15話 使える魔法
次の日、朝に俺は庭でエチスを待っていた。
エチスに訓練は庭でやる、と言われたのだ。
あ、来た!
「お待たせしました、レミア様」
「いえ、大丈夫ですよ。それで、これから何をするんですか?」
「はい、今日はこれを使います」
そう言って、エチスは丸い水晶を渡してきた。
「これって、もしかして使える魔法属性を判別する……?」
「知っていたのですか。レミア様、使ってみて下さい」
エチスがそう言うので、魔力を水晶に流してみる。
すると、前とは違い水晶には、無色、黒色、灰色の光が輝いた。
おお、増えてる。
無色は、確か無魔法だったっけ。
エチスは、水晶の光を見て、目を見開いている。
「さ、三属性!?レミア様が!?」
「あー、そう言えば、三属性ってかなり珍しいんでしたっけ」
「珍しいどころではありませんよ!三つの属性を使えるってだけで、国が欲しがってるんですから」
「あの、その話しは後にして、訓練は何をするんですか?」
「あ、そうでした。すいません、レミア様。年甲斐もなく、興奮してしまって。それで、訓練でしたね。レミア様のステータスには、どの魔法が載っていますか?」
「闇魔法と時空魔法が載ってます」
「そうですか。では、無魔法を使ってみて下さい。魔法は、念じれば使える魔法が分かりますよ」
使える魔法はマテリアル・スレッドと言うみたいだ。
スレッド……糸か。
俺は右手を誰も居ない場所に向けて、魔力を集めて、まとまった糸が飛び出るイメージをする。
「<マテリアル・スレッド>」
すると、右手から糸がドバッ、と飛び出た。
…………え?終わり?
「あの、失敗、ですか?」
「いえ、無魔法はこういうものです。無魔法は別名、物理魔法と言います。その名の通り、一時的に物質を作る魔法なんです。なので、他の魔法の様に、飛ばしたりは出来ず、作ったものを操るには別にスキルが必要です。糸の場合は、操糸術ですね」
「無魔法か……。本当に他の魔法と全く違うんですね。魔法はどういう風に鍛えたら良いんですか?」
魔法の鍛え方が全く分からないんだよな。
エチスは淡々と教えてくれる。
「魔法は慣れとイメージですね。より明確なイメージをして、使っていくと、慣れて自然に素早く使える様になりますよ」
「じゃあ、これからは?」
「ええ、魔法を一杯使うだけです。私も、メイド長としての仕事があるので、訓練が出来るのは一週間に一回になりますが、宜しいでしょうか?」
「はい、それは勿論。エチスの本職はメイドですから。それより、魔法を使い続けるだけなら、今日はもう大丈夫ですよ。次の訓練の時に、進捗具合を確認して貰えれば」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。失礼します、レミア様」
「いえ、お仕事頑張って下さいね」
エチスは屋敷の中に戻っていった。
さて、じゃあ訓練を始めるか。
(何の魔法からやるかだけど、闇魔法は一応勇者の時に使ったからな。無魔法もさっき使ったし、一度も使って無いのは時空魔法だけか)
じゃあ、時空魔法を使ってみるかな。
時空魔法で最初に使えるのは、アイテムボックスの様だ。
アイテムボックスか、どうイメージすれば良いんだ?
そもそも、仕舞う物が……あった。
俺は庭から自室に戻る。
部屋の机の上には、見た事が無い本が置いてあった。
(ん?この本は……『魔法辞典』か。お父様とお母様が買ってくれたんだな)
俺は椅子に座って、その本を読んでみる事にした。
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目次 一幕<火魔法>
二幕<水魔法>
三幕<風魔法>
四幕<土魔法>
五幕<無魔法>
六幕<雷魔法>
七幕<氷魔法>
八幕<光魔法>
九幕<闇魔法>
十幕<時空魔法>
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俺は時空魔法のページを開く。
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十幕<時空魔法>
初級魔法
・<アイテムボックス>
『異空間を作る。そこには生物は入れる事が出来ず、空間の広さは使用者の魔力に左右される。』
上級魔法
・<未来予知>
『世界に影響を与える未来を、断片的に見る事が出来る。その影響が良いか悪いかは、判断出来ない。』
・<空間斬り>
『視界に入れたものを、空間ごと斬る。空間ごと斬るので、どんなものでも断ち切る事が出来る。』
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(あれ、随分種類が少ないな。まあ、その分強力なのかな。珍しいから、知られてない魔法もあるだろうし)
じゃあ、アイテムボックスを使ってみるか。
俺はベッドの下から木箱を取りだし、蓋を開けて中の物を持ち上げる。
そう、俺が仕舞おうと思ったのは、銀閃だ。
小さい小太刀はこれから使うが、銀閃は暫く使え無いからな。
俺は魔法名を唱える。
魔力をとんでもなく使うが、イメージしなくても魔法は使えるのだ。
「<アイテムボックス>」
すると、ゆっくりと目の前に真っ黒な渦の様なものが現れた。
試しに、銀閃を渦の中に入れてみる。
すると、銀閃はすんなりと渦の中に入った。
このままだと魔力の消費がきついので、一旦魔法を解く。
渦は消え、そこには銀閃の姿は跡形も無い。
今度は先程の渦の向こうに空間があるイメージをして、魔法名を唱える。
今回は魔力もそれほど消費しなかった。
どうやら、多くの魔力と維持する為の魔力が必要なのは、最初だけみたいだ。
俺は渦の中に手を入れて、銀閃をイメージする。
すると、確かに手に何かを握った感触がした。
手を抜いてみると、銀閃が俺の手に握られた状態で出てきた。
俺は銀閃をもう一度アイテムボックスに仕舞い、考える。
(成功か。渦の展開速度も意外と速いけど、戦闘中には使えそうにないな)
まあ、便利そうだし良いか。
時空魔法は今のところこれしか使え無いから、違う魔法を使ってみるかな。
だとしたら、やっぱり無魔法かな。
俺は椅子に座り直し、また本を読む。
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五幕<無魔法>
初級魔法
・<マテリアル・スレッド>
『魔力で糸を造り出す。強度は使用者の魔力に左右される。魔力を送っている間は維持が出来て、長さも伸ばせる。』
・<マテリアル・シールド>
『魔力で盾を造り出す。強度は使用者の魔力に左右される。使用中は宙に浮いていて、魔力を送っている間は維持出来る。』
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(あれ?これは初級魔法しかない。無魔法はそんなに詳しく調べられてないのか?まあ、使える魔法の説明が読めて、助かったけど)
じゃあ、次は闇魔法かな。
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九幕<闇魔法>
初級魔法
・<ダークボール>
『闇の球を造り出す。込めた魔力が切れるまでは、自由に動かせる。範囲は中距離。』
・<ダークランス>
『闇の槍を造り出す。込めた魔力が切れるまでは、自由に動かせる。範囲は中距離。』
・<ダークアロー>
『闇の矢を造り出す。込めた魔力が切れるまでは、自由に動かせる。範囲は遠距離。』
中級魔法
・<ダーク・エンチャント>
『闇の魔力を付与する。込めた魔力が切れるまで効果は持続する。触れているものに限る。』
・<ダークウェーブ>
『闇の波動を放つ。込めた魔力により、効果範囲が変化する。』
・<ダークチェーン>
『闇の鎖を造り出す。込めた魔力が切れるまでは、自由に動かせる。範囲は中距離。』
・<ダークレイン>
『闇の雨を降らす。込めた魔力により、効果範囲が変化する。』
・<ダークファング>
『闇の牙を放つ。放たれた牙は、目の前のものを噛みちぎる。範囲は近距離。』
上級魔法
・<ダークドール>
『闇の人形を造り出す。込めた魔力が切れるまでは自由に動かせる。視覚を共有する。込めた魔力により、効果範囲が変化する。』
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(多いな。まあ、まだ使えるのはダークボールだけだが。いつかは使ってみたいな)
窓の外を見ると、既に太陽が真ん中まで上がっていた。
(ヤベッ、そろそろ昼食の時間だ。ちょっと集中し過ぎたな)
俺は本を閉じ、急いで昼食に向かった。