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妙な学園生活  作者: rouge
6/20

お泊り高校、昼〜夜

自分の足がすごく重い…

階段の一段一段を、時間をかけて登る。

「あ〜やっと来た!使徒ったら遅いっ!」

とうとう着いてしまったよ。もう覚悟を決めよう。

「何か用?」

静まり返った校舎内。

人影はまったくない。

「別に用とかはないんだけどさぁ〜…」

なら呼ぶな。

「俺戻るぞ」

「ダメっ」

用あるのかよ…不安が募る。

「使徒、あたしのこと知りたいでしょ?」

「全然」

まさかそんな返事は返ってこないと思ってたらしいな。

きょとーんとしてるよ。

「親不明、身元不明、その他不明多数、の不法侵入者を易々と居候させていいの?」

別に俺には関係ないんじゃないか?

「俺が気になるのは、年齢だけだが」

「だから高校生1年生だって!」

はぁ……思わずため息が漏れる。

「そんな嘘が通るとでも思っているのか?」

「嘘じゃないってばっ!」

目をこすり、自分の目は大丈夫か確認する。

「あたし、ずっと子供のままでいたいって思ったら、そうなっちゃっただけだもん」

信じるか信じまいか……

確かに、ませたガキだとは思うがな。

もしここで認めてしまったら…いっしょに住んでいる俺の立場が危うい。

「……そんだけ?」

「それだけって言ったら、それだけだけど………」

「じゃあ俺行くわ」

すぐさま逃げさる。

「ねぇ…」

教室の出口、一歩手前で呼び止められた…

おしい……

「何だ?」

「ホントに何も知らなくていいの?どこの誰かも知らないまま居候させたら、不安じゃないの?」

ったく…くどいなぁ。

「お前はお前。俺の飯作ってくれるからそれで良し」

では、これにてさらばっ。

「そっか…ありがとう……」

あぁ、今まで親に苦しめられて、居場所がなかったんだもんな。

俺もその気持ちは良く分かる。

そうだ。俺もミクの気持ちが良く分かるから、家に来てから何もいわなかったんだ。

「どういたしまして」

教室からだいぶ離れた場所でボソッとつぶやいた。





あぁ、緊張する…

どうしよ〜。うまく話せるかなぁ………

「ぁ、千葉君!遅れてすみません。待ちましたか?」

あなたのためなら、千年でも、一億年でも待ち続けますよ。

「いや、今来たところだよ」

「そうですか。では、行きましょうか」

肩を並べて歩く…なんとも晴れがましい光景だ。

でも、これから何をするんだろう。

昼から付き合ってもらえませんか?としか聞いてないし…

「着きましたよ」

ここは……木材置き場?

「グランドの真ん中まで、運んでくださいね」

笑顔で頼まれるものを断っては、男じゃないぜ!

「はい。任せてっ!」

よっしゃー!いいところ見せるぞ!

「お願いします。じゃあ、あたしは人集めてきますね」

へ…?

走り去っていく彼女の背中を見つめながら、吹き行く風に追い討ちをかけられたように感じた。





何事も無く、教室から抜け出せてホッとした気分。

よかった、よかった。

「あ、使徒君っ!ちょうど良かった」

あれ?

海野って光とデートじゃなかったっけ?

「どうしたの?」

「夜、キャンプファイアーをやるそうなので、木材を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」

かまわないが……

「いいよ。光は…?」

海野は、なぁんだ、という顔をしている。

「千葉君から聞いてたんですね。一足先に木材を運ぶのを、手伝ってくれていますよ」

光も馬鹿だな。

この屈託のない美しい笑顔にだまされて、まんまとひっかかったというわけか。

「なら、俺も手伝います」

「ありがとう。あたしもっと人集めてきますねっ!」

あとで光を笑い飛ばしてやろう。

木材置き場に着くと、その部分だけが雨でも降っているのか、と思わせるくらいのブルーな雰囲気が漂っていた。

原因は……光か。

「おい、光…?」

「使徒ぉ……」

お前、光なんだから暗くなっちゃダメだろ。

笑い飛ばすつもりだったが、急遽変更となった。

「どうしたんだ?」

「木材運んでほしかっただけだって……」

うん知ってる。さっき聞いたよ。

「そう気にするなって!デートだと早とちりしたお前が悪いっ!」

「それ、励ましてるつもりか……?」

より一層、空気が沈んだ。

「気を取り直して運ぼうぜっ」

光は重い足をゆっくりと踏み出した。

息苦しい空気の中、運んでいる途中で、たくさんの男子が木材置き場へ走っていった。

きっとあいつ等も屈託のない笑みに、断りきれなかったんだろうなぁ。

「そんなに辛い?」

「あぁ、半端ないよ」

…会話が続かない。

もう6月だというのに雨はまったく降らないが、俺らの周りだけ土砂降りだ。

「ここら辺でいいのか?」

校庭の真ん中には、まだ何も準備されていなかった。

「お〜い、君達!ここ、ここ」

体育の顧問の北山先生が、呼んでいる。

「骨組みは先生がやっとくから、どんどん運んでくれ」

先生は光のほうをチラチラと、気にしている。

「分かりました」

かったるいな…

「千葉、お前気分でも悪いのか?気分悪かったら休めよ?」

さっと俺が光の前に割り込む。

「簡単に説明すると、光は今、車にはねられそうになったところを危機一髪で避けたにもかかわらず、車の陰にいた自転車に気づかずにはねられた、というようなところです。気にしないでください。」

愛想笑いを浮かべ、立ち去る。

北山先生は優しいけど、こういう顔色は空気読んでそっとしとくべきだよ。

「あぁ〜めんど…」

2、3本運んだところで、キャンプファイアーの土台が完成した。

時計を見ると、もう4時過ぎだった。

「なぁ、そろそろ喋ろうよ?」

あれから光は一言も話さない。

どれだけ俺が1人で話かけ続けたことか。

「うん」

それは喋ったとは言わない。

うん、あぁ、はぁ、としか反応がないぞ。

「手伝ってくれてありがとう!」

先生の言葉と同時に、みな解散する。

「これからどうする?」

「みんな飯作ってるから手伝う…」

まともな返事が約2時間ぶりに返ってきたぞ。

「じゃあ行くか」

校内へと向かう。

「なぁ、俺これからやっていけるかなぁ…」

おいおい。これから自殺するかのような発言はやめてくれよ。

「今日はたまたま勘違いしただけだって。大丈夫」

虚ろな目に、少しだけ光が戻ってきた。

「そうか。頑張るよ」

校内はさっきとは違って、人の声が聞こえた。

調理室は……どこだっけ?

匂いをたどっていく。

なんとも原始的だが、この際なんだっていい。

「これは定番のカレーじゃないか?」

調理室の前には女子が溜まっていた。

「あーダメダメ!女子が真心込めてカレー作ってるから!」

「男子は禁止と?」

みな頷く。

「っちぇー」

「あ、千葉君!」

帰ろうとしたとき、海野が光を呼んだ。

「手伝ってくれてありがとう。さっき作ったんだけど、よかったら食べて」

それだけ言うと、海野は調理室へ戻っていった。

「なんだ、それ?」

「分からないけど…やったぁー!」

喜びのあまり、廊下を走っていってしまった。

「俺を忘れてくなよ」

すげー単純なやつだな。

でも元に戻ったからいいか。

校門には、光が袋包みを開けていた。

「クッキーだ!」

「よかったじゃん」

光は一口食べて、涙を流した。

「まずいのか?」

首を横に振っている。

たとえまずかったとしても、まずいなどとは言わないだろうな。

「うぅ……頑張ってよかった…」

あぁ、ほんとにお前が元に戻ってよかったよ。

その後は、光と好きなやつについて語り合った。

ふと気づくと、空は真っ暗になっていた。

カレーを食いに行こうと思い、また調理室へ向かう。

「な……………」

俺たちが調理室についたころには人がほとんどいなかった。

そして、カレーも見事に無くなっていた。

「俺達の分は…?」

「あんた達、来るの遅いのよ。もう全部無くなっちゃったわ」

昼間と同様、ミクと凛と海野が並んで座っている。

「今って………7時!?」

光がおかしな声をだす。

「俺らはどうすればいいんだよ…」

さっきまでの光の気持ちが少し分かった気がした。

「ぷっ……」

ん?

「ぷはははっ!」

ミクが笑い始めた。

「あ〜もう、ミクちゃん!早過ぎっ!」

「だって、おかしすぎだもんっ」

何が?

「でも、あんまりいじめると可哀想ですよ」

さすがだ、海野。

光は海野の言葉にだけ、反応する。

「何が可哀想なの?まぁ確かに俺らは……」

「あんた達のカレーはちゃんとあるって!」

後ろにはカレーが2つ置かれていた。

「おー!凛よ、ありがとう!」

「これを機にして、敬いたまえ」

腹が立つが、そんなことどうだっていい。

「ほらほら!あたしが食べさせてあげる。あ〜んして!」

ミク…ここは学校だ…

「遠慮しとくよ」

「千葉君、大丈夫?」

光が鼻をすすっている。

「ありがとう、ありがとう、ありがとう………」

ばっとカレーを手にすると、最速で食べ終わった。

相当腹が減っていたのか?

「は、早いね」

「みんなの気持ちは受け取ったぜ!」

何コイツ。

俺もカレーを食った。

「うまいっ!」

ただ豪華なだけだった昼飯よりうまい。

晩飯を食い終わるのと同時に、アナウンスが流れた。

「キャンプファイアーをするので、8時半までに外に出てください」

五人で外へと向かう。

やっぱ華があるといいねぇ…

外に出ると、空には満天の星が輝いていた。

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