白騎士Ⅱ
地上は豪炎からなる熱気で煮えぐりかえっていた。
その中心には一体のドラゴン。
大きく開いた口から放たれた咆哮は大地を震わせる。
「どうやら僕たちを歓迎しているようでは、ないようだ。」
男はそう言うと、腰から剣を抜き戦闘態勢をとった。
アリアもそれに合わせて、白い手袋をはめた両手をドラゴンのほうへと向ける。
「状況はかなり深刻ですが、ひとまず先手は私がやります。」
アリアはそういうと、魔法陣を展開させた。
青色の魔法陣。
氷属性の魔法だ。
アリアの人差し指から波紋上状に魔法陣の光が広がり、それは徐々に魔法陣を浮かびあがらせていく。
「任せた。」
男は魔法を放とうとするアリアを後に、一人ドラゴンのもとへと向かっていく。
ドラゴンは皮膚が黒く、目が金色。
背中に生えた翼はアリアたちを一瞬で飲み込むほど大きく、まさに伝説通りの化け物だった。
アリアの魔法は呆気なく、消し去られてしまう。
ドラゴンは迫ってくる男と魔法に気付くと、大きく息を吸い込みそれらに向けて勢いよく吐いた。
そしてそれは一瞬で、男ともどもすべてを一掃した。
アリアが唱えたのは『アイスシェルト』。
氷属性のA階級魔法だった。
『アイスシェルト』は、相手の動きを止める魔法で、水の塊が当たった瞬間その振動によって氷へと変化する。
アリアは地面にひれ伏す男のもとへと近づいていった。
男はあの息吹がこたえたようで、あばらのあたりを押えながら、必死に痛みを堪えていた。
「もしかして、肋骨に・・・・」
アリアは急いで回復道具をポーチから取り出そうとした。
しかし、男はその場に起き上がるや、アリアの手をおさえ首を横に振る。
「よしてください。それよりもはやくここを移動しないと・・・」
すると話の途中で男は表情を変える。
その顔は真剣そのものだった。
「うおおおおお」
雄たけびを上げると、いきなり素早い動きで地面に転がる剣をつかんだ。
両手で掴むと男はその勢いのまま、目の前に向けて剣先を移動させる。
アリアは男の視線の先に目を向かわせた。
するとそこには、巨大な炎がアリアたちのもとへと迫りくる光景が________。
アリアはとっさに防衛体制を取ろうと図る。
だが・・・・・・・・
ーー ダメ、これではもう・・・・・・・・。
アリアの体はまるで重りのように重く、速く動かない。
これでは迫りくる炎には間に合わなかった。
アリアは駄目だと思った。
そして死を覚悟した。
アリアは目を閉じると、二人は炎の中へと消えていく。
ズドオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!!!!
直後、爆音があたり一帯に炸裂した。
おおきな黒煙が空へと舞いあがり、しばらく地響きが続いた。
ーー いったい、私たちは・・・・
アリアはそっと目を開く。
すると、目の前にはひどく息を乱すを騎士の姿。
剣を地面に突き立て、膝を地面につけていた。
あたりは炎が燃え盛り、周囲の景色を赤く染める。
アリアはそっと近寄り彼の背中に胸を当てた。
そして静かに目尻に溜まっていた雫をぽつりと地面に落とした。
「私のために・・・・・・・・。」
ボロボロの白騎士は骨が折れているだろう片腕をダランと袖から垂らした。
呼吸は荒く、激しい苦痛に晒されているのは、鎧越しからでも一目瞭然だった。
男は片目を頭から流れる流血で赤く染めながらも、眼前にいるであろうドラゴンに向けてを目を向ける。
「死………か。悪くないな。」
白騎士はふとそんな言葉を口にした。
それは彼本心からの言葉だった。
アリアはそれを黙って聞いた。
そして彼がそう思うならそれでもいいと思った。
「でも・・・・・・」
すると男は顔つきを変える。
その顔には逆境にあえごうとする強い信念のようなものがあった。
「ぼくは騎士だ。
だから………戦う。
たとえ、それが小さなことだとしても・・・・・・
たとえ、それが空に輝く小さな星が一瞬だけ・・・・・
瞬くようだとしても。
生きている限り、
・・・・・僕は戦う。
それは僕に許された騎士であることの証であり・・・・・・・
罰でもあるのだから・・・・」
男はそういうと、足に力を入れる。
アリアはそれに気が付くと、腕をそっと彼から外した。
「ありがとう。」
男はアリアにそれだけ告げると、震えながらもその場に立つのだった。




