閑話~鏡 満月の死後~
side~御夏~
満月が死んでから、一週間が過ぎた。
俺達は、満月の死を乗り越えられずに、バラバラになってしまっている。
食事の時に一緒にはなるが、皆顔が沈んでいて、無理をしているのが分かる。
特に酷いのは雅だ。
あいつが満月に好意を持っていたのは見て分かったが、今は部屋から出てこない。
だが、このままでは…………。
「いつまでもこのままじゃあ、駄目だよな。満月が守ってくれたのに」
一度皆で話し合うか。
それで、今後の事を決めなきゃいけない。
皆に伝えると、今夜、俺の返事に集まる事になった。
問題は雅だな。
俺は雅の部屋の扉をノックする。
「雅、俺だ、御夏だ。今後の事について話したい。今夜、俺の返事に来てくれ」
中から返事は無い。
俺はその場から離れて、自分の部屋に向かう。
来てくれれば良いんだが………。
「ん?あれは………」
部屋に入ると、机の上に紙が置いてあった。
出る前は無かった筈だが……。
紙を手に取り、見てみると、そこには一文だけ、文字が書かれていた。
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夜になった。
雅以外の全員が、既に部屋に集まっている。
誰も口を開かず、沈黙がこの場を支配する。
扉からノックの音が聞こえた。
「入ってくれ」
「………………」
雅は黙ったまま部屋に入り、空いている場所に座った。
その顔は、前に見た時よりもやつれている。
俺は椅子に座り、話を始める。
「皆、今日集まって貰ったのは、今後の事を決める為だ。皆はどうしたいと思っている?俺は皆の意見を尊重したいと思っている」
「それは、戦いに参加するかしないか、って事かな?」
「それなら、私は戦うわ。鏡君が私達を守ってくれたんだもの。彼は戦おうとしてたわ。私が立ち止まっている訳にはいかないもの」
観秋は決然とした表情で言った。
どうやら、彼女も自分の意思で、既に決めていたみたいだ。
弥春も観秋に続いて話しだす。
「私も戦います!満月君の為にも、頑張って邪神を倒したいです」
弥春も決めてあったみたいだな。
「それにしても、随分満月と仲良くなってたみたいだな、弥春?」
「えっ!?な、何でですか!?」
「いや、煉城さんを見てれば、気づくと思うよ、満月をどう思ってたかはさ」
柳静が言った通り、ある時から、弥春の満月に対する態度が変わったのだ。
満月自身は気づいて無かった様だが。
弥春は、羞恥に顔を真っ赤にしている。
思わず、皆から笑いがこぼれる。
「俺も勿論戦うぞ。この中で一番強いのは俺だしな。深冬と柳静、それに雅は、どうするんだ?」
「僕も戦うよ!皆に任せるだけなんて、嫌だから」
「勿論、僕も戦いに参加させて貰うよ。君達を放っておけないしね」
「……私も、戦う。満月君の為にも…!」
良かった、皆、少しは元に戻れたみたいだ。
これなら、あの紙を見せても、大丈夫だろう。
「皆に話があるんだ。これを見てくれ」
俺はポケットからあの紙を取り出して、皆の前に差し出す。
そこには、「俺はこの世界に戻ってきた!」とだけ、書かれていた。
雅は気づいたみたいだな。
「御夏、これがどうかしたのかい?」
「ああ、皆は満月の最後の言葉を、覚えてるか?」
「え、確か「俺は必ずこの世界に戻って来る!」だった様な……あ!」
「気づいたか?これは……」
「満月君からの、メッセージ……?」
「ああ、多分な。あの時は、周りには俺達しか居なかったし、間違いないだろう」
「満月がこの世界に居る、って事?」
「そんな、あり得ないでしょ」
まあ、そう思うのは当然だよな。
「だけど、俺達はこうやって、勇者として異世界に召喚されてるんだぞ?転生だってあるかも知れない」
俺の言葉に、皆は息を呑む。
「それにあの満月だしな。何とかして、戻って来るだろう」
「ねぇ、御夏。貴方、最初から妙に鏡君を信頼してたけど、向こうで面識があったの?」
「ん?ああ、昔、ちょっとな。せっかくだし、話しておくか」
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あれは、俺が中学生の時だ。
その時には、俺は武術を習っていて、少し天狗になってたんだ。
ある日、学校から家に帰る途中に、他校の不良が俺の学校の生徒を恐喝してるのに、でくわしたんだ。
俺は天狗になってたから、当然首を突っ込んだ。
その時は不良をボコボコに出来たし、生徒も助けられたんだ。
でも次の日、下駄箱の中に手紙が置いてあったんだ。
それで呼び出されて、街の外れにある廃工場に行ったんだ。
そしたら…………。
「よおぉー、待ってたぜぇー、正義の味方君」
ボコボコにした奴等が、仲間を連れてやって来たんだ。
数は100人位だった。
普通なら逃げるだろう?だけど、俺は……。
「さっさとかかってこいよ、雑魚が」
「こんの、糞野郎がぁぁ!!」
案の定、ボコボコにされたよ。
数で攻められて、何をする暇も無く。
その時は、何で俺が、俺は強い筈なのに、ってそればかり考えてたな。
でも、その時、突然後ろの方にいる不良が吹き飛んだんだ。
何事かと思った。
不良はどんどん倒れていって、数分後には、もう不良は全滅してたんだ。
満月は息を全く切らさずに、その場に立っていた。
俺は動けなかったよ。
自分が弱いって気づかされてな。
満月は気がついたら居なくなってた。
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「それで、その後は勉強にも武術にも、もっと真面目に取り組む様になったんだ」
なんか恥ずかしいな。
俺の話を聞いた観秋が言った。
「御夏にそんな事があったんだねぇ。あの時の入院にも、納得がいったわ。じゃあ、治予は何で鏡君を好きになったの?」
「私は、高校の一年の時に、先輩に虐められてたんだ。でも、満月君が助けてくれて、それから気になりだしたの」
「はぁー、満月って向こうでも強かったんだね」
皆もう大丈夫だな。
次は俺達の目的だな。
「じゃあ、俺達の今後の目的は、転生した満月の捜索と、邪神を倒して世界を救う。これで良いか?」
「うん、大丈夫だよ。満月君、絶対見つけてやるんだから」
はは、弥春も相当満月に惚れてるな。
待ってろよ、満月。
直ぐに見つけてやるからな。