5話 模擬戦と夜の相談
昼食の後は、アグマスさんの訓練だ。
「最初は体力づくり……は、勇者だから必要無いか。じゃあ、素振りだな。百回振り終わったら、俺のところに集まれ。何か質問があったら聞きに来い。じゃあ、始め!」
俺達は、昨日と同じ様に散らばって素振りを始める。
一番早く終わったのは、俺だった。
せっかくなので、アグマスさんに聞いてみることにする。
「なあ、アグマスさん」
「何だ、マンゲツ」
「俺、何か嫌な予感がするからさ。もし俺に何かあったら、あいつらの事、任せても良いか?」
「!分かった。だが、そんな事にはならないさ。なんたって、この俺がついてるんだからな!」
「ああ、頼んだぜ、アグマスさん」
丁度その時、皆が素振りを終えて集まって来た。
「よし、終わったな。じゃあ、次は模擬戦だ。好きな相手と組んで戦え!一人余った奴は俺が相手だ!」
そう言われた皆は、目配せをしている。
じゃあ、俺は誰と組もうか。
そう考えていると………。
「俺と組もう、深冬」
「ああ、勿論!」
「弥春、一緒にやりましょ」
「うん!」
「雅さん、僕と組まない?」
「う、うん」
あれー?余っちゃったー。
「はぁー、俺がアグマスさんか」
もしかして、皆が仕組んだのかな?
まあ、もう考えても仕方ないか。
俺は、アグマスに向けて構える。
「アグマスさん、行くよ」
「ああ、かかって来い!」
俺は、最初にダークボールをアグマスさんに向けて放つ。
アグマスさんはそれを簡単に避けるが、その時には既に、俺は持ち前の速さで背後に回り込んでいた。
不安定になっている足に足払いをかける。
しかし、アグマスさんは剣を地面に突き刺し、それを支えに蹴りを放ってきた。
俺は一旦下がって蹴りをかわし、体勢を整える。
「アグマスさん、次、行きますよ」
「おうよ!」
今度は魔法を左手に出しながら近づき、至近距離でぶつける。
俺は放った瞬間、後ろに下がり、様子をうかがう。
砂埃がたっていてよく見えないが、そこからアグマスさんが急に飛び出してきた。
咄嗟の事に反応出来ず、中途半端に攻撃を受けてしまう。
俺は吹き飛ばされ、起き上がろうとすると、アグマスさんの剣が首につきつけられていた。
「はぁー、敗けか。やっぱり、こうなっちゃうよなー」
「そうでもないぞ、マンゲツ。たいして戦った事も無いのに、俺とここまで戦えたんだからな」
起き上がった俺に、アグマスさんがそう言ってくれる。
そう言ってくれるだけでも嬉しいね。
皆も模擬戦は決着が着いたみたいで、アグマスさんに報告に来た。
「アグマスさん、皆、模擬戦が終わりました」
御夏が代表して、報告する。
すると、アグマスさんは顎に手をあてて悩み出した。
アグマスさんに声をかける。
「アグマスさん、どうかしたんですか?」
「いや、実はこのあとどうするか考えて無くてな。うーん、そうだ!お前等、俺と模擬戦だ!一斉にかかって来い!」
アグマスさんが、思いついた様に言ったので、遠慮せずに皆で襲いかかった。
その日は、結局アグマスさんには勝てずに訓練が終わった。
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それから数日が経った。
少し前から煉城と雅とは、別々に分かれて訓練している。
俺達は、アグマスさん相手に模擬戦を続けていた。
「よし、今日の訓練、終わり!明日に備えて、しっかり休んどけよ!」
「「「「「はい!ありがとうございました!」」」」」
訓練が終わり、皆で夕食をとった後は、部屋に戻って眠る……事はなく、小太刀を持って中庭に向かっていた。
せっかく疲れないので、夜に訓練をする事にしたのだ。
中庭に移動すると、昨日は見かけなかった影を見かけた。
俺は警戒しながら近づいていく。
近くに来ると、それが煉城であることに気づいた。
「おい、煉城」
「え?あ、なんだ、鏡君ですか」
「なんだとは酷いな。こんな時間に何してるんだ?」
「実は、ちょっと悩んでて」
「悩む?そりゃ、何で」
こいつが悩む様な事があったか?
俺が疑問に思っていると、煉城が教えてくれた。
「皆と分かれてから、私と治予ちゃんはキュシアさんに、魔法について教わってたんです。でも、治予ちゃんはちゃんと出来るのに、私はなかなか言われた通りにできなくって……」
「成る程………」
それで悩んでたのか。
でも、俺が言えるのは一つだけだ。
「鏡君、私はどうすればいいんですか?」
「知るか」
「え?」
「そういうのは、自分で決める事だ。自分で考えて、それで分かんなきゃ仲間に聞け。それでも最後は自分で決めろ。決めたらそれを貫き通せ。自分の事を信じろ」
「でも、失敗したら………」
「失敗してもいいんだよ。お前には、仲間がいるんだからな。助けて貰えばいいんだ。主に御夏とかな」
「フフッ、そこは鏡君じゃないんですね」
「当たり前だ。まあ、いざとなったら助けるけどな。で、どうだ?すっきりしたか?」
「うん、お陰さまで。ありがとう、鏡君」
「いや、俺は俺が思った事を言っただけだよ。じゃあ、俺は部屋に戻るよ。なんか、やる気も失せちゃったし」
そう言って、俺は来た道を戻り始めた。
その俺に、煉城が声をかけた。
「あ、ありがとうございました、満月君!」
俺は軽く手を振って、部屋に戻った。