第2話:食料を確保すべく、釣り竿を作らんとする
島の焼けた砂浜に倒れ、俺はそのまま焼け死んだ。
あの世への道をぼんやり歩く俺に、天の声が響き渡った。
『おおスペランカー・タクヤよ。死んでしまうとは、ひ弱もの』
「イラッとする言い方やめてください、女神様」
半分拗ねた俺に、ぼんやりとした光の女神像が浮かび上がる。
『タクヤよ。私は、スペランカー体質の者を司る愛女神レムです』
「おー……それはそれは、天界にも色んな役職がありますね」
光の像から、ムッとした雰囲気が伝わってくる。
やばい、怒らせたかも。ご機嫌取ろう。
「ははー。略して愛レム様ですね」
『ふふふっ。可愛い呼び方、気に入りました』
チョロいぜ。
『さて……貴方を無人島に召喚した事、理由はあります』
うわ。ただの島でも生存が難しそうなのに、無人島だったのかよ。
『ですが、まずは生きなさいタクヤ君。貴方の願い、そのままに』
「ぼやっとした目標ですね、女神様」
『それでは二周目、行ってみましょう。頑張りなさい、タクヤ』
***
まばゆい光に包まれた次の瞬間、俺は無人島の砂浜に居た。
焼けた砂浜ですら重大死因となりうるエキゾチック・アイランドだ。
「砂浜から離れるか。また何かの拍子に倒れたら、目も当てられない」
小石や貝殻を慎重に避けて、砂浜沿いに生える木々の日陰へと進む。
そして、島での生存を目指す為、自分の持ち物を整理した。
ゲーセンの制服上下、ポケットには二つ折り財布。
財布の中は二千円と十円玉が一つ。
後は……お、安全祈願のお守りみっけ。
「って、これだけかよ!」
スマホやライターどころか、ナイフもペンすらも無い。
こんなので、どうやって生還しろってんだ。
「ま、ゲーセンのバイト中に倒れたしなぁ。仕方ないのか……」
うーん。悩んでいても仕方がない。
俺はとにかく、やるべき事を見つけた方は良いと判断した。
「まずは、食料の確保かな」
衣食住の充実が、人間らしい暮らしの一歩だろう。
その中で『衣』と『住』は我慢できても『食』だけは放置できない問題だ。
釣り竿でもあれば、目前の海で魚が釣れるかもしれないのになぁ。
「いや、無ければ作れば良いんだ! それこそサバイバー。まずは釣り竿を作るぞ」
俺は釣り竿を作る為の材料を考える。
竿は木の枝で良いだろう。糸はツタや草を編んで作ってみよう。
しかして肝心なのは、魚を釣る為の『釣り針』である。
これが無ければ、幾ら竿で糸を垂らしても駄目だ。
「そうだ! 細い小枝を針のように尖らせて、糸に結んでしまえば良い!」
我ながらナイスアイデアだ。
スペ体質で危険だからと二の足を踏んでいた野外活動、案外に才能があったのかも。
何事もやってみなきゃ、自分との相性なんて分からないね。
「そうと決まれば、尖った針作りだ。その辺の森から都合の良い小枝を拾っ」
俺は目についた小枝をヒョイッと掴む。
それがいきなり『ガサガサッ!』と激しく動き、たくさんの節から細長い足が飛び出した。
「ひぃぃー! 気持ち悪いぃいいいい!」
ちーん。
***
『……え? 死んだのですか!? アレで死んだのですか!!?』
光の女神像が慌てた様子で叫ぶ。
ここは黄泉路。そこを歩く俺が居るって事は、つまり死んだのだ。
「いやその、なんと申しましょうか」
頭なんか掻いてる俺を、やや狼狽しながらも女神は優しい光で包んでくれた。
『仕方の無い子ですね、タクヤ。でも私は貴方を導きましょう』
「そもそも、なんで俺は無人島に居るんでしょうか?」
拗ねた態度で、もっともな疑問を俺は女神愛レム様へとぶつけた。
そんな俺を諭すべく、彼女は話し始める。
『貴方は、あまりにも死に易すぎるのです。死神たちから苦情が来るくらいに』
そう言って、女神様はクレームを入れる死神たちのビジョンを見せた。
曰く『休暇中に緊急で呼び出されたら、連休疲れで死んでるタクヤ』。
曰く『枯れ尾花、幽霊の正体見たり、タクヤの死体』。
曰く『友達に噂されたら恥ずかしいし、と女子との帰宅を断られて死んだタクヤ』。
「観ているだけで、情けなさで死にそうです」
『貴方なら死ねます、我慢なさい』
コホンっと咳払いし、女神は話を続ける。
『このままでは現世の蘇生に成功しても、死神が強引に地獄送りとするでしょう』
「ええ? じゃあどうすれば」
『それは、貴方の生きたい、という気持ちを死神たちに証明しなさい』
と、言われてもなぁ。
口では拒んでいても、身体は素直に死んじゃう俺だ。
悔しい! でも……ビクビク!(瀕死) てな感じのただれた毎日である。
その死にまくりな俺が、どうすれば生きたい事を証明できるのか。
『貴方が孤立無援の無人島から生還する。これぞ生の証明となります』
「なるほど、完璧な計画ですね。不可能って事を除けば」
『いきなり諦めてはいけません。諦めたら人生終了ですよ』
既に二回死んでるわけだが。
『貴方が諦めない限り、私が何度でも蘇らせてあげます』
「うぅん……」
『生還の暁には、スペ体質の改善をお約束しましょう』
「必ず無人島から脱出してみせます。私の手際をご覧あれ、愛レム様」
よっしゃあ! こうなったら何が何でも、無人島から生還してやるぜ!
「ところで、自分ではよくわからなかったんですが、今回の死因は何だったんです?」
『ああ、それはですね……』
死因:小枝に擬態してた昆虫ナナフシを掴んでしまい、気味の悪さにショック死。
来世に続く!
読んでくださり、ありがとうございましたっ。
次の話の投稿予定は、二時間後です。