いわく付き地蔵
作:狂風師
あまり多くは前書きで語らないことにします。
ハードル上げてもアレなので。
そんなに怖い話ではないと思います。私は。
夏だし、幽霊が出ると噂の友人の家に遊びに行くことにしよう。
本人もその家で起こった事はあまり知らないらしいが、いわゆる「いわく付き」の物件となっていた。
そんな家に、家賃が安いからという理由だけで住む友人がいること自体が珍しいのだが、それ以上に、普通に生きているだけでは出会えない幽霊の存在に興味があった。
「お前の家、出るんだって?」
「な、何も出ねぇよ。特に飯と金は出さない」
「幽霊だよ。出るんだろ? 俺も見させてくれよ」
「で、出ないよ」
とことん嘘を吐くのが苦手な奴だ。
いかにも怪しそうに出ないと否定するから、逆に怪しくなっていることに気が付いていないのだろうか。
「と、いうわけだから、今日の放課後はお前の家でパーティーだな」
「なぜそうなる…」
そしてさっそく、学校から直接友人の家に押しかけていった。
「…何してんだ。早く開けろよ」
「いや、ほら、部屋の中綺麗にしてくるから」
「そんなの気にしないって!」
見られたらヤバい物なんて、どこに家にもあるもんだ。
そういう俺も、もちろん例外ではない。
…まぁ、そんな話をしても無駄なので今回はやめておこう。
「暑いからもう早く中に入れろよ」
「わ、わかった」
「男同士だ。だいたいのモノなら察してやるよ」
さぁて、念願の幽霊とご対面だ。
本当にいるかどうかは知らないが、いると思えばきっといるだろう。
いわく付き物件、というくらいなのだから、壁紙が剥がれていたり謎のシミが残っていたりしているのかと思っていた。
実際はそんな事もなく、ごく一般的な玄関で、やや拍子抜けだ。
勝手に変な物を想像していた俺が悪いのだけども。
「それでいったい、何のパーティーを?」
「あー…何でもいいか。とりあえずゲームパーティーだ!」
霊感があるわけじゃないから、幽霊の姿が見えるわけでもない。
では、どのようにして幽霊の存在を確認するか。
ずばり、そんな方法は考えていない。
まぁ適当に遊んでいたら出て来るかも、という希望的観測。
「ちょっとトイレ」
「すぐそこ」
「そりゃ狭い家なんだから遠くはないだろ。どこだよ」
友人が無言で指さす方へ行くために立ちあがった。
ゲームをやろうといった俺よりも、それ乗って来た奴が熱中するってどういうことだ…。
わざとテレビの前をゆっくり通って妨害。
殴られる前に素早く退散。
「いだっ!」
足の裏に何かを踏みつけた痛みが走った。
何かと思って足元を見てみると、明らかに男が身に付けるものじゃないカチューシャが。
「…なにこれ」
「あ、そ、それは…」
「お前…あぁ、そうか…」
「な、何を想像してるのか知らんけど、そういうのじゃないから!」
「俺より先に彼女をつくるなんて…。そうだったのか…」
「彼女…? あ、あぁ、別にいいだろ彼女のやつだし」
「裏切り者には…罰だ!」
さっきまで座っていた場所に戻り、友人の後ろに回り込みヘッドロックをかけた。
「いたいいたい! ギブ、ギブ!」
「いいや、ダメだ! この程度で罪が償えると思うな!」
もちろんじゃれているだけなので、すぐに解放してそのまま床に倒し、お次は十字固めを華麗に決める。
技をかけたまま次にかける技を考えていた時、別の部屋から物音が聞こえた。
友人は一人暮らしのはずなので、俺たち以外の他には誰もいないはずだが。
「…何の音だ?」
「別に気にする事じゃないだろ。物が落ちただけかも。ちょっと見てくる」
「俺もいくわ」
「いいって、いいって。少し見て来るだけだから」
技をかけるのをやめると、友人は一人部屋の中へと消えてしまった。
五分ほどで戻ってくると、妙に真面目な顔で、何も言わずにゲーム画面に目を戻した。
結局それが何だったのか友人からは聞くことが出来ず、適当な時間に家に帰ることにした。
「何か、おかしかったよな…?」
ぼんやりと考え事をしながら自転車のペダルを漕いでいると、目の前にあった小さな障害物に気が付かなかった。
当然、それを避ける事なんて出来るわけもなく、そのまま転ぶかと思ったら持ち前の身体能力で転ぶことはなかった。
やや大きめの小石か何かだと思っていたのだが、そこに転がっていたものは、もっと不気味なものだった。
「地蔵…?」
明らかに周りの雰囲気と比べると異質な、全体に蔦の絡まったその地蔵。
そもそも、この辺りに地蔵なんてものは置いてなかったはずだ。
しかも人が丁度通りそうな場所に置いてあるというのも不自然だ。
子供が遊びで動かした、とも考えられるが…そんな事するだろうか。
俺のせいかどうか知らないが、頭の一部が少しだけ欠けている。
「と…とりあえず、元の場所に戻しておいた方が良いよな…?」
どんな罰が当たるのかヒヤヒヤしながら、あまり触りたくもないそれを持ち上げようとしたが、やはり重くて持ち上がらない。
どうしたものかと少しばかり悩んでいたが、不意に鳴き出したカラスの声ですっかり恐怖にやられてしまい、逃げ出すように家まで帰った。
その日は、あまりに不気味すぎた出来事のせいで食事も喉を通らなかった。
ただの気にしすぎだと、そう思っていた。
しかし忘れろという方が無理で、常に頭には地蔵の事が渦巻いていた。
何をしていても中途半端で、何もやる気にならないので、とにかく早く寝てしまう事にしよう。
俺「寝たら、きっと、多少はマシになるだろ」
いつもは気にしない暗闇の中の小さな音。
冷蔵庫の音だったり、上の階の住人の足音、車が通っていく音。
気にし始めたらなかなか寝付けず、結局いつもと変わらないくらいの時間になって眠ることが出来た。
次の日も、朝から体調が良くなかった。
友人「食べないのか?」
俺「…ちょっと食欲なくってさ。あげようか」
友人「…。いや、いらない」
コンビニで買ってきた総菜パンを友人に差し出したが、それを受け取ることはなかった。
まぁ、俺も本気で受け取ると思ってないけど。
半分も食べない内に昼休みの時間が終わり、また怠い午後の授業が開始される。
そんな中でも、昨日の出来事は頭から離れることはなかった。
焦点の合ってない目で数式を眺めつつ、あの地蔵を確認しに行こうと考えていた。
俺「…これか」
無いかと思ったが、昨日と同じように倒れた状態で転がっていた。
ただ、昨日見た時は気が付かなかったが、背中の部分に日付が掘られている。
『二〇一一年 四月十二日』
ところどころ欠けていて読みにくいが、おそらくそうだろう。
しかし、ほとんど一日空いていたというのに、なぜ誰もこれを元に戻そうとしないのだろうか。
かといって俺が戻す訳でもないのだが。
俺「こんな不気味な物、わざわざ見に来るんじゃなかった…」
見たところで、俺の気持ちがスッキリする訳でもないのに。
むしろ、これを見たことで余計に気分が悪くなってきた。
存分に気味悪さを味わったところで、家に帰ろうとしたとき、急に背中に悪寒が走った。
振り向いて見るが、そこには電線に掴まる一羽のカラスがいるだけ。
こんな地蔵を見ただけでビビってるのか?
俺「…くだらねぇ」
再び前を向いて家に帰り始めた。
あと少しで家に辿り着くという時、耳元で小さな声が聞こえた。
何と言っているのか聞き取れなかったが、そのせいで薄気味悪さが倍増した。
正体を突き止める事も出来ず、足早に部屋の中へ駆け込んだ。
リビングのテレビの前に座り、明らかに変だった今日の事を考えた。
地蔵を見てからだよな。
確かに倒れてたとはいえ、縁起が悪い事をした。
だけどあんなもの、いつ誰があんな場所に。
まるで俺に踏ませようとしていたみたいに。
最初から分かっていたが、答えなんて出るはずがない。
飲み物を取りに行こうとして立ち上がった途端、視界がぐにゃりと歪んだ。
そして同時に、家の前でも聞いた聞き取れない小さな声。
その声は次第に大きくなっていったが、日本語とは思えない声で、呻き声のような感じをしていた。
立っている事すら出来なくなり、うずくまって耳を抑えたが、それでも声は止まない。
頭が割れるような大きさまで大きくなっていき、もはや意識を保つことすらできなくなった。
「ここ…は? ……家か」
すでに声は聞こえなくなっていたが、頭痛は未だに続いていた。
頭を押さえながら体を起こして辺りを見回してみても、特にいつもの風景と変わっていないように思える。
ただ、机に上に見覚えのないメモ帳のような紙が二つ折りにされて置かれていた。
近付いてみると、赤黒い色が透けて見えており、それだけで恐怖を感じた。
恐る恐る広げてみると、そこには『呪』の一文字。
「い、いたずらか? たちの悪い…」
書かれた文字はまだ湿っており、数か所から液体が延びていた。
気味の悪い紙を捨てようとゴミ箱まで向かっていく途中、玄関の方から、何か重い物を落としたような鈍い音が鳴った。
まるで石が落ちたかのような。
無意識のうちに嫌な予感が頭の中をよぎった。
「まさか…な」
重くなった足で玄関に向かうと、そこにはあの地蔵が、しかも同じ倒れ方で。
完全に砕けてしまった心と腰。
手の力だけで後ろに下がっていくが、その方向からも同じような音が響いた。
確認するまでもなく何の音か分かった。
「どうして…どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだよ!」
手に込めていた力を全て脚に移し、ここから逃げ出そうと急に立ち上がった。
狭い玄関の僅かな隙間に足をやり、豪快に扉を開けて外に飛び出した。
夏の蒸し暑い空気はそこにはなく、吐く息が白くなるほどの冷たい空気。
そこにあったのは壁であった。
よく見るとそれはただの壁ではなく、いくつもの地蔵が積み重なった壁であった。
俺が玄関から出てきたのを確認したように、石と石が擦れ合う音を鳴らしながら、すべての地蔵がこちらを向いた。
その全ての顔が赤い眼光を放ちながら、歪に笑っていた。
俺を追い込んで、愉快そうに、満足そうに、笑っていた。
後ろを振り向くが、出てきたはずの玄関はなく、全方位を笑った石で囲まれていた。
ゆっくりと、ゆっくりと倒れてきたそれを、避ける術などなかった。
心霊書くのが怖くなって、途中から路線変更しました。
ホラーは難しいことが分かりました。
それでは、お次は愛莉さんのお話をどうぞ。