20話 友達と鍛冶屋
「ふむ、成る程。お前が隠していたのは、あの二つのスキルの事だった、と」
「それで、あんなに戦えたのを隠していたのは、不審がられない為だったわけね」
「はい、その通りです」
皆にさっきのスキルについて説明した。
まあ、発言するのは、お母様とお父様がほとんどだが。
ここで、ヘミル兄様が聞いてくる。
「でも、何でレミアはあんなに戦えたんだ?訓練してるの、見た事無いけど?」
「ああ、それは私が転生者だからですよ」
「テンセイシャ?」
あ、やべ、流れで喋っちゃった。
まあ、良いか。
どうせいつかばれるだろうし。
「レミア、テンセイシャ、って何なんだ?」
「ええ、何なの、それ?」
うん、そもそも意味が分からなかったみたいだ。
一応誤魔化しておくか、面白そうだし。
「そうですね………これから言う事を信じてくれますか?」
「ああ、勿論だ」
「当たり前でしょう」
「勿論、信じるに決まってるだろ」
「信じない訳が無いわ!」
「信じるよ」
いやー、皆即答してくれたね。
これなら信頼出来そうだ。
「では……これから12年後、この国に勇者が召喚されます。その勇者に転生者とは何か、聞いてみれば私に関する全てが分かるでしょう」
「勇者?あの、伝説の?」
「はい、その伝説の。それと、この事は黙っていて欲しいです」
「分かった、リューナー公爵家の名に誓おう」
「でも、今、貴方の口からは言えないの?」
「はい、言えません」
「それは何で?」
何でって、それは勿論……。
「その方が面白そうだからです!」
俺の言葉に家族全員が顔を唖然とさせる。
「じゃあ、夕食も食べ終わったので、先に自室に戻らせて貰います。では」
俺はそのまま皆を置いて、自室に向かった。
************************************
side~リューナー公爵家~
レミアが自室に向かった後。
我に帰った五人は、それぞれの反応を示していた。
「勇者か………突拍子もないな。だが、子供を信じてやってこその親だ。密かに準備だけはしておくか」
「それはそうとして、レミアってあんなに悪戯っぽい子だったかしら?」
マリアは不思議そうに首をかしげている。
それもそうだろう。
普段は素直な子が、突然悪戯めいた理由で秘密を隠しているのだから。
マリアのその様子に、ヘミルが言う。
「多分、今までは自分を少し、隠していたんじゃないでしょうか。自分が知っている事を隠す為に……」
「それがこうやって話した事で信頼してくれて、自分を見せてくれたって事かな?セリフィはどう思う?」
スレアがセリフィに意見を求めるが………。
「ウフフ、悪戯なレミアも良いかも」
セリフィはすっかり自分の世界に行っていた。
その様子に、セリフィ以外の全員が溜め息をつく。
「セリフィ?セリフィはどう思うの?」
「え?ああ、レミアについてね。そんなのどうでも良いわよ。レミアがどう思おうと、私のレミアに対する想いは変わらないもの」
セリフィのその言葉に、全員が一瞬驚くも、直ぐにその顔に笑みを浮かべる。
「セリフィの言う通りだな。レミアがどう思おうと、私達の想いは変わらない」
「ええ、全くその通りね。娘に教えられるとは、思わなかったわ」
「これからも、レミアには今まで通り接してあげましょう」
「うん、そうだね。…………でも、そこのセリフィの事は大丈夫なの?何か、姉弟以上の感情を抱いてる様に、僕には見えるんだけど」
「それは………レミアに任せよう」
「そうね、本人同士の事だもの」
「ハハハハハハッ!!」
「フフフフフフッ」
「レミア……大変そうだな………」
「まあ、それしか出来ないよ……」
大部屋には、微妙な空気が流れていた……。
************************************
side~レミア~
いやー、皆の反応、面白かったなぁー。
さて、明日はアキュレ達に訓練をつけて、その後はどうするかなー。
冒険者ギルドにでも行ってみるかな。
でも、確か登録出来るのが、15歳からなんだよなぁー。
じゃあ、自分の訓練でもするかな。
体力はあって困んないし。
「よし、明日の予定は決まったな」
明日が楽しみだ。
レミアは楽しそうに、自室に歩いていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、俺はあの空き地に向かっていた。
お、ようやく着いたみたいだ。
二人は……ちゃんと訓練してるみたいだな。
アキュレは空き地をグルグル走っていて、チャールは空き地の端でアキュレを笑いながら眺めている。
「おい、アキュレ!チャール!」
「お、来たか、レミア。ちゃんと走り込みはやってたぞ」
「レミア君、アキュレはちゃんとやってたよ。レミアに恥ずかしい所は見せられない、って」
声をかけると、アキュレとチャールがこっちに集まってきた。
「そうか、ちゃんとやってたんだな。でも、チャールはさっきやってたか?」
「あ、その事で報告があるの!昨日、寝る前にやってたらね、身体の中に温かいものがあるのが感じられてきたんだ」
な、一日で出来たのか。
才能があるにしても、早すぎだろ……。
「やったな、チャール。それが魔力だ。今も分かるか?」
「うん、一度はっきりと感じたら、それからはずっと感じる様になったよ」
「そうか、じゃあチャールは次の訓練だな。それにしても早すぎるが……」
俺は言葉を止め、チャールをジッと見つめる。
「な、何、レミア?」
「………愛の力か……」
「ちょっ、レミア!?何言ってるの!?」
「はは、冗談だよ。それで、訓練内容だが」
「あ、うん、何?」
やっぱりチャールをからかうのは面白いな。
「チャールの次の訓練は魔力を動かす事だ。感じとった魔力を自分の意思で操ってみせろ」
「分かった、頑張る!」
そう言って、チャールはさっきの場所に戻って、集中し始めた。
じゃあ、今度はアキュレだな。
「アキュレ、お前は今日は体力作りだ」
「えー、昨日みたいに構えとか教えてくれよぉ、です」
「我が儘言うな。ちゃんとお前の訓練用にあるものを用意してるんだ。それが出来るまでは体力作りだ。あと、腕立て伏せ」
「チェッ、分かったよさっきみたいにこの空き地を走れば良いのか、ですか?」
「ああ、それにジグザグで走ったり、途中でジャンプしたりだな。とりあえず十周だ。騎士になりたいなら、これくらい出来るだろ?」
「当たり前だ、です!」
そう言って、アキュレは少し不満そうにしながらも、走り込みを始めた。
俺はやる事が無いな。
なにやるかなー。
素振りでもやってるか。
俺は小太刀を出して、素振りを始める。
一撃、一撃に集中しながら、素早く正確に振って、時折蹴りも混ぜていく。
少し続けていると、視線を感じたので、一旦素振りを止めて、アキュレ達を見る。
アキュレは脚を止めてこちらを見て、チャールはびっくりした様に俺を見ていた。
「二人共、何やってるんだ?ほら、訓練再開だ!」
「は、はい!」
「う、うっす、分かった、りました、師匠!」
二人は自分の訓練に戻る。
ふぅ、全く世話がやけるな。
俺はもう一度素振りを始めた。
先程と同じ様に、一撃を素早く、正確に振って、より鋭くしていく。
少し続けていると、アキュレがこっちに近づいてきた。
素振りを止めて、アキュレの方を向く。
「アキュレ、もう終わったのか?」
「ああ、終わった、ぞ、です。ハァ、ハァ」
アキュレは息を切らして、汗だくになっていた。
まあ、容赦はしないんだが。
「じゃあ、次は腕立て伏せだ。百回やれ。終わったらまた俺に言いに来い」
「わ、分かった、まし、た、し、師匠」
アキュレはそう言って、腕立て伏せを始める。
じゃあ、俺は今度は何をしようかな。
次は……………体術かな。
小太刀術に比べてやってないし、スキルも手に入れてないしな。
俺は小太刀をアイテムボックスに仕舞って、無手で構える。
俺は拳や脚で仮想の敵を何回も、殴り、蹴りつける。
暫く続けていると、またアキュレが近づいてきた。
「どうした、アキュレ。終わったのか?」
「ああ、何とか、終わり、ました」
「よし、じゃあ、休憩だ。おーい、チャール!お前も一旦休憩だ!」
「よっしゃー!」
「はい、分かりました!」
アキュレはその場に寝転がり、チャールはこっちに駆け寄ってくる。
そうだ、休憩の内に聞いておくか。
「おい、アキュレ、チャール。この後はちょっと別の場所に移動するぞ」
「へ?何で?」
「お前の訓練用に木剣を作って貰うんだよ。その人にお前を連れて来い、って言われてるんだ」
「木剣!?じゃあ、直ぐ行こう!休憩終わり!」
「お前なぁ。チャールは大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ行くぞ。こっちだ」
俺は一気に復活したアキュレと、チャールを連れてリマスさんの工房に向かう。
場所は昨日行った時に覚えた。
暫く歩くと、やっと工房に着いた。
俺は扉を叩きながら、叫ぶ。
「リマスさん!レミアです!例の子、連れて来ましたよ!」
「うるせぇ!さっさと中に入れ!」
勝手に入って良いみたいだ。
「ほら、行くぞ、二人共」
「あ、ああ、分かった」
「うん、分かったよ、レミア君」
あらら、リマスさんの叫び声に怯えちゃったみたいだ。
まあ、大丈夫だろ、多分。
二人を連れて中に入る。
リマスさんは奥の部屋から出てきた。
「よお、レミア。その後ろの坊主が例のガキか?」
「ええ、そうですよ。ほら、アキュレも挨拶して下さい」
「「!?」」
「レミア、お前そのしゃ「ちょっとこっちに来て下さい、二人共」」
俺は二人を部屋の端に引きずっていく。
「さて、二人共、いつもの私の事は口に出してはいけませんよ?」
「レミア?でも、なん「いけませんよ?」分かったよ。絶対、後で教えろよな」
「普段のレミア君の事を言わなければ良いんだよね?」
「ええ、その通りです。お願いしますよ」
俺は釘を刺してから、リマスさんのところに戻る。
「リマスさん、すみません。ちょっと話がありまして。ほら、二人共、挨拶を」
「あ、アキュレって言います。五歳です」
「私は、チャールです。宜しくお願いします」
「おう、俺はリマスだ。アキュレっていったな。ちょっと、両手出しな」
アキュレの奴、自己紹介下手だなぁ。
チャールの方が出来てんじゃねぇか。
アキュレはリマスさんの言う通りに両手を前に出している。
リマスさんは俺の時と同じ様に、手をジッと見ている。
「よし、もう良いぞ。レミアの頼みだからな。ちゃんとしたのを作ってやる。期待しとけよ」
「は、はい!」
「ありがとうございます、リマスさん」
はぁ、アキュレには礼儀作法も教えなきゃ駄目だな、やっぱり。
チャールは問題無さそうだけど。
二人を先に外に出して、リマスさんに言う。
「じゃあ、今日はありがとうございました、リマスさん。お母様からお金はちゃんと頂いてるので、ちゃんと払いますからね」
「なんだ、もう行くのか」
「ええ、ちょっとあの二人……主にアキュレに礼儀作法を叩き込まなきゃいけないので」
俺は黒い笑みを浮かべながら言う。
今の内に教えといた方が楽だからな。
「そ、そうか。じゃあ、またな、レミア」
「はい、また来ます」
ちょっと引きぎみのリマスさんにそう言って工房を出る。
「あ、やっと来たな、レミア」
「早く行こう、レミア君。空き地に戻るんでしょ?」
二人が出てきた俺に気づいて、言ってくる。
「ああ、悪かったな。行くぞ」
俺達は三人で空き地まで走っていった。
二人は笑いながら。
俺は黒い笑みを浮かべながら……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side~リマス~
「あいつ、マリア達に似てきたな……」
リマスは、レミア達が去った店内で呟いた。
さっきのレミアの顔は、昔から見てきた、レミアの両親が何かろくでもない事を考えた時の顔と、そっくりだったのだ。
リマスも、昔はそれに巻き込まれて、大変な目に会っている。
「親子って……似るんだな」
リマスはさっきの二人の子供の顔を思い浮かべながら、二人に応援の念を送った。