19話 リーグルさんと模擬戦
夕方、散策が終わったので、屋敷に帰ってきた。
まだ夕食まで時間あるし、何しよっかなー。
あ、そうだ!
「ねぇ、リーグルさん」
「ん?何だ、レミア様。俺はこれから奥様に報告をしなきゃいけないんだが」
「そうなんですか。じゃあ、私もついていきます。私の事ですし」
「そうかい、好きにしてくれや」
リーグルさんはそう言って、歩き始める。
俺はその後ろをついていく。
リーグルさんは、お母様の部屋の前で止まった。
「奥様、リーグルだ。報告に来た。入っても大丈夫か?」
「どうぞ、入って下さい」
リーグルさんは扉を開けて中に入る。
俺もリーグルさんの後に部屋に入った。
「あら?何でレミアもいるの?」
「すまん、奥様。途中で見つかって、街を案内させられてた」
「あら、そうなの、レミア?」
「いえ、リーグルさんがついてきていたのは分かっていましたが、放っておいても問題は無いと思ったので、気づかないふりをしていました」
俺の言葉に、お母様とリーグルさんは驚きの表情を浮かべる。
「なっ、最初から気づいてたのかよ!」
「ええ、気配はもっと上手く消さなきゃ駄目ですよ、リーグルさん」
「お前なぁ。俺だって、それなりに自信はあったんだが」
「フフッ、言われてるわね、リーグル。それで、報告をして貰おうかしら」
リーグルさんはお母様の言葉に頷き、報告を始める。
報告は順調に進んでいき、全て報告し終わったところで、お母様が言った。
「レミアに友達ができたのね。それは良いんだけど、訓練?レミアに出来るの?」
「それは俺も思ったな。レミア様、出来るのか?」
二人が疑問の眼差しを向けてきた。
心外だな、俺は普通ではあり得ない程には、強いってのに。
まあ、普通の子供なら出来ないんだろうけどさぁ。
でも、それなら良い考えがある。
「それなら、リーグルさん、私と模擬戦をしませんか?それで、実力を見せれば、納得して頂けるでしょう?」
「ほう、それは本気で言っているのか?」
リーグルさんが、俺を睨んでくる。
多分、なめられてるとでも思っているのだろう。
「ええ、それとも、逃げますか?私は別に良いんですが」
「………!よし、やってやろうじゃねぇか。そこまで言ったんだ。痛い目をみる覚悟はあるんだろうな?」
「あらあら、なんか面白くなってきたわね。皆にも教えてあげなくちゃ」
お母様はそう言って、部屋から出ていく。
俺の異常さを見せる事になるが、まあ、多分大丈夫だろう。
お母様も、ああ言ってたし。
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あの後、流石に部屋では出来ないので、庭に移動した。
俺は既に小太刀腰に装備している。
リーグルさんも、ヘミル兄様と訓練する時と同じ軽装と、ロングソードを装備している。
俺は小太刀を抜き、逆手で構え、リーグルさんもロングソードを抜き、正面に構えてる。
俺達は睨み合い、互いを牽制する。
と、そこで場違いな声が聴こえてきた。
「レミアとリーグルか。レミアも気持ちでは負けていないみたいだけど、流石にリーグルには敵わないんじゃないか?」
「あら、分からないわよ?あの子、夜に見張りに気づかれずに抜け出して、森でゴブリンを倒してきたみたいだし」
「師匠が真剣を使ってる……。俺の訓練でも使った事、無いのに……」
「あぁ、あんな格好いいレミアも良いなぁ」
「リーグルさんも五歳の子供に、あんなに剣呑にしちゃって。でも、この勝負は興味がわくな」
お母様が家族を皆呼んだのだ。
皆、色々言ってるなぁ。
「では、模擬戦を始めます。準備は宜しいですか?」
判定するのは、エチスだ。
俺達は頷いて、了承の意思を示す。
「では………始め!」
そう言ってエチスさんは皆の所まで下がる。
「じゃあ、行きますよ、リーグルさん」
「ああ、いつでも来い。格の違いを見せてやる」
じゃあお言葉に甘えるとしますか。
俺は一気に速度を上げて、リーグルさんに向かう。
間合いに入ったら、右太刀で斬りかかる。
が、それはリーグルさんの剣に防がれる。
まあ、それは予想出来た事だ。
いくら俺のステータスが高くても、それはLv1にしては、だからな。
向こうのステータスの方が高いのは分かってる。
なので、こちらは魔法も目一杯使わせて貰う。
「<ダークボール>」
まだ、戦闘に使える魔法は一つだけだが、それで充分だ。
俺はダークボールを五つ出し、二つをリーグルさんに放つ。
それと同時に俺も走りだし、後ろに回り込む。
「ぬっ!はぁっ!」
俺はダークボールが当たる瞬間、後ろから斬りかかる。
リーグルさんはダークボールを一つかわし、もう一つは剣で対処する。
リーグルさんは俺の攻撃にも冷静に対処して、剣を横に振ってくる。
俺は、それに小太刀を合わせ、上に跳んで避ける。
そのまま逆の小太刀で斬りつけるが、これはかわされてしまう。
俺は一旦離れて、体勢を整える。
リーグルさんは、俺を追わずにその場で剣を構えている。
リーグルさんがこちらを睨みながら、疑問を投げかけてきた。
「レミア様、あんた本当に子供か?はっきり言えば、技術だけなら俺より上だ。ステータスは俺の方が上みたいだがな」
「さあ、どうでしょうね。自分の手の内を明かす馬鹿は居ませんよ」
「それもそうだな。行くぞ!」
リーグルさんが、剣を構えながら間合いを詰めてくる。
俺はダークボールを一つリーグルさんの足下に放ち、リーグルさんの動きを一瞬止める。
「ぬっ、そんなものに当たるか!レミアァァァァ!?!!?」
リーグルさんが、身体をくの字にしながら、後ろに吹き飛んでいく。
それをしたのは勿論、俺だ。
動きを止めた一瞬に、懐に入り込み、腹に一発斬り込んだのだ。
勿論、峰打ちだが。
「ぐ、らぁぁぁ!!」
リーグルさんは途中で体勢を整え、地面を削りながら止まる。
そこで残りのダークボール二つを、リーグルさんの左右斜め上から放つ。
ダークボールはリーグルさんに当たった……………様に見えた。
ダークボールは当たったが、リーグルさんは変わらぬ姿で立っている。
どういう事だ?確かに当たった筈だが。
「レミア様、何故俺がピンピンしてるか、知りたいか?」
リーグルさんが歩きながら、声をかけてくる。
「ええ、教えて貰えるなら」
「ああ、少しだけ教えてやるよ。これは俺の特殊スキルだ。対魔法用のな。俺のとっておきを使わせたんだ。覚悟しろよ」
成る程、特殊スキルか、興味深いな。
まあ、それは後だ。
多分、魔法を吸収するとか、そういうスキルだろう。
なら、こっちもとっておきを使わせて貰うか。
二つ同時に使った事、無いんだよな。
「リーグルさん、リーグルさんがとっておきを見せてくれたので、私もとっておきを出します」
「ほう、やってみろ」
「では……【闇化】【黒鴉之紋翼】」
俺は上半身の服を脱ぎ、スキルを発動する。
セリフィ姉様の叫び声が聞こえたが、今はそれどころじゃない。
俺は姿をどんどん変えていく。
肌は褐色になり、髪は黒く長くなる。
眼は紅くなり、白目の部分が黒くなった。
背中からは翼が生える。
周りから、驚きの声が聴こえてくる。
「あれは……レミアなのか?何か隠しているとは思ったが、あれがそうなのか………?」
「あらら、随分変わっちゃったわね。翼の方は知ってたけど、何かもう一つ使ったわね。後で聞いておかなくちゃ」
「レミア……さっきまでも凄かったが、あれは何だ?大丈夫なのか?」
「キャー、レミアー、格好いいわよー!」
「レミアがこんな事を隠していたとはね。さあ、勝負はどうなるかな?」
「レミア様、こんなものを使えたのですね。リーグルさんも危ないのではないでしょうか」
…………あれ?何か皆軽いな。
まあ、反応が否定的では無いのは良い事なんだが。
リーグルさんは愕然としながらも、話しかけてくる。
「レミア様、それがとっておきか。この感じは………」
「行きますよ、リーグルさん」
「っ!!!?」
俺は低空飛行でリーグルさんに近づき、すれ違い様に斬りつける。
だが、これはギリギリリーグルさんに防がれる。
「こんなものか?なら………」
「まだですよ、リーグルさん」
「え?っっっっ!!?!?!」
俺はすれ違ったら直ぐに天駆で方向転換して、全包囲から連撃を浴びせかける。
リーグルさんも最初は防げていたが、俺の動きについていけなくなり、攻撃が当たり始めた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
リーグルさんは遂に攻撃を防げなくなり、連撃をもろにくらい、傷だらけになった。
リーグルさんがゆっくりと前に倒れる。
ここまでやれば、もう動けないだろ。
俺はリーグルさんの首に刃を当て、言った。
「私の勝ちですね、リーグルさん」
「勝者、レミア様!」
ふぅ、勝った勝った。
なんとか無傷で勝てたな。
俺は小太刀を鞘に仕舞い、皆のところに行く。
お父様とお母様が怖い笑顔を浮かべながら、話しかけてきた。
「レミア、あれはどういう事だ?流石に説明して貰わないと」
「あー、それはですねー」
「レミア、さっきのは何?翼はともかく、髪や肌はどういう事なの?ちゃんと説明して貰えるわよねぇ?」
「うっ、はい、必ず……」
あー、こういう所は似てるんだな。
説明がめんどくさいなー、はぁー。
次は、兄様達が話しかけてきた。
「レミア、凄いじゃないか!リーグルさんを無傷で倒しちゃうなんて!俺も弟には負けてられないな」
「それほどでもないですよ。まだまだ弱いですし」
ヘミル兄様、嫉妬したり、落ち込んだりしないんだな。
良かった、兄弟仲は悪くしたくは無いしな。
「レミアー!」
「うわっ!?」
ヘミル兄様と話し終わると、セリフィ姉様がいきなり抱きついてきた。
この人、ブラコン化がどんどん進んでるんだよな。
今も俺に頬を擦り付けてるし。
「レミア、格好良すぎだよ!いつの間にそんなに強くなってたのー?」
「はは、まあ、それはまあ、秘密で」
「えー、仕方ないなーもう。レミアはわがままなんだから!可愛いし、さっきは格好良かったから許しちゃうけど!」
「は、ははは」
「セリフィ、レミアが困ってるよ」
「あ、ごめんね、レミア。ちょっと興奮しちゃった」
スレア兄様の言葉に、セリフィ姉様が離してくれた。
「レミア、後でちょっとあの姿について聞いても良いかな?魔道具の参考にしたいんだ」
「はい、後でいくらでも」
皆、あの姿を恐れたりはしないんだな。
今までと変わらないで話しかけてくれた。
家族に恵まれたな。
「皆様、そろそろ夕食のお時間になります」
「おお、もうそんな時間か」
エチスの言葉に、皆で大部屋に向かった。
(あー、夕食は楽しみだけど、説明がめんどくさいな)
俺は少し憂鬱になりながら、大部屋に入った。