12話 街で買い物
俺は三歳になった。
ヘミル兄様は、八歳になり、以前よりも体が大きくなっている。
セリフィ姉様とスレア兄様も、精神的にも成長してきている。
まあ、まだ子供だが。
俺はずっと魔力の訓練を続けてきた。
そのせいか、ステータスがとんでもない事になっている。
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【レミアーク・ファル・リューナー】
【種族・人間】
【職業・暗殺者/道化師】
【Lv1】
体力 ∞
魔力 2759
筋力 23
耐久 47
敏捷 86
【固有スキル・吸収/不屈/黒鴉之紋翼】
【特殊スキル・無音歩行/天駆/二刀流/闇化/道化/ポーカーフェイス】
【通常スキル・小太刀術/気配察知/魔力感知/魔力操作/隠蔽/礼儀作法/闇魔法/鑑定/詐術/隠密】
【称号・勇者/闇の化身/転生者/公爵家三男/嘘つき/麒麟児】
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三歳でこのステータスって、やっぱり高過ぎだよな。
スキルも偽装が隠蔽に進化した。
その時は驚いたが、書庫で調べてみたら、スキルにLvは無いが、熟練度が一定に達すると上位のスキルに進化するらしい。
隠蔽の効果は、偽装の強化版だ。
新しいスキルも手に入った。
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【通常スキル・隠密】
【気配が薄くなり、気付かれ難くなる。体力も魔力も消費しない。】
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これは夜中に隠れて行動してたから覚えたんだろうな。
あとは、新しい称号がついた。
その内容がこれ。
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【麒麟児】
【成長が異様に早い子供。成長速度が更に上がる。】
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勇者と転生者に加えてこれまで加わったら、大変な事になりそうだな。
「レミア、準備は出来た?」
「あ、お母様!はい、もう出来ました」
あ、そうそう。
当然もう三歳なので、喋れる様になっているし、歩ける様にもなった。
今日はお母様とセリフィ姉様と一緒に、街に買い物に出かける事になっている。
初めての街だ。
外で遊んだりはしていたが、街に行った事は一度も無い。
「お母様、早く行きましょう!」
「フフッ、慌てないの。ほら、セリフィはもう馬車の中で待ってるわよ」
そうお母様が言うので、馬車に急ぐ。
「セリフィ姉様、お待たせしました」
「レミアー!今日も可愛いわねー!今日は何が買いたい?お母様なら何でも買ってくれるわよ」
「ほら、セリフィ、レミア。そういうのは馬車に乗ってからにしなさい」
「「はーい!」」
俺達は馬車に乗って街へ向かう。
セリフィ姉様は、ちょっとブラコン気味なんだよな。
さて、話の続きだ。
「で、レミアは何が買いたいの?」
「そうね、レミアは何が欲しい?」
俺が欲しい物かー。
今欲しいのは、やっぱりあれだな!
「お母様、私は武器屋に行きたいです!」
「えー、武器屋?何でそんな所に?」
「フフッ、レミアも男の子だって事ね。分かったわ。最初は武器屋に寄って貰いましょう」
お母様がそう言って、御者に行き先を伝える。
その後も、楽しく話しながら街に進んでいった。
暫くすると、馬車が止まった。
御者の人が、馬車の扉を開けて言う。
「奥様、到着致しました」
「ありがとう。さぁ、セリフィ、レミア、降りるわよ。」
馬車を降りると、そこは大通りではなく、寂れた人通りの少ない裏道の様な所だった。
目の前の建物を見上げると、掠れていて読みづらいが、<リマス鍛冶工房>と書かれているのが分かった。
「お母様、ここは?」
「私とお父さんが昔世話になってた人の工房よ。元は王都で修行してたんだけど、私達についてきてくれたの」
へー、じゃあ信頼出来る人なんだな。
お母様が扉をノックして中に呼び掛ける。
「リマス!わたしよ、マリア!」
「あー、うるせぇな!そんなに叫ばなくても聴こえてるよ!」
扉が急に開き、男の人が出てきた。
お母様は直ぐに後ろに下がって、扉を避けている。
流石、Lv59。
出てきた男の人は背が低く、顔は髭もじゃだった。
この特徴はもしかして………
「ドワーフ……?」
「ええ、腕は確かよ。ねぇ、リマス。仕事を依頼したいんだけど、いいかしら?」
「なんだ、仕事か。さっさと中に入んな。どうせ断ったって意味無いだろう」
「あら、分かってるじゃない。ほら、レミア、セリフィ、行くわよ」
中に入ったリマスさんを追いかけて、お母様も中に入る。
俺も中に入ろうとするが、セリフィ姉様が動かない。
(やべー、セリフィ姉様の事、忘れてた)
「せ、セリフィ姉様…?」
「何、レミア?」
うわ、ちょっと涙目になってる。
「一緒に行きましょう!」
「!うん!行く!」
ほっ、なんとか笑ってくれた。
俺とセリフィ姉様は手を繋いで、建物の中に入った。
中ではリマスさんとお母様が何か話していた。
リマスさんは俺の方を見ると、こっちに歩いてくる。
はっきり言って、子供には怖いだろう。
セリフィ姉様が俺の前に立って、俺を守ろうとしてくれた。
まあ、泣きそうになってるけど。
それを見たリマスさんは、少し慌てながらお母様の方を向いて聞く。
「な、なあ、俺の顔はそんなに怖いか?」
「え、ええ…フッ、フフッ、子供には怖いんじゃないかしら。……フフッ」
お母様は可笑しそうに笑っていた。
お母様…………。
リマスさんが肩を落としてるじゃないか。
俺はリマスさんに近づいて脚を叩く。
そこしか届かないんだよ!
「ん?何だ、坊主。お前は怖くねぇのか?」
「ええ、全然。だから、そう気落ちしないで下さい」
「お、おう、ありがとな、坊主!お前、名前は何て言うんだ?」
「私はリューナー公爵家の三男、レミアーク・ファル・リューナーと申します。レミアとお呼び下さい」
「ああ、お前が新しく産まれたって奴か。宜しくな、レミア」
ふぅ、問題無く仲良く出来そうだな。
ふと、お母様の方を見ると、こっちを見て、驚いた顔をしている。
「レミア、貴方、リマスに気に入られるなんて、凄いじゃない。ドワーフに気に入られるのは、凄い事なのよ」
「うるせぇよ。それで、今回の仕事は、レミアに武器を作ってやれば良いのか?」
「そうよ、ねぇ、レミア?」
「ええ、その通りです」
お母様、俺が武器を欲しいって分かってたんだな。
武器屋に行きたいとしか、言ってないのに。
リマスさんが、俺の方を向いて聞いてくる。
「まあ、こいつなら作るのは構わないんだがな……。レミア、お前はどんな武器が欲しいんだ?」
俺が欲しい武器……決まってる。
「小太刀を二本欲しいんですけど、作れますか?」
「小太刀か。ああ、あれは鍛冶スキル以外にも刀匠スキルが必要だから作れる奴は少ないが、俺は作れるぞ。なんたって、俺は世界中を回って修行したんだからな!」
世界中って……凄いな。
何はともあれ、作れるのなら良かった。
「じゃあ、お願いします、リマスさん!」
「おう、任せろ!まずは採寸だ。と、まだ立ったままだったな。こっち座れ」
リマスさんがお母様の向かいに座ったので、俺とセリフィ姉様はお母様と同じ側の椅子に座る。
「じゃあ、レミア、手を出せ」
「はい」
「あっ……」
リマスさんの言う通りに手を出したら、セリフィ姉様がちょっと悲しそうに声を出した。
手を戻しかけるが、我に返り、リマスさんに手をちゃんと差し出す。
リマスさんは、俺の手をじっくり見ると、頷いた。
「よし、もう良いぞ」
「え?もう良いんですか?」
「ああ、鍛冶屋を長く続けてると、見るだけで分かるんだよ」
ふーん、流石は職人、てところかな。
「小太刀はいつ出来ますか?」
「そう慌てんなって。今週中には届けてやるから、屋敷で待っとけ。マリア、金はいつも通りリューナー家からで良いのか?」
「ええ、勿論。じゃあ、今日はこれで失礼するわね」
「今日はありがとうございました、リマスさん。小太刀、楽しみにしてます!」
「あ、あの、ありがとうございました……」
「おう!また来いよ!嬢ちゃんもな」
リマスさんに笑顔で送り出されて、俺達はその場をあとにした。
馬車に乗って、お母様に聞く。
「お母様、この後はどこに行くんですか?」
「そうね、服を買いに行こうかと思うんだけど、セリフィは何処に行きたい?」
「えーとねー、私も服を買いに行きたい!レミアに服を選んであげるの!」
「ありがとうございます、セリフィ姉様」
「二人は本当に仲が良いわねぇ。(なんか、レミアの方が大人な気がするけど、気のせいよね?)」
お母様、聴こえてるよ……。
セリフィ姉様は聞こえなかったみたいだけどね。
そんなことをしている間に、服屋に着いたみたいだ。
馬車を降りると、さっきとは違い、大通りの様だった。
目の前にはリマスさんの工房と違い、綺麗な大きい建物が建っている。
建物の中には、服が一杯並んでいるのが見えた。
お母様について、店の中に入っていく。
「「「「ようこそいらっしゃいた、マリア様」」」」
中に入ると、店員さん達が並んで出迎えてくれた。
奥から40歳位の女性が歩いてきた。
女性はパーティードレスを着ている。
「あら、マリア様。毎度ごひいきにして頂き、ありがとうございます。今日は何をお探しで?」
「ああ、リーエル。今日はレミアの服を買いに来たのよ。セリフィがレミアの服を選ぶみたいでね」
ここはお母様が常連になってるんだな。
リーエルという女性は、お母様の言葉に俺を見て、顔に笑みを浮かべる。
「あらあら、随分と可愛い子ですねぇ。えーっと、マリア様、この子は男の子ですよね」
「ええ、確かに女顔だけど、男の子よ」
そう、どうやら俺は中性的な顔立ちをしている様なのだ。
まあ、そんなに気にしてはいないが。
そんな事を考えていると、俺の腕をセリフィ姉様が引っ張ってきた。
「レミア、私が決めてあげる!行こ!」
「はい、セリフィ姉様」
「あら、じゃあ、私がアドバイスを差し上げますわ」
リーエルさんが俺達についてくる。
「駄目!私が決めるの!」
セリフィ姉様は少し怒った表情でリーエルさんを睨み付けている。
何でそんなにかたくななんだ?
と、リーエルさんがセリフィ姉様に何か言っている。
「(セリフィローナ様、もし似合わない服をプレゼントしてしまったら、レミアーク様に嫌われてしまいますわよ?)」
「!り、リーエル。やっぱり、教えて!」
「はい、勿論です」
何かセリフィ姉様、焦った表情になったな。
俺達三人は、店の奥に進んでいく。
「ところで、セリフィローナ様。本日はレミアに服を買って差し上げるとの事でしたが、どの様な服をお買いになるのですか?」
おお、それは俺も気になるな。
リーエルさんの質問に、セリフィ姉様は周りを見回しながら答える。
「えっとねー、レミアは黒が似合うと思うから、黒い服を買うの」
「黒ですか、ならあちらですね」
リーエルさんの先導に従って進むと、黒い服が並んでいるエリアに来た。
ここからはもう、俺は着せ替え人形状態だ。
リーエルさんのアドバイスを聞いてセリフィ姉様が選んだ服を、どんどん着ていく。
「じゃあ、これとこれとこれ!リーエル、大丈夫だよね?」
「ええ、問題ありません」
「じゃあ、お母様を呼んでくる!」
セリフィ姉様は走っていってしまった。
せっかくなので、リーエルさんと話すか。
「リーエルさん」
「はい、何でしょうか、レミアーク様?」
「セリフィ姉様の事を気にかけてくれてありがとうございます。お陰でセリフィ姉様も、あんなに喜んでました」
「…………レミアーク様はまだ子供、ですよね?」
リーエルさんが聞いてくる。
何を当然の事を聞いてるんだ?
「あはは、何言ってるんですか。当たり前でしょう。私は普通の三歳児ですよ」
「そ、そうですか」
(普通の三歳児は、姉の事をあんな風に気にしたりはしないんだけど……)
「リーエルさん?」
「い、いえ、何でもありません」
リーエルさんが何か考えていたが、俺が気にする事ではないだろう。
あ、お母様とセリフィ姉様が来た。
「お母様、お母様も決まったんですか?」
「ええ、もう決まったわ。リーエル、店員に運ばせて置いたから、それを全部買うわ。代金はいつも通りにしてちょうだい」
「畏まりました。またのお越しを、お待ちしております」
「今後も宜しくね」
俺達は店から出て、馬車に乗って屋敷に帰る。
買った服は山の様になっていた。
それを見て俺は思った。
(家って、公爵家なんだなー)
変なところで自分が公爵家だと実感した一日だった。