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丹羽子抄  作者: 北風とのう
第二章 転生
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「だって、部屋には丹羽子さんが残したものがあるでしょ。」

「え?……そんなことまで聞いているの?」

「裕也君が具合が悪くなった時のために、私に伝言していったのよ」

「……」

「わかった。ちょっと待ってて。時間かかるから」

そう言って裕也はリビングから出て行き、入れ替わりにお母さんがお茶を持って入ってきた。結構、気まずい。

「丹羽子さんとはどういうお知り合いなの?」

「えっと、私も昔、眠ったまんま目を覚まさなくなった時があって、丹羽子さんのヴァイオリンで目覚めたんです」

「あらそうなの。裕也と同じね」

「……」

何も話す事がない時間が流れる。すごく長く感じる。そのうち裕也が戻ってきた。

「いいよ。部屋に来て」

「部屋にあげるの?」お母さんが微妙に怪訝な顔をするのが気になる。

「そうだよ」彼はぶっきらぼうに答えた。

「では失礼します」私は丁寧にお辞儀をし、裕也の後をついてリビングを出た。

部屋に入るとすぐに裕也が聞く。

「丹羽子さんとはどういう関係?」

「えっと、お母さんにも同じこと聞かれたんだけど、私も昔眠ったまま目を覚まさなくなったことがあって、丹羽子さんのヴァイオリンで眼が覚めたの」

「へえ」

「で、私も霊が見えるんだ。だから丹羽子さんにいつも相談していた。そのうちに霊の祓い方を習ったんだ」

「そう。……今、どんな状況?」

「おじいさんの顔が肩に載ってる」

「どう、できそう?」

「やってみるしかないわね」


裕也は、私が丹羽子の時に部屋に置いていったさかきの枝を部屋の隅から取ってきて渡してくれた。ちょっと懐かしい。そして私は、丹羽子の時にやっていたように、裕也を椅子に座らせ、その後ろに立って裕也の頭を抱いた。

「結構恥ずかしいな」裕也が言う。

私だってとっても恥ずかしかった。丹羽子の時には全然恥ずかしいと思わなかったけれど。そして榊でおじいさんの霊の頭をなで、「ここはあなたのいる場所ではありませんよ。どうか離れてください」と言った。これで正しいのかどうか、本当は分からないのだけれど、いつもこれで霊が離れるから。

その時もおじいさんの霊はゆっくりと上にあがり、天井を通り抜けて消えていった。

「へえ、丹羽子さんと全く同じだね」

「まあ、習ったまんま。ははは」

「どうもありがとう。これで明日から学校に行けるよ」

「すっきりした?」

「うん。ありがとう」

「また憑依されたらいつでも私に知らせてね」

「わかった。何かお礼をしたいな」

「じゃあ、ショスタコのピアノソナタを弾いてくれる」

「ああ、あれか。あれは弾けない。難しすぎる。僕は作曲の方に興味があるんだ。ピアノは下手だ」

「そ、そうなんだ。じゃあ、今度一緒にコンサートに行こう」

「いいよ。いいコンサートを探しておくよ」

やった。やはり丹羽子が切り札だった。怖いぐらいにうまくいった。喜び爆発。そして、長居は無用、という事でお母さんに挨拶をしてさっさと帰ってきた。ここらへんが二十五年の人生経験かな。


* *


 もう学校で彼の教室に行くのはやめた。だって、その必要は無いから。するとすぐに佐紀から言われた。

「最近、あの子の教室に行ってないね。つきあっているの?」

「え?」

「バレバレだよ。楽しそうだもん。良かったね」

別に付き合っているわけではないけど、まあいいや。と思った。


 それからは、たまに裕也の家に遊びに行き音楽の話をした。彼は若いのに(笑)、古楽から現代まで、すごく色々な事を知っている。


 ああ、転生してよかったなぁ~。毎日が楽しい。青春のやり直しがこんなに楽しいとは思わなかった。……これがこの時の正直な私の気持ち。

 しかし、もちろん不安もあった。彼に好きな人がいるという佐紀の言葉を忘れるわけがない。かといってそれを彼に聞く事もできない。それを聞いたら告白しているのも同然だから。


* *


 三年生になって、事態は新しい局面に入る。彼が音楽高校を受験すると言い出したからだ。そんなに作曲にのめりこんでいるとは知らなかった。彼の家も大きな会社の社長だし、親は彼に東大とかに行ってほしいと思っているに違いない。これはもめるぞ。っと思った。

 そして私はというと、その事を知って、あせりまくる。だって私も彼が行く音高に一緒に行きたいから。準備に時間が必要だ。受験まであと十ヶ月。私は父親に必死でねだってヴァイオリンを買ってもらった。入門用の一番安いもの。

 私の頭はヴァイオリンの奏法を理解しているのだが、身体がついてこない。練習するとすぐに腕が疲れるし、弦を押さえる指が痛くなってしまう。それでも私は必死で練習し、そして受験の情報を集めた。


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