休日
「はぁぁぁぁ………」
あの後は散々だった。
光を追いかけて、笑顔のまま受け答えする光を無理やり家へと引き戻し、いろいろと事情(嘘含む)を説明した。
そのときに、
「ぇ!?あたしは使徒の思うままにされてただけよっ!?」
という言葉を、ミクが悪魔のような微笑みを浮かべて言った時には目の前が真っ暗になった。
「使ぃ〜徒ぉーっ!」
さっきからミクは隣で体を揺さぶってくる。
(朝になるといつものように隣にミクがいるので、不覚にも慣れてしまったようだ)
こちらの気も知らないで…
「使徒ったらまだ昨日のこと怒ってる?」
俺は反応もせずに、ずっとミクと反対方向を向いて寝ている。
「ねぇ使徒ぉ〜…」
なんなんだよ…
「布団の中もぐって変なことしちゃうぞっ??」
人生喪失させる気か…
「ん〜…ダメね…」
そうだそうだ。
だから頼むからどっか行ってくれ。
(俺はミクよりも天性の才能の力が弱いため、ミクには俺の願いは通じない)
あ〜神よ、なぜ休日は二日もあるのですか?
この世の創造主、すなわち神は世界を6日間で創り上げ、7日目に休暇をとったから一日だけが休みでいいのではないのでしょうか?
ぐだぐだといろいろなことを考えていて、気づくとミクの姿はなくなっていた。
やっとどこかへ行ったか、と胸を撫で下ろす。
休みの日ぐらい遊ばせろってんだ。
「使徒……」
扉を開けるとそこにはミクが立っていた。
まだ何か用があるのか…
「ごめんなさい…」
「ぇ……っと…」
ミクに何かが起こった!?
そんなに素直に謝られると怒れないじゃねーか。
「ただ、遊んでほしかっただけなの…パパも、ママも、ずっと遊んでくれなくて…」
目に涙を浮かべながら喋っているミクは、小学生のようでこちらがいじめていると錯覚しそうになる。
俺が罪悪感を感じてしまう。
「わかったわかった。許してやるし、これからも度が過ぎなければ遊んでやるからおとなしくしろよ」
そういった途端、涙を浮かべた顔に笑顔が戻った。
「うんっ!」
やっぱり笑顔のミクは可愛い…
いかんいかん!一応親戚で、自称高校生なんだ。
俺には凛がいる!
―付き合えねーだろ―
心の中の自分の本音が自らを打ち砕いた。
「じゃあ今日は昼からお買い物ねっ!凛ちゃんとシズちゃんも誘ってるからっ!」
………
はめられたぁっ!!!
待ち合わせ時刻は1:30だったが、緊張して30分も早く着いてしまった。
もちろん緊張というのは光にみられたあの光景……
あいつのことだからどうせみんなに知られてるのだろうな…
そして俺の今まで作り上げてきた学校での俺という存在がぁぁ!!!
「使徒、どうしたの?」
こいつは何でまったく動揺しないのだろう。
「なんでもないっす……それより今日は変なこと想像するなよ」
「変なことってどんなことぉ?」
今のは俺の言い方が悪かった。
「宇宙人とか、超能力者とか、殺人鬼とかそういったものが来てほしいとか思わないこと」
「うふふ」
余計なことを言うんじゃなかった…
15分くらい待ったところで、凛が来た。
「ゴメンっ!待った?」
「待ってないよっ」
俺はその会話で表れた凛の表情から読み取れることを、出来るだけたくさん考えた。
しかし光から聞かされてないのか、いつもより晴れがましい笑顔だ。
「使徒、行くよ!」
なんだかもうミクも俺のことを名前で呼んでるし…
凛は一瞬そのことに驚いたようだったが、何事も無かったかのように歩き出した。
「あれ?海野は?」
もう中へ入るつもりでいるこいつらに尋ねる。
「なんか今日予定入ってこられないって」
へー…って女子:男子=2:1かよっ。
つか、海野来てたら3:1になってたんだな…
海野は空気読むのがうまいな。今度礼を言っておこう。
「使徒ってさ、ミクちゃんと親戚だったんだね」
感情のこもっていない声。
「ん?あ、あぁ…うん。光から聞いた…?」
「うん」
光め……
「他なんか聞いた?」
恐る恐る聞いてみる。
「いや、何も聞いてないよ」
よかったぁ……光、良い所だけ伝えてくれたんだな。
「でもちょっと安心したわ」
少し言葉に感情が戻った。
凛の次の言葉が何か、すごく不安ということは変わりないが…
「何が安心したの?」
「ぇ、あー…ん〜と…友達に使徒のこと好きな子いるからさ、ミクちゃんと使徒が付き合ってるって思ってたからっ」
何かすごく焦っている。
それよりも気になったのが、ミクと俺が付き合っていると思われていたことだ。
周りからみたらそんなに仲良さそうに見えるのか?
ただ席が近かっただけじゃないのか?
それに、俺のことを好きな人って…凛じゃなくて友達かよ…
「それより早く行かない??」
ミクの声にはっとする。
いることをすっかり忘れていた。
「そうよね、どこ行くっ?」
やっぱりいつもより凛はテンションが上がっているように感じられる。
まぁいいか。
ミクと凛が服を買いたいというのでついていくことにした。
何にも考えずに中へ入ってついていく。
すると試着をするようで俺は距離を置いて立ち尽くす。
ミクが冷たい目で見ている。
「使徒、着替え見たら殺すわよっ!!」
「誰が見るか」
悩んで悩んで、やっと服を買い終えた。
「っじゃ、次いこっか」
「うんっ」
2人は前できゃっきゃと騒いでいる。
女の買い物は長い…
「ねぇ、あんたここもついてくる気?」
前は下着売り場があった。
「ぇ」
間髪いれずにパンチが飛んできたと思うと、同時に凛の蹴りもきた。
「ぐ…行くなんていってねーだろ…」
俺の言葉など聞いているはずも無く、2人はもういなかった。
あいつら…
仕方なく近くにあった椅子に座って待つことにした。
「お兄さん1人?」
隣を見ると、派手なピンク色の髪をした若い子が座っていた。
派手なのは髪だけではない。
服装もコスプレかと思うくらい派手だ。
正直少し引いてしまった。
「連れがいます」
「まぁいいわ」
逆ナンかと思ったが、違ったようだ。
悔しいような、ほっとしたような…
「率直に言うね。私魔法使いっ」
・・・
「なんのカミングアウトでしょうか?」
俺の言葉に少し怒ったようにして立ち上がった。
「じゃあ証明してあげるわ!」
何の証明だよ…
彼女は手を上にあげたかと思うと、俺に向かって振り下ろした。
魔法をかけるかのように…
「えいっ」
ボンという音がして、煙が巻き起こった。
「何したの?」
「瞬間移動っ」
煙で彼女は見えないが、声からしてにっこにこだろう。
「ホントに出来るの?」
「当たり前でしょう」
煙がはれてきたら彼女の姿が見えた。
やはり予想したとおり笑顔だ。
周りは……海。
「ほらねっ!」
勝ち誇ったかのように腕組みをしている。
「で、俺に何か用なの?」
「何それっ。リアクション薄いなぁ」
ミクと一緒にいるせいで感覚が麻痺してますから。
「私もあなたと一緒で普通の人じゃないのよ。神野使徒クンっ」
何で俺の名前知っているんだ。
というか、何で俺が普通じゃないことを知っているんだ?
自分でどんな表情をしているか分かるくらい唖然としている。
「じゃあ帰りましょうか。またね」
え、ちょっと!
ボンという音と共に、元いたところに戻っていた。
周りの目が痛い。
俺はすぐさまその場から離れた。
「使徒〜お待たせ〜」
歩いていると、ミクと凛に出くわした。
「ミク、ちょっと来い」
引っ張って凛に声が届かないところまで行く。
「なぁお前、もしかしてここに着いたときに注意したことそのまま願ったか?」
俺は少し真剣だ。
ミクは罰の悪そうな顔をしている。
「魔法使いに会ってみたいなぁっていうのと…」
そのとき後ろからドタバタと走ってくる音がした。
誰かに追われているようだ。
横を通り過ぎたと思ったらすぐにバックしてこちらへ来た。
「ッフ、これはこれはミク様とにっくき奴ではないですか」
こいつは……何でここにいる。
「ゴメン、使徒。もっかいポチに会いたいって思ったのっ」
このうざい奴にか?
「お前ゲームの中のやつだろ?何でここにいるんだ?」
「ッフ、お前は知らないのか?ゲームというのはだな、遠くの星の人をあたかも自分が動かしているかのようにしているものなのだよ」
うわぁ…とうとうミクのせいでゲームの根本的なものが変わってしまった。
「ッフ、すまないが、何故か私は追われている身なのでなこれにてさらばっ!」
俺達の前をかろやかに走り去っていった。
「待てー!腰にさしているものを捨てなさい!」
そしてそれを追う人たち。
うるさかったところが急に静けさを取り戻した。
「使徒たち今の人と知り合い?」
気づくと隣には凛が来ていた。
「まぁ、そんなところ」
適当にはぐらかす。
「ちょっとあたしトイレっ!」
俺に荷物を押し付けて逃げやがった。
それにしても…
「ねぇ使徒…」
「ん?」
凛と2人きり…
はずかしいから早く戻ってきてくれ。
「ホントにミクちゃんって親戚なの?」
いつに無く真剣な表情。
「らしい。なんか親が死んで厄介払いで俺ん家に行けって言われたって言ってた」
俺はできるだけホントっぽく言った。
一部の嘘はホントっぽくするためだから仕方がない。
「じゃあなんで初めは『神野さん』とか『花園さん』とか呼んでたの?」
痛いところをついてくる。
「ぇっと…あれだよ。親戚って分かると同じクラスになれないだろ?」
「ふーん」
こんな嘘だれが信じるものか…
「ホントに何もないんだね?」
「うん」
「よかったっ」
やっぱり今日の凛はルンルンだ。
なんでだろう。
「なんかいいことあった?」
急に顔が真っ赤になった。
「そ、それは……」
「お待たせートイレ遠くて…」
空気読めよ……
「どうしかした?」
赤面している凛にミクがたずねる。
「な、なんでもないっ!買い物も終わったし、かえろっ!」
ミクの手を引っ張って行ってしまった。
やっぱりなんか変だ。
電車の中ではみんな無言だった。
ミクは楽しそうに外を眺めている。
凛は恥ずかしそうに下を見ている。
俺は不思議そうに凛を眺めていた。
この3人は、きっと傍から見れば恋人と妹のお守りって感じなんだろうなぁ。
そんな空気を引き裂くようにアナウンスが流れた。
俺たちは電車を降りて歩いて帰る。
行きは現地集合だったから良かったが、帰りは別々の方向になるまで無言だった。
「じゃあね」
「バイバーイっ」
ミクは1日楽しく終わっただろうが、俺はいろいろと不思議だらけだったぞ。
2人で道を歩く。
「ねぇ、凛ちゃんどうかしたの?」
「分かんね」
俺が知りたい。
「なんかテンション高かったり低かったりだったな」
「そうだよねー」
家に着いた。
これで休日がやっと終わる…
そう思った途端に脱力した。
ドアを開けようと思ったら、鍵が開いている。
「鍵かけたよな?」
「かけたよ?」
恐る恐るドアを開けて中に入った。
「使徒クーン!」
「っう…」
いきなり誰かに飛びつかれた。
ピンクの髪…コスプレのような服装……こいつは昼間の…
ミクが後ろで叫んだ。
「お姉ちゃんっ!?」