16話 夜の鴉
夜、いつもなら寝ている時間。
俺は動きやすい服に着替え、外出の準備をしていた。
内緒で街の近くにある森に行って、魔物と戦おうと思っているのだ。
(危険だからって、街の外には出た事が無いんだよな。まあ、お母様達からしたら俺は小さい子供なんだし、当然なんだが)
何故魔物を倒すのかというと、俺のLvを上げる為だ。
後は、鈍った腕を取り戻す為だな。
俺は小さい小太刀をちゃんと腰にくくりつけて、窓から部屋を出る。
二階だが、天駆を使って着地する。
俺は街の方向に向かい、走った。
実際、街までの距離は直ぐ近くだ。
馬車に乗ってるのは、貴族の体裁の為だからな。
さて、街まで下りてきたが、今の時間は夜だ。
子供が一人で歩いていたら、絶対声をかけられてしまう。
てな訳で、裏道を通る事にした。
人数が多い大通りならともかく、人気の少ない裏道なら、隠密を使えば大丈夫な筈だ。
俺は裏道を街の外に向かって、走っていく。
普通なら隠密を使っていても走る足音で気づかれるが、俺は無音歩行を持っているので、誰にも気づかれずに街を囲う、外壁まで来た。
これもかなり高いが、天駆で宙を走り、向こう側に下りる。
(天駆でどうにかなったな。森は……あっちだな)
俺は直ぐに森に向かう。
森の中に入り少し進んでから立ち止まり、身体を休める。
「ふぅー、無事に森に着いたな。てか、この言葉使いも久しぶりだな。やっぱり、こっちの方が楽だ」
貴族だから仕方ないが、冒険者になったらし喋り方もこっちにするか。
「さて、じゃあ魔物を探すか」
小太刀を抜いて逆手に持ち、森を歩き始める。
気配察知と魔力感知は、これまでずっと使っていたので、かなり範囲が広くなっている。
早速、魔物の反応があった。
その方向に走って向かう。
少し走ると、それらしきものが見えてきた。
茂みに隠れて、そいつを観察する。
そいつは小柄な人型だった。
足は短く、腕は長い。
身に付けているのは腰巻きだけで、右手には木の棍棒の様な物を持っていた。
顔はシワだらけで、不細工だ。
この世界の魔物についての本は書庫で読んだ事がある。
「ゴブリン、か。弱い方の魔物だったな。子供の身体だし、最初は丁度良いか」
俺は小太刀を持って、茂みからゴブリンの前に出る。
ゴブリンは突然現れた俺に動揺していたが、直ぐに俺に襲いかかってきた。
「ぎぎゃぁぁぁ!」
ゴブリンが棍棒を振り下ろすが、俺はそれを余裕を持ってかわす。
そのまますれ違い様に小太刀で首に斬りかかる。
小太刀はスパッ、とあまり抵抗なく首を断ち切った。
俺は小太刀を鞘に仕舞い、後ろを振り向く。
ゴブリンの身体は一瞬固まっていたが、直ぐに一瞬で灰になった。
灰に近づくと、灰の中には、小さい透明な結晶と腰布、棍棒が残っていた。
「成る程、この世界の魔物はドロップ式なのか。で?ゴブリンのドロップアイテムは、結晶、腰布、棍棒か。腰布と棍棒は要らないな」
凄い臭いんだよ、この二つ。
結晶は鑑定してみるか。
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【ドロップアイテム・低純度魔石】
【魔力純度の低い魔石。】
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「魔石か、定番だな。ゲームとかなら冒険者ギルドで売れるけど、多分この世界でもそうなんだろうな。まあ、一応回収しとくか」
俺は魔石をアイテムボックスに仕舞い、ステータスを確認した。
「おっ、Lvが上がってる!」
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【レミアーク・ファル・リューナー】
【種族・人間】
【職業・暗殺者/道化師】
【Lv2】
体力 ∞
魔力 5348
筋力 79
耐久 151
敏捷 264
【固有スキル・吸収/不屈/黒鴉之紋翼】
【特殊スキル・無音歩行/天駆/二刀流/闇化/道化/ポーカーフェイス】
【通常スキル・小太刀術/気配察知/魔力感知/魔力操作/隠蔽/礼儀作法/闇魔法/鑑定/詐術/無魔法/時空魔法】
【称号・勇者/闇の化身/転生者/公爵家三男/嘘つき/麒麟児/紋翼の使い手】
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「結構上がってるな。って、吸収もあったんだな。ゴブリンのスキルって何があるんだ?」
俺は吸収を触って、盗れるスキルを確認してみる。
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<ゴブリン>
【特殊スキル・絶倫】
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【特殊スキル・絶倫】
【精が尽きなくなる。】
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「一つだけ、って。ゴブリンってやっぱり雑魚なんだな。しかも、持ってるのがこれって。まあ、貰っとくけど」
今は必要無いけどね!
いつか必要になるかもしれないからね!
「じゃあ、次に……と言いたいが、今日はスキルの検証にしておくか。一応魔物も殺したし」
じゃあ、検証するとしたら二つだな。
黒鴉之紋翼。
これは人の前じゃ試せないからな。
俺は服を脱いで、上半身裸になる。
じゃあ、使うか。
「【黒鴉之紋翼】」
変化は明らかだった。
背中に感覚が増えて、そこからも風の流れを感じる。
首を後ろに向けると、かなり大きな黒い翼が生えているのが見えた。
「重さは全然感じないな。スキルの翼だからか?まあ、別に動きやすいから良いんだけど。じゃあ、飛んでみるかな」
天駆じゃあ、高くは無理だから、楽しみだったんだよな。
「じゃあ……よっと。て、あれ?」
飛ぼうとしてみたが、どうやるんだ?
暫く試していると、翼を動かせば良いと分かった。
まあ、飛べたんだが………。
「よっ、ほっ、うわっと!」
そう、飛べたんだが、思った様には飛べなかったんだ。
多分飛ぶのが上手くなるスキルもあるだろうと思ったので飛び続けると、途中で急に飛びやすくなった。
一度着地してステータスを確認すると、新しいスキルが加わっていた。
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【特殊スキル・飛行】
【空を自由に飛べる様になる。空気抵抗を感じなくなる。体力を消費する。】
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「やっぱりあったか。これで普通に飛べるな。やっと空を飛べるな!」
飛行の影響か、圧力の様なものは感じなかった。
かなり上空を、ゆっくり飛んで、下を見てみる。
「すげぇ………」
空から見る地上は、予想していたよりも綺麗だった。
ほぼ真っ暗だが、その分街の光が際立ってキラキラしている様に感じる。
遠くには山脈の様なものや、うっすらと別の街の明かりが見える。
「凄いな、やっぱりこのスキルを選んで正解だったな。ん?あれは湖か?行ってみよう!」
俺はさっきまでいた森の中に湖を見つけ、そこに着地する。
ここも綺麗な場所だった。
湖には誰も居らず、周りの木々の風に揺れる音や風の音、自然の音のみが聴こえ、湖に差し込む月明かりが神秘さをかもし出している。
「綺麗な場所だな。そうだ、湖で俺の顔を見ておくか。さて、可愛いとかは言われていたが、どんな顔なのか……」
黒鴉之紋翼を解いて翼を消し、服を着直して湖を覗き込んでみる。
湖には幼い子供の顔が写っていた。
髪は銀色でほどほどの長さで切り揃え、顔は小さくて、大きな眼は綺麗な金色をしている。
その両目の下には黒い翼の紋章が刻まれていた。
成る程、確かに美形だが……。
「これ、かなり女の子っぽい顔立ちじゃないか?いや、完全に女の子って訳じゃないし、普通に行動したら大丈夫だろうが、女装してもばれないような……」
いや、本当に女顔だな。
まあ、性格は完全に男だけどな。
「じゃあ、後はもう一つ試さないとな」
それは、闇化だ。
説明読んだだけで、見られたらヤバイって分かるよ。
「【闇化】」
変化は一気に起きた。
説明にあった通り、肌が一気に褐色に変わり、髪が背中辺りまで伸びたのが分かった。
湖を覗き込んでみると、髪の色が黒に変わって、眼は紅く、白目が黒くなっていた。
俺は改めて思う。
「一気に邪悪感が上がったな。やっぱり皆の前だと使えないな、これは」
その後は、闇化を解いて、早めに屋敷に戻った。
ばれたら怒られそうだからな。
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翌日。
「ん、もう朝か。じゃあ、早く着替えて朝食に行かなきゃな」
俺はさっさと着替えて朝食に向かう。
今日の朝食は何かなー。
俺は笑顔で大部屋に入った。
そこには既にお母様が来て、椅子に座っていた。
「お早うございます、お母様」
「あら、お早う、レミ、ア……………レミア、その髪と眼はどうしたの?」
…………………え?