選択
「ここはいったい・・・・・・・」
目が覚めると、あたりは一面黒かった。
ただ真っ黒な世界。
特に何もない。
アリアの呼吸音だけが響き、静寂な空間だった。
体に感覚はある。
手を握れば、握った感覚が返ってくる。
しかし、ここがどこだろうか。
気付けば、何も見えない黒い世界。
おそらく、ここにはアリア一人しかいない。
「しっぱい・・・・したのかな・・・・・・」
アリアはそう思った。
何も見えないということは、自分が死んだことを除いてほかに、思い当たる節がない。
そして、それは英雄召喚が失敗したということを意味していた。
アリアはそれに気づくと、力の入っていた肩を落とし気落ちする。
しかしそこに後悔の念はなかった。
やれるだけのことはしたのだ。
アリアには最大限の努力をしたという自負があった。
あの状況下で、できることは少なかったが、それでも最善のことはしたつもりだ。
そう思うと、何だか気持ちが晴れるような思いになる。
それゆえ、死んだ後悔というのはあまりなかった。
するとそんな中、急に光の線が近くに向かってくるのに気が付いた。
時間が経過するにつれその数は次第に多くなり、気が付けば隙間がないくらい多くの光の線がアリアに向かっていた。
しかし、アリアのまわりだけにはその光は通っていかなかった。
それを見てアリアは不思議に思う。
目の前にはまるでそこだけがくりぬかれなかったかのよう。
円が出来上がっていくのだった。
ふと、アリアはその先に小さな光があるのを見た。
その光はだんだんアリアのもとに近づいてきているようだった。
近づくにつれ、視界が眩しくなる。
次第に光の強さは増していき、目を開けるのが痛くなってきた。
そこでアリアは手を翳してその光を遮ることにした。
しばらくして、アリアは目をゆっくりと少しだけ開ける。
どうやら目を開けても大丈夫そうだった。
あたりはさほど眩しくもなく、目に負担もかかるわけでもない。
確認し終えたアリアはそっと翳していた手を下ろし、目を開けることにする。
アリアは目の前の光景に絶句した。
アリアが立っていたのは大きな魔法陣の上。
下には白い雲が広がり、まるでそこは雲の上のようだった。
「汝ガ求メシハ、『力』カ、ソレトモ・・・・・・・・」
アリアは声のするほうに振りかえった。
するとそこには、多数の石碑があった。
その中でも声の主は他とは一段高いところにある石碑で、他の石碑とは比べ物にならないほど大きくて、また貫禄のようなものがあった。
アリアはその景色に不意を突かれ、言葉を失う。
「ソナタ二、モウ一度問オウ」
アリアはその言葉を聞いて、はっと我に返る。
先ほど石碑が言ったことを聞き漏らしてしまった。
背筋が凍る思いだった。
そのため、今度は聞き漏らすまいと再度その言葉に耳を傾けた。
「汝ガ求メシハ、『力』カ、ソレトモ『名誉』カ。」
それを聞いてアリアは、深く考えなかった。
その問いに対する答えはすでに聞かれる前から決まっていた。
アリアは一つ、深呼吸をする。
その間、口元は少し笑っていた。
高まる気持ちが収まるや、アリアは次のように答える。
「私はその問いには、答えられません。なにせ私は、どちらの選択も望んでいないことですので・・・・・・」
その問いに対するアリアの答えはノーアンサー。
つまり、どちらでもないだった。
「ソレデハソナタハ、何ヲ望ミ、何ガ為二、ココヘト来タ。」
アリアは満面の笑みを浮かべたあと、こういったのだった。
「成すべきことを成すがために」