街燃えるⅠ
*とある居酒屋にて _____________
「こんなめでてぇ日に、ヒクッ。なんで・・・・。」
客の一人が店のマスターに向かって、酔っ払い口に言う。
中年の男、ここ キーナヒーテ街 へは、先日警備兵として派遣されたばかりだ。
男はひどく酒におぼれている様子で、見るからに顔は赤い。
店のマスターはその言葉を真面に受けず、ただひたすら手元のグラスに磨きをかける。
「どうしたんだよ。そんな深刻な顔しやがって~~~お前?」
横で聞いていた別の客が冗談半分で理由をきく。
その人物は昨日知り合った飲み仲間で、男の同僚。
するとそれを聞いた当人はさらに深刻な表情をつくる。
目はグラスに入った茶色い液体に注がれているが、肝心の意識はどこか遠く方を向いていた。
「俺の体が妙にうずいてんだょ・・・・・」
小さな声で男は言う。
「ああ?なんって、小さくて聞こえねぇ~~~~ぞ。」
飲み仲間は調子半分でノリをかますと、ケラケラ笑い、グラスに入った酒を一口呷る。
「ヒクッ、俺のイクスパリアがそういってんだ・・・・・・」
「イクスパリアだぁ?なにかっこつけてんだ。そんなのあるわけねぇ~~~つだっろ。」
イクスパリアとは、第六感ともいわれる特殊能力。
人によって能力に違いあるのだが、この男の場合それは『予感』だった。
不祥事が身に起きる際、前もってそれを悪寒として感じ取ることが出来るのである。
「俺にはそんなのねぇ~から、しんじられねぇな。」
「でも、俺にはあるんだ、イクスパリアが・・・・・・」
「お前、もしやさけでよってんじゃねぇ~~~の。かははっははっはははっはっは。」
その笑い声を聞いて、男は深く気落ちする。
ろくに相手にさえしてもらえないのは、いつものことだが、
行く先々で同じ対応をされるのは精神的にもきついものがある。
男は窓辺に立ち寄ると、空を見る。
綺麗な夜空だ。
瞬く星々が一面に散らばり、月はグラス一杯で満たされている。
まるで平和な日常をうたっているかのように。
男はその景色を見て、険しい表情を作る。
右手を強く握りしめ、静かにグラスを揺らしながら。
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* 街門にて ________________
街門は騒然としていた。
「十時の方角、距離は4フィル。」
「数は」
「数は・・・・1です!!」
南の空に黒い物体が一つ。
みるみるそれはこちらに近づいてくる。
今までに見たこともないほど大きかった。
双眼鏡を使わずとも、門番に当たっている警備兵の目からでもわかるほどに。
「対象の詳細をせつめいしろ。」
「・・・・・・・・」
しかし、観測員は双眼鏡を覗いたまま返答しようとしない。
「何をしている、キサラギ。状況報告をしろ。」
その言葉を聞いたキサラギ観測員はゆっくり双眼鏡から目を外した。
外すとそのまま、静かに街門の監督者であるロンドウェルのほうに首を向ける。
キサラギは顔面蒼白だった。
まるで屍のような顔をしている。
瞳の中には何もない。
キサラギの視線はロンドウェルの目を捉えてはいなかった。
それを見て、ロンドウェルはただ事ではないと悟る。
その瞬間、場に緊張感が張り詰めた。
すると別の観測員から悲鳴が上がる。
ガクガクと体を震わせ、そのままその場にしゃがみ込んだ。
周りは騒然とし始める。
あちこちで双眼鏡を落とす音が耳に入る。
何が起こっているのか。
聞き出そうにも、肝心の本人が答えてくれなかった。
意識はあるが、まるで植物人間のように受け答えをしない。
ロンドウェルは精神の抜けたようなキサラギのもとへと歩み寄り、双眼鏡を取った。
双眼鏡を覗き、自分で黒い物体を見るために。
ロンドウェルは双眼鏡を手に取ると、十時の方角の空にそれを向ける。
古い言い伝えに、こんなことがあったのをふと思い出す。
------ドラゴンの瞳を覗いてはならない。
それを思い出したのは、金色に光るドラゴンの瞳を見たあとだった。
ロンドウェルの手から双眼鏡が落ちる。
双眼鏡は地面に落ちと、そこから銀色の破片を辺りに飛び散らせる。
ドラゴンの瞳を見てはいけなかった。
それは
------ドラゴンの瞳には精神支配するチカラがあるからである・・・・・・