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妙な学園生活  作者: rouge
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プロローグ

キーンコーンカーンコーン

「じゃあな!」

「またね!」

今日も一日が終わった。

やっと帰れる…

校門まで来た。

今日もいつもと変わらない、変わってるのは俺だけだ。

うん、何事もなく終わったぞ。よしよし。

「使徒〜!今日もお前ん家行っていいか?」

ぐ……これもまた、いつもと変わらない…

「あぁいいぞ。いつもどおりな。」

俺は高校1年生になったばかりの神野使徒(かみのしと)

さっき話しかけてきたのは、タメの千葉光(ちばひかる)

共に同じ小学校、中学校、高校と進学した。

よって自分から望んだわけではないのだが、自然と親友という形になった。

「あんたたち、いっつも一緒ねぇ…そんなんだから彼女いないのよっ!」

うっぜぇ〜人が気にしていることを…

コイツは鈴音凛(すずのねりん)。俺の片思いの…いや、なんでもない。

「凛が男子からモテすぎてんだよ」

うんうん、と心の中で悔しがりながら賛成。

「つか、私ちゃんと全員振ってますから」

「いやいや、贅沢はするもんじゃないよ」

凛は男子から滅茶苦茶モテるのに、何故か彼氏を作らない。

そのおかげで俺は報われているのだが…

「乙女は好きな人を待ち続けるのよっ」

俺たちを通り越して走っていく。

「また明日ね!」

背中に垂れる髪が風に靡き、バックに夕日が来るとより一層可愛い。

「何なんだあいつは…」

「同クラだからしゃーないじゃん」

同クラだったらウザくてもかまわないと?

「まっ、そんなことよりさっさと帰ってお前ん家行くんで。じゃな!」

光もダッシュで駆けていく。

赤渕の派手なメガネで、茶髪に染めてるのにどこか子供っぽい。

「じゃあな…」

行ってしまってからポツリと呟いた。

気づくと、俺だけが学校に取り残されている。

早く帰ろう――


――俺は幼いころ、幸せな家庭で育った。

両親は仲が良く、裕福で、はたから見れば理想の家族だったかもしれない。

そんな家庭が俺は好きで、幼稚園から家へ帰ると、優しい母が包み込むように抱きしめてくれた。

幸せだった。

しかし、そんな家庭を壊したのは、他でもなくこの俺だ。

俺がまだ小学生だったころだ。

嫌いな子が急に転校していった。

そのときは、あいつ嫌いだからどっかいけ、と思っていたから、なんとも思わなかった。

きっと心から嫌いだったのだろう。

理由は覚えていない。

それからも変なことは度々起こった。

のどが渇いたと思い、自動販売機を前にしたが、お金を持っていなかった。

落ち込んで下を見ると、ちょうど120円が落ちている。

さすがにそのときは不審に思ったが、大して気に留めなかった。

家へ帰りながら、今日はカレーがいいなぁと思ったら、カレーだった。

好きなゲームがほしいと思ったら、家に帰ると母がなんだかんだと理由をつけて、ほしかったゲームを買ってくれた。

無論、カレーが食べたいとか、ゲームがほしいとかは口に出していない。

正直、自分で自分が分からなくなった。

思ったことがそのまま反映される。

偶然だ、偶然だ、と思っても、偶然では済まされない。

こんな自分が怖くなって、母に相談した。

すると母は、俺にこう言った。

「そんなの……化物じゃない……」

小学生だった俺には苦しくて、受け止めることだけで精一杯だったのだろう。

その後の毎日は、苦しかったことしか覚えていない。

そして、やっと中学生になったあの日…

入学式には、両親は来てくれなかった。

まぁ今までと変わらない日常が続くんだろう、と思った。

しかし違った。

帰宅すると、親がいない。

少しながらの不安を抱えて、キッチンへ向かうと、テーブルに一枚の紙と預金通帳が置かれていた。

紙には、

私は親として失格です。ごめんなさい。本当にごめんなさい。

と綴られていた。

その紙は、しわくちゃで、涙のような染みがいくつもあった。

今だから思えることだが、母は必死に考えたんだろう。

考え、悩んで、出した答え……

それが…これだ。

別に母や父を恨んだりなどしていない。

恨んでいるとすれば、自分を恨んでいる。

何度か死のうと思った。

痛い死に方は嫌だと思ったから、俺の生活を滅茶苦茶にしやがった変な力で死んでやろうと思った。

でも…死ねなかった。

あとから分かったことだが、小さなことなら短期間の軽い思いで叶うが、大きなことは心の底からの強い思いで、長期間思い続けなければ意味がないらしい。

きっと自分が可愛かったのだろう。

心のどこかで、死にたくないと思っていたのだろう。

自分が憎かった――


――家に着いた。

自分の家とはいえ、やはり豪邸と呼ぶに相応しいものだろう。

「ただいま……」

返事が帰ってこないと分かっているにもかかわらず、いつも声を出してしまう。

慣れてしまったことだから仕方ないだろう。

いつもいる部屋に行くと、光がすでにいた。

「不法侵入者め…訴えてやろうか…」

「悲鳴を上げない君は、不法侵入者の共犯か?」

わけの分からない会話をしながら、カバンを降ろして部屋着に着替える。

「なぁ使徒…」

「なんだ?」

結構真面目そうに話しかけてくる。

「俺、この家に住んでいいかなぁ…」

何を言い出すかと思えば…

「お前には親がいるだろ」

光の家庭はごく普通の、ありふれた家庭だ。

俺にはそんな家庭がすごく羨ましい。

なのに、それを手放そうとは何たる事だ。

「ゴメン、聞かなかったってことで頼む」

意味が分からん。

「お前今日何時まで?」

「9時くらいまではいるつもり」

ふ〜ん。今日はいつもよりも早い。

「俺のPC知らね?」

「ここ俺ん家ですよね」

光がおもむろに頷く。

「勝手に私物置いたら、もちろん所有権は俺に有り」

「なっ!?」

声を裏返した…そんなに驚くなよ。

「ま…まさか…お前…捨てたのか…?」

「うん」

「ぎゃぁああああ!」

雄たけびを上げる光。

こんなやつ嫌だ…

「嘘だよ」

屈託なく嘘をつけるなんて、なんてやつだ俺。

「よかった……」

ほっとしたのも束の間、すぐさま形相が変わる。

「ま…まさか……中味見た?」

「うん」

「っぎ……」

一旦抑えた。

「嘘?」

「いや、君がまさかあんなものに興味があるとは、なかなか興味深かったよ」

「うぉぉおおおお!」

泣きながら、プライバシーの侵害だとか、犯罪だとか叫んでいる。

「大丈夫だ。このことはお前が海野雫(うみのしずく)に片思いしている限り決してバラさん」

複雑な表情を浮かべている光…

「それは永遠にバラすことが無い、と捉えるべきか?」

「簡潔に言うとそうなる」

光の顔が真っ赤になる。

「使徒〜てんめぇ〜!」

家の中をドタバタと逃げ回る。

誰にも怒られることがないので、心置きなく逃げ回った。

光よりも俺のほうが家のことは良く分かっている。

俺を捕まえられるはずないだろう。

そんなこんなで遊んでいると、9時を回っていた。

「俺、そろそろ帰るわ。またな」

「おう。バラさないから二度と来るな。」

二度と来るなという言葉は、あいつが初めて家へ来てから言い続けている。

光は見事に無視するんだがな…

でも、俺はこんな毎日がいつまでも続いてほしいと願う。

こんな力を隠しながら、おびえながら生活するなんて嫌だが、仕方が無い。

誰にも気づかれずに、年をとって死ねれば、それでいい。

今日は満月だな。

月の光だけが、俺を慰めてくれているように思えた。


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