真の目的
今まで書いた章を読み直して気づきましたが、使徒が使途になっているところが度々ありました。
すいませんでした。
正確には使徒です。
現実の道を手ぶらで軽やかに歩く光。
一昨日は使徒に迷惑かけちまったからなぁ。
どうやらこれから使徒の家へ行くらしい。
「おー。凛じゃん」
休みの日に交差点で出くわすなんて珍しい。
使徒の片思いの相手とは思いつつも、いつも見慣れない私服姿のせいか胸がドキっとした。
「どっかいくの?」
「使徒ん家に」
ふ〜んという感じでさらっと流された。
「じゃね」
そういうと彼女はさっさと行ってしまった。
取り残された光。
使徒、あいつのどこがいいんだろう。
「くっそーミクのやつどこにいるんだ」
手にはさっき倒したロボットから奪った銃が握られている。
が、一般人が銃を持つのは逆に危険である。
道路を歩いていると、遠くに一匹のデーモンが見えた。
どうやら初めに出会ったやつのようだ。
すかさず近くの庭に身を潜める。
「ミュウシナッダ」
近くまで歩いてくるとそう言った。
どうやら俺のことを言っているらしい。
「フンガッ!」
「なっ…」
思わず小さな声が漏れた。
ばれてはいないだろうが…驚いた。
あいつは光に包まれたかと思うと、西洋の騎士を思わせるような美男子に変身したのだ。
彼はポケットから何かを取り出すと、耳に当てて会話を始めた。
「申し訳ございませんミク様、見失ってしまいました」
ミク様!?まさかミクと手を組んでやがるのかっ!?
「ま……でも……だからいいわ……ね。……い?」
ミクの声は途切れ途切れにしか聞こえない。
「はい。分かりました」
もっとよく聞こうと近づくと、庭にあったダンボール箱を蹴ってしまった。
「何奴!?」
まずいっ!
「にゃ、……んにゃぁ〜」
恥っずかし〜〜〜っ!
「ッフ、ただの犬か」
こいつがただの馬鹿で助かった。
「どうしたの?」
ここならミクの声も届く。
「いや、犬がいたようで…」
「そう、ならそろそろ使徒が来るかもねぇ…」
背筋がびくっとした。
そういえば、ここの町には動物は一匹もいなかった。
心臓が高鳴る。
「どういう意味ですか?」
へ?
「こっちの話よっ。それよりポチ、早く戻ってきてね」
ポ………ポチ……
なんだか同情してしまう。
「分かりました」
ポチが馬鹿で助かった。
通信機を切ると、そいつは歩いていった。
すぐさま気づかれずに追いかける。
サササ…
「ムッ!?」
気づかれたか…?
「ッフ、修行の成果が表れたか、風の声までも聞き取れるようになったようだ」
マントをバっと靡かせて歩き続ける。
アイツは真剣に馬鹿なんじゃないか?
それから気づかれること無く、変てこな城に着いた。
ここにミクが……
「ッフ、やっと到着した。ッフ、足が疲れきってガクガクしよる…」
カッコ悪っ!
「やはり変化は疲れる…しかし、ミク様のご命令だ」
そういい残して中へ入っていった。
そして俺も間をおいて中へ入っていった。
ピンポーーン
返事はない。
ピンポーーーン
返事はない。
ピンポピンポピンポピンピンピンポーーン
連打したが、返事はない。
「あーもう!」
不審者呼ばわりされるのが嫌でチャイムを鳴らしてやったが、出てこないあいつが悪い。
勢いよく扉を開けて中へ入る。
静まりかえった家。
「使徒〜……?」
これだけ静まり返った大きな家はなんだか薄気味悪い。
「使徒ー!」
今度は大きな声で呼んだ。
しかし返事は返ってこない。
「っかしーな。あいつ外出なんてほとんどしないのに」
家の中を歩いていると、ふと半開きのドアが目に入った。
この中か?
「コラ使徒!返事くらい……」
思わず息を呑んだ。
キョロキョロと周りを確認した。
「ここって……家の中?」
意味が分からないまま中へと入っていった。
中は何も無かった。
入ると学校の体育館にも似た構造で、ただ広いだけの場所があった。
「ようこそ使徒!」
奥のほうにミクがいる。
「お前何やってんだ?」
口元をゆがめて笑うと、自慢げに言った。
「実はこのゲームね、生き残ったほうが勝ちって言うの嘘っ」
ふざけんなよ、おい。
「あたしねー、一回お姫様やりたかったのよ。というわけで、勇者が使徒であたしはお姫様っ!」
「ミク!こんなめんどくさいことに付き合わせやがって…」
なんだか怒りがこみ上げてきた。
「勇者様ー!あたしを助けてー!」
茶化した感じで叫んでいる。
こっちの身にもなれってんだ。
「だれが助けるかよ!」
俺はさっさと帰ろうと、ミクに背を向けた。
「そうはいくもんですかっ!いけポチっ!」
姫様よ、勇者と姫は味方だろ?
姫が敵を操ってどうするんだい?
「ッフ、ミク様のご命令ならば!」
こちらへ向かって走ってくる。
「なぁお前」
俺の声に反応してポチの動きが止まった。
俺も背を向けたまま立ち止まる。
手に銃を構えて。
「なんだねボーイ?」
「しんどけ」
即座に振り返って銃を撃った。
しかし、銃がこんなにも使いづらいものだとは思いもしなかった。
弾はポチに当たるどころか、まったく違うほうへ飛んでいき、危険そうな機械に当たった。
「あ…使徒!何すんのよっ!まずいわよ!」
もうもうと立ち込める煙。
「ッフ、ミク様ご安し……」
すさまじい爆発と共にミクと俺はスタートに戻された。
「な……なんだこれは!?」
いきなり目の前で煙が立ち込めた。
するとそこには……
「なんてことすんのよ!このゲーム作るのにどれだけ時間かかったと思ってるの!?」
周りは真っ暗。町のビジョンは瞬く間に無くなった。
どうやら体も元に戻ったみたいだ。
「んなこと知るか!!なんであんなとこにあんな危険なもん置いておくんだよ!」
「まだ敵があんまり出来てなかったからしょうがないでしょ!作ってる最中だったのよ!」
「そもそも人ん家に勝手に基地つくんなよ!」
「人ん家って何よ!あたしん家よ!」
煙が晴れてくると、光がいた。
「ぁ…ぇと…」
「どうした?」
もうミクとは友達ってことになったんだから、遊んでることがばれたくらいどうだっていい。
「お邪魔しましたっ!!」
それだけ言い残して、俺の家をあとにした。
「し、使徒っ!」
まだ何かあるのか。
もうこりごりだ。
「何だ?・・・うわぁー!」
俺とミクは素っ裸。
「どうやら体に自分が戻る時は、体だけこちらにくるようね」
冷静に分析してる場合か!
そうだ!
「光!待て!誤解だ!うぉおお!!!」
もうすでに光の姿は無かった。