表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに大陸を落とした男――気づけば公爵令嬢と参謀と商人に囲まれている  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/100

48:利益 vs 人間性

 数字は、嘘をつかない。

 だが――人は、数字では測れない。


 商業国家ミラージュ、ヴァルセリオン港。


 夕刻。


 流れが、歪んでいる。


 本来なら滑らかに巡るはずの荷が、滞る。


 荷車が止まり、人が苛立ち、声が荒くなる。


「……遅れてるぞ!」


「港が詰まってる!」


「誰の判断だ!」


 怒号。


 それが、市場の“異常”。


 だが。


 崩壊ではない。


 まだ。


 耐えている。


 マリナ・ルクレツィアは、その様子を静かに見ていた。


「……出ましたわね」


 エルディア・ヴァレンティナが帳面を開く。


「流通停滞地点、三箇所」


「影響範囲、拡大中」


「だが」


 一拍。


「完全停止はしていない」


 つまり。


 “耐えている”。


 アルバン・クロイスが腕を組む。


「……想定内だ」


 冷静。


「多少の遅延で崩れるほど、この国は脆くない」


 誇り。


 事実でもある。


 マリナは、ゆっくりと頷く。


「ええ」


「だから、次に進みます」


 一歩。


 踏み込む。


「……まだやるのか」


 レオニアが笑う。


「当然ですわ」


 マリナは即答する。


「まだ“本質”が出ていませんもの」


 その言葉に。


 アルバンの目が細くなる。


「……何が足りない」


「“人”です」


 一言。


 空気が変わる。


「今のは“物流の問題”」


「だが、本質はそこではない」


 一拍。


「“選択”です」


 エルガード・カウフマンが、わずかに視線を上げる。


 その言葉。


 理解している。


 マリナは続ける。


「この状況で」


「誰が、何を優先するか」


「それを見る」


 市場の試験ではない。


 “人間の試験”。


 アルバンが低く言う。


「……それは、危険だ」


「ええ」


 マリナは迷わない。


「ですが」


「それを見なければ、“限界”は分かりません」


 沈黙。


 短いが、重い。


 やがて。


「……許可する」


 アルバンが言う。


 決断。


 即断。


 それが、この国。


 マリナは頷く。


「では」


 一拍。


「価格を動かします」


 その一言で。


 全員が止まる。


「……は?」


 レオニアが声を上げる。


「値段、か?」


「ええ」


 マリナは淡々と答える。


「供給を絞り、価格を上げる」


「同時に、一部は逆に下げる」


「不均衡を作る」


 一拍。


「その時、人はどう動くか」


 完全に“市場操作”。


 アルバンが息を吐く。


「……極端だな」


「必要ですわ」


 即答。


 エルディアが補足する。


「利益と、生存がぶつかる」


「どちらを取るか」


 それが見える。


 そして。


 始まる。


 価格の変動。


 急激な。


 商人が動く。


 物資を抑える。


 高く売る。


 利益を取る。


 それが“正しい”行動。


 だが。


「……売らないのか」


 誰かが言う。


 食料を抱えた商人に。


「今はな」


 商人は答える。


「もっと上がる」


 合理。


 正しい。


 だが。


 その横で。


 別の商人が、静かに言う。


「……売る」


「今、必要な奴がいる」


 安く。


 利益を削って。


 売る。


 レオニアが笑う。


「出たな」


「人間性」


 マリナは、じっと見ている。


 動きを。


 選択を。


 分かれている。


 明確に。


 利益を取る者。


 人を取る者。


 どちらも正しい。


 だが。


 同時には、成立しない。


 アルバンが低く呟く。


「……これは」


 一拍。


「危ういな」


 市場が、分裂する。


 価値観で。


 それは。


 教国と同じ構図。


 だが。


 こちらは、“金”。


 エルガードは、流れを見る。


 歪んでいる。


 だが。


 動いている。


「……どう思う」


 エルディアが問う。


 静かに。


 エルガードは、少しだけ考える。


「……必要だ」


 短く。


「何が」


「両方」


 一拍。


「利益も、人間性も」


 それが答え。


 マリナが、わずかに笑う。


「ええ」


「どちらかでは、持たない」


 それが結論。


 だが。


 問題は、そのバランス。


 アルバンが言う。


「……ならば」


「どうする」


 問い。


 核心。


 エルガードは、流れを見る。


 そして。


「……固定しない」


 一言。


「変え続ける」


 それが答え。


 マリナが頷く。


「流動性ですわね」


「固定した瞬間、腐る」


 市場も。


 人も。


 同じ。


 レオニアが笑う。


「面倒だな」


「でも」


 一拍。


「面白え」


 それも真実。


 流れは続く。


 歪みながら。


 ぶつかりながら。


 変わりながら。


 利益と、人間性。


 どちらも必要。


 だが。


 同時には取れない。


 だからこそ。


 選び続ける。


 それが。


 この戦場だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ