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丹羽子抄  作者: 北風とのう
第二章 転生
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 もう立ち直れない。激しく落ち込んだ。が、やがて必死で気を取り直そうとした。せっかく転生したのだ。ここでめげてはいけない。水音の可愛さがあればなんとかなるかもしれない。略奪愛なんて世の常ではないか。……再びいろんな考えが頭をぐるぐる回り、胸が苦しくなる。

これってもしかして恋?いや、前世の時の十歳年下で面倒をみていた男の子にまさか恋する事はないよね。ただ、どうやって何でも話せる関係になろうかで悩んでいるだけだ。私は別に彼女になりたいわけではないのだ。私はそう自分に言い聞かせ続けた。


 そのうち、土曜の午後の時間帯でショスタコのコンサートがあった。ピアノソナタではなかったが、まあいいや。そしてお小遣いをはたいてチケットを二枚買う。これを裕也に渡してコンサートに誘おう。それならもしも彼が断っても後がなくなるわけではない。

 しかし、裕也の教室に行ってチケットを渡そうとしてもなかなかチャンスが巡って来なかった、いや、正確に言うと勇気がなかった。「一歩足を踏み出せばいいんだ」と思ったが、教室の入り口まで行くとどうしても足が動かなくなる。

 何日もが無駄に過ぎていき、ついにはコンサートの当日になってしまう。もう十二月。結局、それには一人で行った。音楽を聞いていても全然楽しくなく、色々な考えがぐるぐると頭をめぐる。もちろん隣は空席。

「二十五年の人生経験が何の役にもたたないよ」ものすごく落ち込んだ。

 しかし、よく考えると前の人生では人から告られた事は何度かあったが、自分から告った事は一度もなかったから、こういう場面は経験した事がなかったのだ。


* *


 せっかく西洋の神様がくださったスーパーイベントのクリスマスがなぎのように過ぎていく。ああ、イベントは大事なのにー。そしてニッポンの一年のけじめ、正月休みになる。新年の誓い。今年こそは自分の殻を打ち破るぞ……。しかしどうやって?……相変わらず悩み続ける毎日。


しかし三学期が始まってすぐ、転機が訪れる。

裕也が学校を休んだ。そして次の日も、その次の日も、さらにその次の日も休んだ。そして私は決心を固める。彼の家に行こう。

 霊障で苦しんでいるのかもしれない。おそらく昨年、欠席が多かったのは私(丹羽子)が除霊をしなかったからだ。これ以上彼を休ませる事はできない。私が行って祓ってあげなければいけない。その結果どういう展開になっても私は行くぞ。……と、自分でもすがすがしいと思うほど決心がついた。


 その日の放課後すぐに、目白にある彼の家に行く。お金持ちだからものすごい屋敷。普通の人なら呼び鈴を押すのも躊躇するだろう。しかし私は平気だ。だって何度も来た家だから。

 お母さんが出てきた。丹羽子だってばれたらどうしよう、って、ばれる分けないんだけど。異常に緊張して背中がぞくぞくした。へへへ。

「あ、あ、あの、裕也君の学校の生徒です。裕也君がお休みしているので、ちょっと様子を見に来たのですが」

「よくここが分かったわね。裕也のお友達なのね」

「ええっ。ちょっと知りあいなだけですけど」

「でも悪いけど、裕也は今日は調子が悪くて、部屋から出てこないのよ。伝えても出てこないかもしれない」

「そうですか」

「まあ、聞いてみるね」お母さんはそう言って家に入っていったが、まもなくして出てきた。

「やっぱり誰にも会いたくないって。あの子、たまにこうなってしまうのよ」

「……」


 私は少しだけ考えたが、すでに決心は固まっていた。よし、切り札を使おう。

「あの、実は私は丹羽子さんの昔の知りあいで、裕也君が具合が悪くなった時のために伝言を頼まれているんです」

「……」お母さんはすごく驚いたようで眼を丸くしている。

「えっ、丹羽子さんの?もう亡くなってしまったけど」

「はい。でも丹羽子さんはその前に私に伝言していったのです」

「……。分かったわ。もう一度裕也に言うから待っていてね」

今度は五分ぐらい待たされたが、家に通される。広いリビングで裕也が待っていた。ジーンズに渋いクリーム色のざっくりしたアランセーターがかっこいい。


「なんだお前か。よくうちが分かったな」

裕也は驚いたというよりも、あきれた顔をしている。私は「お前か」と気安く呼ばれた事に無性に嬉しくなる。

「こんにちは。大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ。すごい寒気がする」


 私が見たところ、裕也の肩には知らないおじいさんの顔が載っている。人霊だ。やはり裕也から少しずつ出てくる金色の靄のようなものに包まれて、恍惚の表情を浮かべている。

「丹羽子さんの知りあいなの?」

「うん。黙っていて悪かったけど。実は弟子なの」

「……」

「あの、部屋に行っていい?」

「えっ、僕の部屋?」

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