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さらさらなブロンドの髪と翡翠色の瞳が、こげ茶のラルフローレンのスーツによく似合っている。う~ん、白人にはかなわんなあ、こういう服を着る時は。
彼は報道陣のストロボを浴びながら、にこやかに挨拶をした。
「このような名器を手に入れられて、日本の復興にも貢献できる。さらに元の持ち主は美貌の経営者だ。これなら五億円は安い。よい買い物だった。
しかし、私はヴァイオリンを弾けないので、持っていても意味がありません。これはどうしましょうか?」
一同、シーンとして話を聞いている。
「実は昨晩の演奏を聞いていて、あるアイディアが浮かんだのです。私はこのヴァイオリンをある人に貸そうと思う。もちろん、貸す相手は丹羽子さんです」
そこで会場は大きな拍手にわいた。
やってくれるな。こっちは迷惑だよ。
と、思ったが、この様子もテレビで中継されているので、ノーとも言えず、私は舞台に呼ばれて再びストラドを手に取った。
* *
その後、彼とは月に二~三回のデートをするようになる。話してみると、そんなに嫌なやつではなかった。だいたいデートの場所はヨセミテとかケープコッドとか、アメリカの美しい自然の中で、彼の話は面白く、そしてひたすら優しかった。彼は辣腕経営者として有名だったわけだが、直に話すととっても素直で純真な感じがする。彼の方は一切仕事の話はしなかったのだが、私の方はいけないと思いながらも会長をやっていた時の出来事を色々と話して、今更ながら彼のアドバイスを聞いたりした。……もしかして、こいつと結婚するのか、とも思いはじめたが、その後数日で私の人生は終わってしまう。
アメリカからの帰国便の飛行機が墜落したからだ。私はいつもコーチクラスの座席を二つ予約して、一つにはストラドをしっかり固定し、自分はその隣に座っていた。
ある日シカゴ空港を離陸後二十分ほどして、大きな爆発音がした。たぶん機内での爆発。テロだと思う。一瞬、室内は霧がかかったようになり、機体は大きく左右に揺れはじめ、降下し始めた。さすがに「大丈夫ですから落ち着いてください」なんて言うアナウンスは無かった。だって誰が見たって大丈夫じゃないから。乗員・乗客全員が死を覚悟したと思う。
私も自分の人生を振り返った。もうアメリカ人とのデートにも疲れたし、このへんで終わりにしてもいいかな。と思った。
しかしその時、たまたま携帯エアバッグの試作品を持っている事を思い出す。丹羽電子のマニアックなエンジニアが必死で作りあげたものだ。しかしまさか私だけがこれを使って助かるわけにもいかないだろう。ちょっとだけ考えた末に近くの席の男の子にそれをあげる事にした。男の子の前の席の背面にそれを着けてあげる。ちゃんと動作すれば、怪我ぐらいで済むかもしれない。
飛行機はローリングしながらどんどん降下した。アメリカの領土内に墜落するんだな。先進国アメリカで、これは大変な事になるなと、思った。
そしてものすごい衝撃。
意識を失う瞬間に思ったのは、「エアバッグを上げた男の子が助かったら、すごい丹羽電子の宣伝になるな」だった。死ぬ時に会社の事を考えていたなんて、父の事を笑えない。
明日から転生の章になります。 -北風とのう