っておく………」
俺の言葉に、皆が俺を見てくる。
ふっ、結構面白いの思いついたぜ。
「俺は必ずこの世界に戻って来る!」
どうだ、会心の出来だろう。
はは、気が遠くなってきた。
じゃあな、皆。
「何言って………満月?満月!?」
「え、嘘、嘘でしょ………?」
「満月……、くそぉぉ!!」
「ま、満月君………」
「満月君が、し、死ん…………」
「い、嫌ぁぁぁぁぁ!!」
こうして、俺、鏡 満月は死んだ………筈だった。