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情報セキュリティがない世界

掲載日:2026/07/04

 ある日、こんなニュース記事を見た。

 

 『情報セキュリティの穴を発見する能力が極端に高いAIが開発された。あまりにも能力が高過ぎる為、犯罪組織による悪用を懸念した開発企業は公開を延期している……』

 

 職場で昼食を食べる時は、いつもパソコンでニュース記事を眺めながら過ごすのが常なのだけど、その時に。

 僕はそれを見た瞬間、不安になった。

 “もしも、こんなAIが一般的になってしまったら、銀行貯金なんか簡単に盗まれてしまうのじゃないだろうか?”

 お陰で、その後のお昼寝タイムもあまり心地良い気分にはなれなかった。なんとなく寝苦しい。

 目が覚めると、僕は僕が利用している銀行のホームページにアクセスしてみた。多分、大丈夫だとは思うけど、“まさか、サイバー攻撃なんか受けてないよな?”と不吉な想像をしてしまったのだ。

 そこで僕は目を丸くした。

 「重要情報だって?」

 そこには今現在、銀行口座にアクセスできない事態が発生している旨が書かれていたからだ。原因究明中とのこと。ネットで検索をしてみると、『情報セキュリティの穴を発見するAIがサイバー攻撃を仕掛けたのじゃないか?』なんて書いている人がいた。本当だったら、かなりまずそうだ。気が気じゃなかったけれど、仕事を休む訳にはいかない(まぁ、どうせ僕にできる事なんて何一つないのだけど)。僕は不安に苛まれつつ、一日の仕事をこなして帰宅した。

 自宅に辿り着いた僕は、パソコンでその件を詳しく調べてみようとして驚いてしまった。あっさりと銀行システムが復活していたからだ。しかも、サイバー攻撃の情報が嘘だったという訳ではなく、それはどうやら本当のようだったのだ。では、どうしてこんなに速く復活できたのかというと、銀行や警察もAIを利用して犯罪組織を捜査したからだったらしい。

 “情報セキュリティの穴を発見するAI”

 犯罪組織にそれが使えるのなら、銀行や警察にだって使えるのも当然の話で、そのお陰で簡単に摘発されてしまったという訳だ。

 僕はその記事を読んでホッと安心していた。とんでもないAIが現れたと不安に思っていたけれど、これなら案外そこまで酷い事態には陥らないのじゃないか?

 だけれども、それから世の中は僕の予想外の方向に向っていってしまったのだった。

 

 連日のようにニュース記事は新たな犯罪組織の摘発や逮捕を報じていた。AIのお陰で、実質的に秘匿行為が不可能になり、犯罪組織は証拠を隠す事がほぼ不可能になってしまったのだ。もちろん、完全にオフラインのみならその限りにあらずだけど、現代において、ネットに接続する情報機器を使っていない犯罪組織なんて皆無だろう。

 そして、そのようにして明るみになっていった犯罪組織の中には、政治家や官僚との繋がりがある組織もあったのだった。当初はマスコミはその事実を隠そうとした。が、それすらもAIを利用すれば直ぐに暴かれていってしまう。やがては大物政治家や官僚の名前も世間に公開されるようになり、世の中は騒然となっていった。

 「捏造された事実だ!」

 と、彼らは主張したけれど、誰も信じなかった。捏造された内容も確かにあったけど、その場合は直ぐにAIを利用して誰かが捏造の証拠を見つけて直ぐに分かるからだ。そして、ほとんどのケースで捏造の証拠は見つからなかった。

 日本だけじゃなく、世界中で似たような事が起こっていた。それが革命にまで発展した国まであった……

 つまり、情報セキュリティがなくなった世界では、後ろめたい秘密を持った人や組織は生き残れなくなってしまったのである。

 “これは……、実は案外住み易い社会にこれからなっていくのかもしれない”なんて事を僕は考えた。もちろん、僕の秘密だって暴かれてしまうという懸念はある。けど、僕の後ろめたい秘密といえば、アダルトサイトの利用ログくらいだ。それくらいなら、まぁ、我慢できる。やっぱり、ちょっと恥ずかしいけれど……

 

 「……何、寝言言ってるんだ?」

 

 呆れた声が聞こえた。

 目を開ける。そんな僕に呆れた声は更に続けた。

 「お前の後ろめたい秘密なら、まだあるだろうが? 仕事時間中に寝ている事だよ」

 見ると、その声の主は職場の同僚だった。パソコンで時間を確認すると、昼休みが十分ほど過ぎていた。どうやら彼が起こしてくれたらしい。

 「あ、うん。悪い。起きられなかったみたいだ」

 どうやら僕は昼食後に眠って、変な夢を見ていたらしい。多分、変な夢を見たのは“情報セキュリティの穴を発見するAI”の記事の所為だ。パソコン画面には、今もその記事が映っていた。

 同僚は僕の視線の先に気が付いたのだろう。それを見るとこう言った。

 「この話、本当なのかな?」

 「“本当なのか?”って」

 「AIの開発企業ってさ、AIの宣伝の為に誇大広告をやりがちらしいんだよ。公開を禁止にしているってなら、真偽は隠し易いし、案外これもその宣伝の一環なのじゃないか? って俺は疑っている」

 「はー」と、それに僕は返した。

 そんな事、考えもしなかった。ただ、単なる誇大広告かどうかは分からないだろう。それこそ、“情報セキュリティの穴を発見するAI”でもなければ、確かめられない。

 ただ、記事では、後数年でこのAIと同様の機能を持ったAIが世界中で生み出されるだろうとも書いてあったから、真偽のほどは、いずれ分かるのかもしれない。

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