第11話:焚き火で魚を焼いてみる
『どうやら、あの子と無事に話し合いが出来たようですね』
「無事も何も、死んでますよ女神様」
俺は女神像に真顔でそう返事をした。
ここは黄泉の国。俺にとっては、勝手知ったる他人の我が家だ。
できれば、ずっと他人の家であって欲しいんだが。
『リアは真面目な子ですが、私に似て責任感の強い所があります』
「あー。スペ体質者を無人島生活させる責任とか、しっかり果たしておられますしね」
『何度でも生き返らせてあげますよ。それが私の責任ですから』
皮肉を真っ向から受け止められた。おのれー。
「そんなリアの責任感を考えれば、あまり一人にさせたくありません」
『分かりました。では早速、貴方を蘇らせましょう』
女神像から光が注がれる。
『さぁ行きなさい、スペランカー・タクヤよ。リアが待っています』
***
目が覚めると、俺はシダを重ねて作った小屋の傍で倒れていた。
その俺の隣には、他の獣から俺を守らんとして不動の白狼が居る。
リアだ。
「あー、よく寝た。もう死んでるのか寝ているのか、よく分からねぇや」
「そんなの笑えませんよ、タクヤさん」
俺が目覚めた事に気付いたリアが、狼の姿のまま溜息をつく。
尻尾の先で、俺の頭をペンペンと叩いてきた。
「やめてやめて。死んじゃう」
「ほら、起きて下さい。一緒に小屋を直しますよ」
そうだ。小屋はひょんな事でまだ壊れたままだ。
これをちゃんと直して、住めるようにしなければ。
「と言っても、木組みの骨にシダをまとわせるだけだ。簡単簡単」
「じゃあ一緒に作ってしまいましょー」
色々あってヘコんでいたリアも、すっかり元気を取り戻したようだ。
尻尾をパタパタと振って、散らばったシダを咥えて集めてくる。
この調子なら、完成までに日が暮れる事は無さそうだ。
「そうだ。夜までに焚き火を作っておきたいな」
「獣とかに襲われたら大変ですものね」
以前、俺はキリモミで焚き火の火種を作った事がある。
その時は、女神様から「動作が加速する赤い液体」を貰っていた。
道具こそ揃っているが、普段通りの力しか出ない今の俺では難しそうだな。
「赤い液体ですか。少しなら私でも用意できますよ」
「でかしたっ。じゃあ善は急げだ、頼むぞ」
流石、女神の化身である。
「ただ速度を制御できず、スペランカー体質の人は結構死んじゃうんですよね」
「あー、うん。わかる気がするわ」
身体能力が上昇しても、耐久力は全く変わっていなかった。
そりゃ持て余して死んじゃうわな。
***
「おお、燃えた燃えた。炎の女神が俺に微笑んでいるっ」
赤い液体の力で高速キリモミし、今、こうして焚き火に成功した。
やはりサバイバルと言えば焚き火だな!
「この命の根源に触れる如き暖かさ……まるで俺を手招いているようだ」
「火に近付き過ぎたら死んじゃいますよー」
炎の女神というか、炎の死神だな。うーん、むせる。
いや、前にむせて死んだんだけどな、実際。
「この火を明かりに使うのも悪くないけど、せっかくだしな」
「せっかく、ですか?」
「うん。やはり、アレをやりたいだろう」
俺は枝を用意し、そこに魚を突き刺す仕草をする。
焚き火で魚を焼く! これぞ、サバイバルの醍醐味!
「釣り竿のレシピは、以前に考えるだけ考えておいた」
「じゃあ、私が素材を手配します。釣りそのものは」
「おう。俺に任せろっ」
釣ってやるぞと勇ましく、俺は腕を振り上げる。
それはまるで、見えない大漁旗を翻しているかのようだった。
だが……。
「釣れるには釣れたけど、やばいっ。めっちゃピチピチしてるっ」
「危ないです、タクヤさん! 逃げて逃げてぇ」
即席の釣り竿に掛かり、必死で尾びれを振る魚。
下手に触ろうものならば、ビンタを食らって死んでしまうだろう。
リアも大慌てで、糸の先で跳ねまわる魚を咥えようと駆け回る。
「おいおい、大丈夫か? 今度はリアを釣り上げるハメにならないか?」
「がうがうがう」
追いついたリアが、なんとか魚を地面に前足で押し付ける。
「うーん、釣れてしまったなぁ」
「釣れちゃいましたねぇ」
ピクピクと動く魚を見て、なんだか大変な事をしてしまった気分だ。
釣る前はどんな料理にしてやろうかと妄想していたが、実際に釣れてしまうと。
「これどうすれば良いんだろう……」
途方に暮れてしまっていた。
頭の中では焼いた魚を貪っていたけど、そこに至る手順が分からない。
「やっぱり、枝で串刺しにするとか」
「どこを?」
言いながら俺は、小枝で魚を刺そうと試みる。
が、表面のぬめりやウロコの為に、なかなか貫通できない。
口に差し込もうとも思ったが、パクパクと動く口を見れば、その勇気が出ない。
「ええい、ままよ!」
俺は魚の口に枝先を突っ込んで、エラを貫通させた。
骨や内蔵を傷つけないよう、身の部分にもグイッと刺し込む。
「ちょっと可哀想ですねぇ」
「うん。でも、食べたらそんな気分も無くなるさ」
まだ一尾しか釣れていないけど、なんだか空腹感が凄い。
全く慣れていないサバイバル生活だ。疲労の溜まり方が普段と違うのも仕方ない。
「じゃあ、早速これを焼いてみるか」
「はいっ」
俺は串刺しにした魚を小屋まで持って帰る。
戻った俺を待ち構えるように、今まさに小屋へ燃え広がんとする焚き火の姿があった。
「うわぁあああ!? 火事になっちゃうぅっ!」
「火、火を消さないとっ!」
「消すっても水の入ったバケツは無いし……そうだ」
慌てふためく俺達は、手に持った魚を放り出して、焚き火に石や砂利を投げ込んだ。
火や薪が飛ばないよう、慎重にしかし大胆に火の動きを封じていく。
「よし、石なら不燃材だし燃えたりしない。このまま火を窒息させるぞ」
みるみる内に火は小さくなって、やがてくすぶるような煙を吐くだけになった。
「火の番をしないと、こうなっちゃうんですね」
「いかにも素人がやらかしそうな事だったな。本当に危なかった」
ホッとして、俺はなぜ焚き火を放置したのか考え出す。
おおっ。釣りだ、釣り。串打ちした魚を焼く為に帰ってきたんだ。
「そういや魚はどこに行った?」
「んー、見当たりませんね……も、もしかして」
リアの視線を追うと、既に鎮火した焚き火へと向かっている。
そこには見覚えのある串に使った枝が、砂の中から突き出ていた。
「焚き火に投げ込んでるぅぅぅ! うわぁぁ、俺たちの夕飯があぁ!」
絶叫しながら、砂に埋もれかけた枝を掴んで、引っ張り出す。
「あっ!? 鎮火しかけた火を急に弄ったらっ」
「あづううううう」
ちーん。
死因:くすぶる火種に空気の通り道を作ってしまい、一気に燃え上がった。
来世に続く!
読んでくださり、ありがとうございましたっ。
次回の更新は、明日の昼11時を予定しています。




