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大罪の英雄伝説  作者: 白鷺 朱鷺
序章 白騎士編 Ⅰ
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白騎士Ⅲ

 騎士は剣を空に向け掲げると、しばらくそのままの状態で瞑想し始める。


 アリアはその間、ポーチから丸薬の入った包と治癒力を高める術札を取り出すと男の治療にかかった。


「今、私に出来るのはこれが限度です。」


 アリアが出来たのは、傷の手当と痛みを和らげることだけだった。


「いえ、十分助かります。」


 騎士はそういうと、アリアに体を預ける。


 治療がおわると、騎士は体の感触を確かめた。

 四肢のうちでせいぜい動かせないのは、利き腕ではない左腕だけで、左腕は骨が折れているのか、だらりと袖の部分から下は垂れ下がっている状態だった。


 しかし右腕と両足がつかえれば、それは心配するに足らない。

 これだけでも十分戦うことはできた。


「どうにかして、あの息吹だけは回避しないと・・・・」


 騎士はそういい、飛翔して遠ざかっていくドラゴンの後ろ姿を見る。

 ドラゴンはアリアたちを殺したと思い込んだようで、その場を後ずさっていくのだった。


「あの方角には、街が・・・・・・・・・」


 アリアは青ざめながらドラゴンの行く先に目を向かわせる。

 するとそこには、ちょうど今祭りで賑わっている最中のキーナヒーテ街があった。


「くっ」


 騎士はそれを聞いて顔をいがませる。


 ドラゴンが街の中にはいれば、それがどういった結果を招くのか。

 それを考えるのは簡単だった。


 街に入れば瞬く間にそこは戦場と化し、相手がドラゴンである以上、そこに際限はない。

 路地の上には幾人もの屍が埋め尽くし、そうなればそのあとは、人が怯えがるほどの地獄図ができあがるのは言うまでもない。


「私、行かなくちゃ。」


 アリアはそういうと、足を前へと進まようとした。


「待って。」

「でも、私、行かなくちゃ」


 いつもの冷静さはそこにはなかった。

 気が動転しているかのように、足を前へと進ませ目には生気が感じられない。


 騎士はそんな彼女を見て、これは普通の状態ではないと思った。

 どうしていきなり態度を急変させたのかは分からなかったが、何かに執着心を持っていることだけは彼にでもわかった。


 騎士はアリアの手を掴む。


「離して」


 アリアはその手を振りほどこうと、強く体を揺らす。

 騎士は顔を引きつめながらも、必死にその彼女の手を放すまいと懸命にしのいだ。


「離して・・・・離してください・・・・」


 依然アリアはそういいながら、その手から逃れようと必死にもがき暴れるのだった。


 すると騎士は、そんなアリアを強く引っ張った。

 アリアはその力強さゆえに、体を流されてしまう。


 騎士はそのままアリアを胸の中へと誘い、彼女の耳元でそっと呟く。


「僕もいるから」


 アリアはそれを聞いて、はっと我に返る。


「私は・・・・」


 目の前には服からにじみ出る血。

 アリアを必死に離さまいとする間、傷口が開いたのだった。


「別にいいから、それより君がもとに戻ってくれてよかったよ。」


 騎士はわき腹を抑えながら、満面の笑みでそう言った。


「ごめんなさい。」

「別にいいから・・・気にしないで・・・」


 二人は一度安全な場所に移ると、傷口の応急処置にかかった。


「ありがとう、痛みがひいたよ。」

「ごめんなさい。私のせいで傷口が・・・・」


 するとそれを聞いた騎士はそっと指をアリアの唇にあてた。

 アリアはその突然の行為に目を丸くする。


 騎士はアリアが口を噤んだことを確認すると、静かに指を唇から外した。

 そして何事もなかったかのように、笑みを浮かべるのだった。


「そういえば、お互い自己紹介はまだでしたね。」


 二人はまだ自己紹介をしていなかった。

 それは自己紹介をする機会がなかったからで、召喚してから二人はゆっくり話せる時間が取れていなかった。


「そう、でしたね。」


 アリアはそういうと、その場に立つ。

 そして目が合うと笑みを浮かべ、羽織を軽くつまみながら一礼した。


「私の名はリリア・ディア・アリアです。」


 アリアの姿は月の光でちょうど光って見えた。

 その姿は優美で、思わずその場にいた騎士は見とれて声が出せない。


「どうかしましたか。」


 アリアは動かない騎士を不思議な目で見る。

 騎士は顔色を赤くしながらも、笑顔で返事に応じる。


「いえ、別になにも・・・」


 すると騎士は咳ばらいをすると、顔を改めアリアのほうを向く。

 そして、ようやく名を明かすのだった。


「僕の名はシュラク。これから世話になりますいっかいの騎士です。」

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