Dear She
昔好きな人がいた。
彼女は体が弱くのんびり屋だったけど、釣りとゲーム好きで、優しく笑顔がとてもかわいかった。
当時の僕はと言えば、小学校高学年で転校ばかりしていて、親も離婚。
理由も説明されず。〈どちらに付いていくか〉のみを泣いて怒っている母に聞かれ、親父とは一切の会話を出来ずに別れた。
元々、家に家族がいる事などほとんどなく、楽しい事などあまり無かった。
母もその後は自分自身の事で精一杯で再婚はしたが、二人共忙しくほとんど家にいる事は無かった。
空手・習字・ピアノ・サッカー・塾など習い事は沢山あったが、そのほとんどは中途半端で終わってしまった。
弱みを誰にも見せないように強がり、他人と自分をだましながら生きて来た。
何をしても上手く行く事は無く、何をするべきか何がしたいのかわからなくなっていた。
そんな僕の死にたがりはいつもの事になっており、飛び降りぐらいなら普通にやっていた。
二階や三階ぐらいから飛んでも人って死なないモノでいつも掠り傷ぐらいの物だった。
それ以上の所から飛び降りる勇気も刃物でかっ切る勇気もなく誰にも知られない所に遺書だけたまって行く。そんな馬鹿でつまらない子供だった。
掠り傷程度だから、飛んでも誰にも気付かれないし、死んでも誰にも特に気にされるモノでもないと思っていた。
そんな時に彼女と出会った。
彼女は僕より少し幼く見えたが、年齢は一つ上で
弱い僕に唯一気がついてくれて、そして僕に対し本気で怒ってくれた。
彼女自身が大変なのに一生懸命怒ってくれた。
間違っている事はきちんと諭してくれ、生き急ぎ、死に急いでいた自分を止めてくれた。
僕が彼女を好きになるのにそんなに時間はかからなかったが、恥ずかしがり屋だった僕は彼女と話している事は誰にも言わなかった。
中学に入り、また転校して彼女とは会えなくなったが、同じオンラインゲームを二人とも無理をして買って、一緒にゲームを楽しんだ。
障害は沢山あったが、現実では出来ない彼女との冒険と、現実と同じ彼女の優しさに癒された。
時には言い合いなんかも楽しみながら、僕らは生きていた。
ゲーム中に問題が起こり、僕が彼女の為に怒ると、いつも『気にしてないから大丈夫っ。』
と、優しく僕を止めてくれた。
長く付き合ううちにさらに好きになって行った。
彼女に喜んで貰おうと、手伝いや貯めていたお金を使ってプレゼントを贈った。
渡す時にはいつも少し困ったような顔をしながらも喜んでくれた。
僕は彼女のようになりたかった。
何時も元気で、間違っている所はきちっと伝え、笑顔は絶えない。
誰にも気にはされないけれど、何時も近くにいる、強い花のような…。
彼女の喜ぶ顔が見たくて僕は手伝いやバイトも頑張り始めた。
喜びそうな物を見つけたから。
反面、彼女とは会わなくなっていった。
勉強や付き合いが忙しかったり、時間が合わなかったり、言い訳なら何とでも言える。
頑張ってプレゼントをしようと言う自分に酔っていたのかもしれない。
やっとの事で目標の物が手に入り、今度は彼女の都合で会えずに渡せない日々が続いた。
――そして、やっと会う事が出来た。
彼女の笑顔はいつも通りだった。
プレゼントを渡した時、彼女は驚いて こんな高い物受け取れないよ。と言った。
僕が プレゼントする為に頑張った事を伝えると
何時ものようにちょっと困った顔をしながら受け取ってくれた。
かわりに…と彼女が宝物と言って大切にしていた釣り竿を僕にあげると言ってきた。
僕は彼女がそれをとても大切にしていたのを知っていた。
大切な思い出の品だと言う事を知っていた。
だから、どうしても受け取る事は出来なかった。
そして―――
それが彼女と会った最後の日になった。
『また、すぐ戻りますよ!』
…それが、僕が聞いた彼女の最後の台詞だった。いつもと同じ笑顔だった。
彼女と会えなくなって、僕は高校生になっていた。
彼女が亡くなった事を知るまで、僕は僕なりに必死になって頑張っていた。
強くなるために 守れるようになるために
でも 意味なんてなかった
隣にいるだけで良かったと思う
近くにいるだけで良かったんだと思う
強さなんて求めても お金なんて求めても
好きな人と一緒にいる時間の方が大切だった
そんな事もわからない子供だった
誰からも知らされなかった 彼女の死を知ってから
狂ったように泣きながら
何で僕じゃなく 彼女が死ぬ事になったのか
何で死んでも 教えてくれる人すらいないのか
求めた強さの意味は何か 考えた。
答えの出ない問を永遠に考えた
それからまた月日は過ぎ、
誰かは言う 思いは変質するものだと 何時か忘れてしまうと
誰かは言った 愛は麻薬だと 脳内麻薬による錯覚で一時の気の迷いだと
誰かに言われた 脳内で理想化されているだけだと、酔っているだけだと
僕は彼女の言った最後の言葉を信じ続けている
狂っていると言われようとも 壊れていると言われようとも…。
大好きや愛している とは照れて言えなかった僕は
もう届く事のない メールアドレスに送信した
あれから数年過ぎ
僕は弱くなったと思う
少し引きこもりながらも
貴女のようになりたいと思い
色々な人を助けようと思った。
近い人だけでも助けようと思った。
だけど、進みゆく時が止められないように
人の出会いと別れが止められないように
どうにも出来ない事の方が多かった
でも、僕は貴女が大好きで
それはきっと変わらない。
あの時に出会ってくれて本当にありがとう。
I like all. I love you.