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大罪の英雄伝説  作者: 白鷺 朱鷺
序章 白騎士編 Ⅰ
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英雄召喚 Ⅱ

 ◆「ならば、力で証明してみせろ」


 男はそうアリアに告げると黒衣から片腕を前に出し、その手に青白い炎をゆらゆらと灯し始めた。

 炎は次第に大きさを増していき、それに伴い周囲は不穏な空気を漂わせ始めていく。


 アリアはその青白い炎を見て、不快感を募らせた。

 それは青白い炎に起因するが、普通炎とは赤い色をしている。

 しかし男がその手に灯している炎は紛れもなく青白い色をした炎であり、何度目を瞬きさせて見ようがそれは彼女の前に変わりなく存在した。


 ここへ来る途中もそうだったが、ろうそくに灯っていた炎もまた同じく、青白い光を灯していた。

 今思えばその時から、不気味な雰囲気は漂い始めていたのかもしれない。

 その時のアリアは復讐心に駆られていたため気付きもしなかったが、いざ我に返るととんでもない景色だったと思わずにはいられなかった。


 _____炎を極めし者だけがたどり着く境地、それは魂を浄化する青い輝きを灯すであろう,


 幼いころの彼女が興味本位に通っていた魔道図書館でたまたまみつけた『ステラス魔導書』に書かれてある一文である。

『ステラス魔導書』とは昔から語り継がれてきた最古の魔導書で、言うなれば昔ばなしに当たる書物だ。

 話はこの地にまだ神々が存在していた神話の時代まで遡るとさえ言われている。


 アリアはその事実を想起し、驚愕する。魔導書の通りであれば、炎は魂を焼き尽くすことになる。

 少なくとも炎を極めた者など知る限り存在しない。そもそも存在するのかさえ今の今まで疑っていたほどの話しだった。

 英雄召喚もその一つだが、青い炎もまたも魔導書の中の言葉である。

 古の魔導書に書かれていることの多くは伝説として、現在人に認知されている。

 それは誰も実際に見たこと、体験したことがないからで多くは空言として聞き流されているのが常だった。


 しかし目の前でこうしてまざまざと青い炎を見せられている以上、もはや信じるしか他なかった。

 夢でも見ているのかとアリアは我を疑いたい気持ちになったが、胸の鼓動がここが現実であることを告げる。


 青い炎、またの名を冥界のハーデという。

 その意味は、永遠の死を意味している。


 ◆「お前がどう考えていようと、人はそれぞれの意思を持ちまた違った価値観を持つ。そこに正当性を組み入れようするのであれば、もはや語るまでもないだろう」


 一目見たときから只者ではないと思っていたが、やはりその通りだった。

 振る舞い、言動、そして圧倒的な威圧感。

 どれをとっても強者たる者の風格が漂っている。


 ○「ディナ、エスピ、シャル…………」


 アリアは即座に魔法を唱え始める。

 国の中でも屈指の騎士団を束ねるレイラを倒すほどの実力がある以上、苦戦を強いられることはある程度想定していたつもりだった。

 だが黒衣をまとった男はアリアのそれをゆうに超越した存在だった。

 神話の時代に存在した魔法を誰が今日使うと思うだろうか。


 しかしグダグダと考えている時間など、存在しない。戦闘はすでに始まっていた。

 そのため形勢だけでも優位に立とうと思い、先手を打とうと考える。

 先に攻撃をした方が優位に戦闘を進められることは、今も昔も変わらず変わっていない。


 しかしアリアの目論見は一瞬で(つい)えてしまうこととなる。

 それは上手くいっていたかに見えた魔法陣が端から光の欠片となって、空に散り始めたのである。

 これは魔法失敗(マジック ミステイク)の現象だった。

 言葉通り、魔法の詠唱が失敗したのである。


 ーー どうして………


 アリアはその原因を考えるが、これといって心当たりがない。

 魔法は完璧だった。

 魔法陣の構築、出量、安定度…どれをしてもミスらしいミスは見当たらない。

 なのにどうして失敗してしまったのか。

 疑問だけがアリアの心にだけ残ったまま、魔法陣は徐々にその形を消していった。


 ◆「どうした、目が動揺を隠しきれていない」


 男の口元から何やら不気味な笑みが零れ落ちる。

 それを見た瞬間アリアは確信した。

 どうやら魔法失敗(マジック ミステイクの原因はこの男に関係していそうだった。


 ◆「悲しい話だな」


 男はそれだけ言うと、右手を前に出して赤い魔法陣を展開させる。

 その際、展開させるのに必要な詠唱はなかった。

 まるでそれは魔術師が手品をしているかのよな光景であった。

 詠唱なしで魔法陣を展開させるなどありえない話である。

 魔法は本来詠唱によって魔法陣を構築し、発動させる現象だ。しかし男の魔法にはその起点ともなる詠唱がなかったのだ。例えるならマッチ棒をこすらずに火をつけるようなものだ。


 魔法陣の色は属性を表す。

 男の魔法陣は赤色、つまり属性は炎だった。

 属性は主に6つあり、光、闇、炎、氷、地、雷これらで魔法は構築されていく。


 また、男が構築した魔法陣のまわりに闇、電気が走っているの確認できた。

 これは属性追加プロパティー アディションといって、新たにほかの属性を魔法に組み込む際に起こる現象である。

 だが、属性を合わせることは容易な作業ではない。

 成功度を強いて数値化するなら、属性一つだと80~70%、二つだと40~30%、三つだと10~5%といった具合だ。

 しかし、この数値はあくまで一般論としての見解であるため一概にこうとはいえない。

 それは個々の技量が反映されるからである。極めれば極めるほどその数値が跳ね上がり、アリアの場合一属性でいえば99%といってもいい境地にまで達していた。


 ○「インフェル・・・」


 アリアは思わず口ずさむ。

 男が放った魔法はインフェルノだった。

 インフェルノは炎の魔法の中でも最高ランク S階級魔法エンド マジックに属し、触れただけで塵と化すことから「悪魔の噴煙」とも呼ばれている。

 それだけあってその威力は絶大で、触れれば一溜りもない魔法だった。


 アリアはひとまず魔法相殺マジック キャンセルを試みる。

 魔法相殺マジック キャンセルとは、魔法で魔法を無力化することである。


 しかし現状ではそれは難しかった。それは魔法失敗する恐れがあるからだ。


 ーー考えあぐねている暇はない・・・・・・・・・・・


 アリアは羽織の中に手を伸ばすとそこから白いものを取り出す。

 その白いものはずばりあの手袋だった。

 両手にはめると、あの時と同じように冷気に満ちた白いオーラがアリアの体のまわりを漂いはじめる。


 アリアはすぐに人差し指をインフェルノに向け、静かに目を閉じこう呟いた。




 ******  ラ ファン  ******



 小さな声があたりに響く。


 その言葉と同時にインフェルノは白い世界に包まれ消えてなくなった。

 一瞬の出来事だった。


 すると突然、不気味な笑い声が聞こえ始める。

 アリアはゆっくり目を開けてみると、そこには口を軽く押えて笑いを堪えようとする男の姿があった。

 男は「失敬」と手を少し挙げて詫びると、のどを鳴らして調子を整える。


 ◆「まさかこんなところで」


 男はそう言いながらまた不気味な笑みを綻ばせるのだった。

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