表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに大陸を落とした男――気づけば公爵令嬢と参謀と商人に囲まれている  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/100

94:レオニア=象徴

静かな世界だった。


戦争は消え、命令は消え、強制も消えた。


だが――


空白ではない。


人は動いている。


選び、迷い、ぶつかりながら、それでも進んでいる。


その中心に、意図せず立たされている者がいた。


レオニア・アルディウス。


若き前線指揮官。


かつては戦場で剣を振るい、命令を下し、兵を動かしていた女。


今は違う。


剣は帯びている。

だが抜かない。


命令する立場にいる。

だが命じない。


それでも――


人は彼女を見る。



「……やりづれえ」


レオニアは吐き捨てた。


広場の中央。


人が集まっている。


理由は単純だ。


彼女がいるからだ。


ただ、それだけ。


「何もしてねえのに」


苛立ちを隠さない。


だが、その言葉とは裏腹に、彼女は理解している。


なぜ人が集まるのか。



「象徴だからよ」


マリナ・ルクレツィアがあっさりと言った。


軽い口調。


だが核心を突く。



「……は?」


レオニアは眉を寄せる。


「象徴? 誰が?」


「アンタ」


即答だった。



「冗談だろ」


レオニアは笑う。


だが、誰も笑わない。



エルディア・ヴァレンティナが静かに口を開く。


「冗談ではない」


「現在、この地域において“最も強く”“最も判断を誤らない”と認識されている存在」


「それが貴女だ」


冷徹な分析。



「……だから何だ」


「だから、人は見る」



短い会話。


だが、重い。



レオニアは周囲を見た。


人。


商人。

農民。

職人。


誰も命令を待っていない。


だが――


判断の瞬間になると、視線が集まる。


自分に。



「……最悪だな」


小さく呟く。



その時。


また、揉め事が起きた。


荷の配分を巡る争い。


以前と同じ構図。


だが違うのは――


「……どうするんだ?」


誰かが言った。



視線が集まる。


レオニアへ。



「……知らねえよ」


即答した。


突き放す。



だが、人は動かない。



沈黙。



「……自分で決めろ」


レオニアは続けた。


「俺は関係ねえ」



それでも――


人は動かない。



エルガード・カウフマンはその様子を見ていた。


何も言わない。


ただ、観察する。



「……違う」


小さく呟いた。



レオニアが振り返る。


「何がだ」



「突き放し方が間違ってる」



静かな指摘。



「は?」


苛立ちが滲む。



「関係ない、じゃない」


「関係はある」



「あるから見てる」



その言葉で、空気が変わった。



レオニアは黙る。



エルガードは続ける。


「お前はもう、“ただの一人”じゃない」


「選ばれたわけじゃない」


「でも、見られてる」



「それが象徴だ」



沈黙。



「……ふざけんな」


レオニアは吐き捨てる。


「そんなもん、勝手に押し付けてんじゃねえ」



正論だ。



だが――


「そうだな」


エルガードは否定しない。


「勝手だ」



「でも、それが現実だ」



逃げ場はない。



レオニアは歯を食いしばる。



再び、揉めている連中を見る。



「……チッ」


舌打ち。



一歩、前に出た。



「おい」


声をかける。



全員が振り向く。



「条件出せ」


短く言う。



「お互い、譲れるライン」


「それを出して、合わせろ」



命令ではない。



指示でもない。



ただの“枠”だった。



「……半分」


「いや、三割だ」


「それなら――」



会話が始まる。



人が動き出す。



レオニアは何もしていない。



だが――


流れは生まれた。



やがて、決着する。



「……終わったな」


マリナが呟く。



レオニアは黙っている。



拳を握っている。



「……これが」



「象徴、か」



低い声。



エルディアが頷く。


「支配ではない」


「強制でもない」



「だが、影響はある」



マリナが笑う。


「便利ね」



「最悪だろ」


レオニアは吐き捨てる。



エルガードは静かに言う。


「バランスだ」



「支配すれば壊れる」


「放置すれば崩れる」



「その中間に立つ存在」



「それが象徴だ」



風が吹く。



人は動いている。



レオニアはそれを見る。



「……面倒くせえな」



だが――


少しだけ、口元が緩んだ。



剣は抜かない。


命令もしない。



それでも、人は動く。



それを壊さないように。



「……見てるだけ、かよ」



その言葉に。



エルガードは答える。


「違う」



「立ってるだけだ」



それだけでいい。



それだけで、世界は動く。



レオニア・アルディウス。



それはもう――



人ではなく。



“象徴”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ