13話 小太刀と家族の日常
あの日から五日後。
屋敷に俺宛の荷物が届いたと、メイドが木箱を置いていった。
あ、言い忘れていたが、俺は既に自分の部屋が与えられている。
いやー、広いし、結構気に入ってるんだよね。
それに、魔力の訓練も流石に三年もやってたから、息をする様にとまではいかなくとも、かなり自然に出来る様になっている。
と、それよりも今は木箱だ。
恐らくこれは、リマスさんからの配達品、つまり小太刀だろう。
俺は木箱を開けて、中の布をめくる。
「おお、小太刀だ…。だけど、今の俺には持ち手も刀身の長さも合って無い様な……ん?これは、手紙?」
送られてきた小太刀は、柄頭から鞘の先まで真っ黒だった。
鞘から小太刀を抜いてみると、銀色の刀身が窓から入ってきた光を反射している。
小太刀を見て首を捻っていると、木箱の中に手紙があるのを見つけた。
小太刀を置いて、手紙を読んでみる。
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レミアへ
よう、レミア!小太刀は無事にそっちに届いたか?
サイズが合わなくて、驚いただろう。
今作っても直ぐに小さくなって使えなくなると思ってな。
大きくなっても使える様に、でかい奴を作っておいた。
ちゃんと今から使える様に、小さい奴も作ってあるから安心しろ。
その小太刀、大切に使うんだぞ!
<リマス鍛冶工房>リマスより
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「小さい奴……これか。確かに小さいが、まだ俺には大きいし、五歳までは使えるな」
木箱の下の方に置いてあった小太刀は、さっきの小太刀の縮小版のようなものだった。
「あ、そう言えば、まだ鑑定で見てなかったな。見てみるか」
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【小太刀・銀閃】
【二刀一対の小太刀。斬れ味上昇の効果が付与されている。かなりの業物。】
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【小太刀・訓練用小太刀】
【訓練用の小太刀。子供用に小さく作られていて、斬れ味は少し悪くなっている。】
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「銀閃……か。随分と凄い物を作って貰っちゃったな。大切に部屋に保管しておこう」
銀閃を木箱に仕舞い、ベッドの下に隠しておく。
「じゃあ、訓練を……と言いたいが、流石に三歳児がやってたらおかしいからな。これも部屋に置いておくか。それで俺がやる事と言えば、また書庫で本でも読むかな」
結局、やる事は変わってないな。
俺は苦笑いをしながら部屋から出て、書庫に向かう。
本来なら、俺はメイド長(出産の時のメイドだ。どうやらエルフだったらしい)の授業を受ける筈なのだが、必要な知識は書庫に通っていたので既に覚えてしまっていて、貴族としての振る舞いも兄弟達を見て出来ているので、授業を受けなくても大丈夫だとメイド長さんに言われ、俺はやる事がなくなったのだ。
因みに、今着ているのはあの日の買い物で買って貰った服だ。
真っ黒の、貴族が着る様な高価な半袖短パンだ。
キチンと装飾が施されていて、一目で高いとわかる。
と、書庫の前に着いた。
今回は歴史書を読むので、その間、リューナー家について話しておこう。
リューナー家は、大きな権力を持つ大貴族だ。
王家から王都の近くの領地を与えられており、リナーベルと言う街に屋敷を構えている。
当主、ピリアム・フォラ・リューナーは、領民からの信頼が厚く、多くの領民に慕われている。
その保有兵力は大きいが、私利私欲の為に使われた事は、一切無い。
なので、屋敷にも兵士は沢山いるが、仕事の方に全力で当たって貰う為、ヘミル兄様の剣術の指導には、冒険者のリーグルさんが雇われたのだ。
先代は早めに当主の座を退き、今はお婆様と一緒に隠居旅行中らしい。
と、読み終わった。
「あー、もうやる事が無いな。皆の様子でも見てくるかな」
何もやる事がなくなったので、屋敷をぶらつく事にした。
最初は庭かな。
この時間なら、まだヘミル兄様とリーグルさんが訓練をしている筈だ。
庭に出ると、二人は丁度模擬戦を始めたところだった。
邪魔しちゃ悪いので、隠密を使って出入り口辺りの壁に寄りかかって見ている事にする。
最初に仕掛けたのは、ヘミル兄様だった。
使っているのは、片手剣型の木剣かな。
左手は何も持っていないが、多分、魔法用になるんだろう。
ヘミル兄様は木剣を縦に振り下ろす。
リーグルさんはこれを軽く避けて、木剣を横に振る。
ヘミル兄様はそれを下から斬り上げて、後ろに回避しようとする。
が、リーグルさんは弾かれた反動を利用して、そのまま一回転してヘミル兄様の首に木剣を当てた。
リーグルさんの勝ちだな。
ヘミル兄様も八歳なのにあの動きって、凄くないか?
やっぱりリューナー家っておかしいな。
「昨日より判断が速くなってたな。だが、まだ型にとらわれているぞ」
「だって師匠、私はまだ八歳ですよ?出来る訳無いじゃないですか」
「ほう?そんな弱気を言って良いのか?」
「いいんですよ、どうせ師匠以外は誰も聴いてないし」
「じゃあ、あそこに居るのは誰だ?」
「え?あそこって………レミア!?ま、まさか今の聞いてたか?」
「はい、はっきりと!」
リーグルさんに言われて俺に気づいたヘミル兄様が聞いてきたので、元気に答えておく。
俺の返答に、ヘミル兄様は肩を落とす。
「ヘミル兄様、大丈夫ですよ。誰でも弱気になる事はありますから」
「あ、ああ、ありがとな、レミア。でも、三歳児に教えられる俺は一体……」
ヘミル兄様は苦笑いしている。
まあ、普通三歳児が言う言葉じゃないからな。
ヘミル兄様と話していると、リーグルさんが話に割って入ってくる。
「よう、レミア。悪いが、まだ訓練があるから、話は後にしてくれないか?」
「あ、はい。こちらこそ、訓練の邪魔をしてすみません。ヘミル兄様、じゃあね」
「ああ、じゃあな、レミア」
俺は二人から離れて屋敷に戻る。
次は……セリフィ姉様のところかな。
俺はセリフィ姉様の部屋に向かう。
扉のノックして中に呼び掛ける。
「セリフィ姉様ー、レミアです。入っても良いですか?」
「うん、入ってー!」
返事が返って来たので、部屋に入る。
セリフィ姉様は窓際の椅子に座っていた。
「それでレミア、何か用があったの?まあ、いつでも来てくれて良いんだけどねー。あ、レミア、そっちじゃなくてここ!」
「え、はい、分かりました」
向かい側に座ろうとしたら、セリフィ姉様が自分の脚を叩いてそう言ったので、一瞬戸惑うが、直ぐに従う。
座ったら、直ぐにセリフィ姉様が抱きついてきた。
「それで、レミア。本当は何か用があったの?」
「いえ、やる事が無いので、屋敷の中をぶらついてただけですから。セリフィ姉様は何をしていたんですか?」
「私はねー、お勉強してたんだよー。でも、レミアが来たから、一緒に遊ぶの!」
その時、扉がノックされ、メイド長さんが入ってくる。
「セリフィ様、失礼します。あら?レミア様もいらしたんですか?」
「うん!今日は勉強やめて、レミアと遊ぶのー!」
「駄目ですよ、セリフィ様。レミア様はもう出来ていますが、貴女はまだなんですから」
「えー、そんなー」
メイド長さんは、俺に目線を合わせて言う。
「レミア様、申し訳ありませんが、セリフィ様と遊ぶのは、また今度にしてくれませんか?セリフィ様は、これから勉強ですので」
「はい、分かりました。セリフィ姉様、また今度遊びましょうね」
俺は床に降りて、部屋から出る。
最後に一言。
「セリフィ姉様、お勉強頑張って下さいね」
「!うん!お勉強頑張る!」
セリフィ姉様がやる気になったのを確認し、その場から離れる。
メイド長さんも頬を赤くしてた様な気がしたが、俺の顔ってそんなに格好いいのか?
そう言えば、鏡をちゃんと見た事が無いんだが。
まあ、今は次、何処に行くかだな。
お父様は街に行ってるし、お母様もお父様と一緒に行ったから……。
スレア兄様の所かな、やっぱ。
俺はスレア兄様の部屋に向かう。
「スレア兄様!レミアです、入ってもいいですか?」
「うん、入って良いよ、レミア」
スレア兄様は、本を読んでいたみたいだ。
だが、あの本は書庫では見た事が無い。
「スレア兄様、その本は何ですか?」
「ああ、この本?この前、父上が買ってきてくれたんだ。『魔道具図鑑』って本なんだけどね、意外と面白いんだ」
「へぇー、魔道具の図鑑ですか」
確か職業も魔道具職人だったし、そういうのが、気になるのか?
「レミアも読むかい?よく書庫に居るし、本が好きなんだろう?」
「いえ、確かに本は好きですが、そういうのはスレア兄様に任せますよ。私は、今は別の本が読みたいので」
「別の?何の本を読みたいんだい?」
「魔物についての本です!」
いつか戦う事になるだろうから、調べておきたいんだよな。
「へぇ、じゃあ今度父上に頼んでみたら?レミアのお願いなら、簡単に聞いてくれるよ」
「はい、そうしてみます!あ、もうそろそろ夕食の時間ですね。スレア兄様、一緒に行きましょう!」
「うん、行こうか」
夕食は何かなー。