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そして、その後は……?

作・篠宮


どもです、篠宮です^^

トップ……トップなのにあんまり怖くないかも……(゜o゜)

ホラーを書こうとして途中でコメディっぽくなって、ほんの少し軌道修正してみました。

少しでも、皆様に涼しさを届けられますように^^


「ねっむいな、くそ……」


僕は欠伸を噛み殺しながら、手に持ったコンビニの袋を揺らした。

中身は弁当と飲み物二人分。

そして肩から下げたカバンには、課題が詰まってる。

「レポート苦手なんだよなぁ……」

文系からきしな僕は、反対に文系しかできない大学の友人宅で課題を終わらせようとアパートに押し掛けるわけですよ。

は? 連絡?

とんないとんない。

バイトじゃなきゃ、アパートにいるよ。

いなきゃ鍵のありかは知ってるから、適当に上がり込んで勝手に課題を始めるまで。

その為の献上品弁当なわけですね。



しばらく歩いてついたアパートは、なんかこう……いつもながらにどんよりとしてる。

築四十年という昭和なアパートは、八部屋中三部屋しか埋まってない。

故に、明りが少なくて暗い。

先週、一軒引っ越してしまったらしい。

街灯の明かりを頼りに廊下を進み、目当てのドアを叩く。

一階の右端。

アパートの出入り口からは遠いけど、道端に近い角部屋。

明りが付いてるから、消し忘れじゃなきゃいるだろう。


「おーい、日高。いるかー」

「あー、戸田か? 開いてるよ」


ね?


今時珍しい引き戸のドアを開ければ、部屋の中央に置いてある座卓の前に日高が座っていた。

レポートに手を付けていたらしく、周囲には資料と思しき紙が散乱している。

「お、レポートやってんの? いいタイミング~」

そう言いながら後ろ手で戸を閉めて、中に上がり込む。

「……ん? なんか、冷えるなこの部屋」

中に入った途端感じたひんやりとした感覚に、首を傾げる。

「あー? 冷房掛け過ぎ?」

日高はそう言いながら、手元のリモコンで冷房のスイッチを切った。

ブーンという音とともに、冷気が温まっていく。


僕は日高に悪いな、と言いながら靴を脱いだ。

自宅アパートよりバイト先から近い日高の家は、入り浸る事も多くて勝手知ったる何とやら。

日高の机を挟んで真ん前に腰を下ろすと、ずいっと弁当を押し付けた。

「献上品でございますー。資料貸して」

「おまえ、ホント文系科目苦手だな。まぁ資料貸すくらいはやぶさかではない、ありがたく弁当は貰おう」

弁当を受け取った日高は、ノーパソを床におろして座卓の上を適当に片づける。


「先に飯食ってからやるか」

「だな」


お互い頷きながら、適当に飯を食う。

から揚げがうまい。

なぜ油ものを食べると上手いと感じるのだろう。

沁み出る肉汁、カリカリの歯ざわり。

決して夜中に食うもんじゃないけどな(笑


とりあえずテレビでもつけるか……とリモコンのボタンを押した途端、画面におどろおどろしい映像が流れ始めた。


「なんつーか……この時期、多いよなこういうの」

飯を食いながらつけたテレビは、季節もんが流れていた。

……夏の季節もん、それは怖い話。

日高はから揚げをほおばりながら、微かに眉を顰める。


「……多いよな、ホント。まわそうぜ」


そう言って、僕の持っていたリモコンをぶんどると違うチャンネルにさっさと返る。

途端、バラエティ特有の騒がしい音が聞こえてきて、日高は少し安心した様にリモコンを座卓に置いた。



「何、お前怖いの?」

「……別に怖かないけど、あえて見なくてもいいだろ」

「なんとなく、季節ものだし」

「それで見んなよ。そういう話してるとこって、集まるとか言うしさ……」

あまりにもいつもの態度らしくなくて、ぽかんとしながら日高を見る。

どっちかっていうと、あまり信じないタイプに思ってたけど……。

僕はバラエティ番組に目を移しながら、ぽりぽりと漬物をかみ砕く。



「んでもさ、見えるなら別によくね? 見えないのなら結構怖いけど、でもまー自分が感じられないならいないのも一緒だし」

なんとなくそう口にすると、分からないとでもいうように首を傾げる。

「ふつう、見えるから怖いんじゃないのか?」

「違う。見えるなら逃げるなどの行動がとれるけれど、いるんだかいないんだかわからないでいきなり見えるようになったらどうするんだ」

「どっちも嫌だよ、俺は」



その話はそこまでで、僕たちの会話はレポートに移った。

いかんせん、そんな時期。

提出するレポートは多いのだ。

まぁ、日高の態度がおかしかったのもあるけど。





飯を食い終わってすぐに取り掛かったレポートは、深夜をだいぶまわる頃になって何とか形にはなった。

「ありがたやー資料! これ、資料見つけるだけでもめんどい」

「そうかー? 俺にとっちゃ、実務テストの方がきついんだけど」

そう言ってお互いに背筋を伸ばす。

背中を丸めて文字を打ってたからか、ばきばきと音のなる背中がジジくさい。

「なんか小腹空いたな。コンビニでも行ってくるか」

「あー? 気晴らしに行くかー?」

一つレポートの目途のついた僕は、若干浮かれ気分で鞄から財布を取り出す。

日高より先にくっそ狭い玄関で靴を履き終えて顔を上げると、ふともう一つある部屋に目がいった。

薄く開いている襖の向こうに、布団が見える。


日高の家は二部屋あって、居間兼台所と寝室。

ふとんは一組しかないため、寝る時は取り合いか雑魚寝。



が。

僕の興味はそこじゃなかった。



にやにやと日高を見て、声を顰めた。

「何だよお前ー。言えば帰るのに」

「……は?」

いきなりにやけはじめた僕を怪訝そうに見ながら、何が? と首を傾げた。

僕は口に手を当てて笑いをこらえながら、手を伸ばして自分の鞄を引き寄せる。

「だからー、そういう事なら先に言えよ。僕、すげーお邪魔虫だったんじゃん」

「そういうこと?」

人がせっかく気を遣って言葉を濁してやってんのに、日高に全く通じない。

何度目かのやり取りの後、焦れた僕は寝室を指さして耳元でしっかりと言葉にしてみた。

「だから! 彼女連れ込んでるんだったら、先に言えっての!」

寝室に敷いてある布団、思いっきり膨らんでんじゃねーか! 

しかも布団から出ている頭には長い髪の毛!


「彼女?」


それでも吐かない日高の頭を掴んで、隙間の空いている寝室のドアへと向けた。

「あれが彼女じゃなくてなんだってんだよ! 髪の長いおにーさんか? そっちの趣味か?」

隠さなくてもいいじゃんかよ!


日高は僕の手を振り払うと、口を真一文字にして押し黙った。


「……マジで?」


ぽつりと、それだけ呟いく。


こころなし顔色が悪くなってきたように思えて、どうしたんだろうと見上げていたら。

こくり。つばを飲み込んだ音の後、日高がむんずと僕の腕を掴んだ。


「……日高?」


挙動不審もいいとこの日高は、僕の腕を掴んだままゆっくりとした動きで玄関の引き戸を開ける。

そのままやっぱりゆっくりとした足取りで廊下に出ると、極力音を立てない様にかちりと鍵を閉めた。

そして僕の腕を掴んだまま、昭和の香り一杯のアパートから表へと出る。

自分のアパートだというのに、物凄く音に気を付けてゆっくりと。


「なぁ、お前どーしたの? コンビニ行くんなら、反対方向だぜ?」

「……お前んちに行こう」

「はぁ? なんで! お前、彼女置いてけぼり……っ」

「誰もいねぇよ! うちには俺しかいなかったっての!」



………………え?



「でも、布団盛り上がってて、髪が……」

長い髪が、広がって……


そこまで言って、思い出す。

長い髪が広がって……どのくらいだった……?

どのくらいの長さだったか、わからな……



「……」

「……」



思わず見つめ合って、ゆっくりと後ろを振り向く。

そこはアパートの一番右端、角部屋。

日高の部屋の、寝室。



その、雨戸もないその窓の、窓の……したの辺り……




「……っ」



声にならない声に押されるように、僕と日高は駈け出した。

曇りガラスに押し付けられた、誰かの手のひらから逃れる様に。







お互い何も言わないままいつの間にか全力疾走で、歩いて十分・走って五分の場所にある僕の部屋に駆け込む。

比較的新しい物件のうちは、女性も住んでいるから結構明るい。

その明るい廊下を先を競うように駆け抜けて、部屋に駆け込んだ。

当たり前だけど電気のついていない部屋に、慌てて電気のスイッチを入れる。

部屋が明るくなっても安心できず、さっさと上がりこんだ日高がカーテンを閉めて回った。



「……」

「……」



一通り終えて顔を見合わせる。

そのままずるずると床に座り込んだ。



「……心当たり、あんの?」



僕が布団に女の人がいるって言っただけで、そんなに顔色なくした、とか。

言外の意に気付いたのか、日高は少し気まずそうにこくりと頷いた。

「お前、いつの間に何かの犯ざ……っ」

「違う!」

食い気味に僕の言葉を遮ぎった日高は、あれだよ……と口を開いた。

「先週越してった同じアパートの人がさ、言ってたんだよ。大家さんの手前詳しくは言ってなかったけど、気付いたら知らない女がいたって」

「知らない、女?」

ゆっくりと頷いて、それから何か気になったのかぐるりと周囲に視線を巡らす。


「……なんか、髪の長い女が布団にもぐりこんでて。不法侵入者かと思って布団まくり上げて怒鳴ろうとしたら、……消えちゃったって」


……さっきのおかしな態度、それの所為か!


「お前、すぐ引っ越せよ! つか、僕に言えよ! そしたら行かなかったのに!!」

「いや、だって本当だとは思えなかったし! 結構遊んでる人だったから、ストーカーとか……」

「それもやべぇよ! やめろよお前、こっち来ないだろうな。連れてきちゃってねーだろうなぁっ!」


思わず不安になっていった言葉だったけれど、言わなきゃよかったとすぐに後悔した。



「……」

「……」



二人の視線が、もう一つの部屋……寝室へと向く。


隙間の空いていない、寝室のドア。

見る為には、自分であけなきゃいけない。



ごくり。



どちらのものかわからないつばを飲み込む音が、静かな部屋に微かに響いた。



僕はさっきとは反対に日高の腕をつかむと、意を決して寝室のドアをゆっくりと、あける。

そこには――




「……」




――見えても怖いものは、怖い。

お読み下さりありがとうございました^^


次話、狂風師さんです。

よろしくおねがします(^_^)/~

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