14. 変わらない君
真実を知ったあの日から、大きく変わったことが1つある。
屋敷の外の世界との断絶がなくなったのだ。
──ブレイドの新しい婚姻や、養子に入ったノックスのことをもう私に隠す必要がなくなったから。
閉じられることがなくなった門を出てみると、屋敷は町に比べて自然が豊かな場所に建っていることが改めて分かる。
ブレイドが屋敷を訪れないと分かっている日には、散歩に出ることもあった。
距離を保ちながら、騎士がついてきてはいたけれど。
目の前の道は舗装されていない鄙びた道で、領内の町と町を緩やかにつなぐ。
その脇には点々と農家が並び、広い畑で沢山の作物が豊かに育てられていた。
少し歩いたところには小高い丘と、小さな林がある。
ほとんど人が訪れないその丘には野生の花々が季節ごとに咲いていて、美しかった。
庭師が整えていた屋敷の裏庭には見ない植物もたくさんあり、バケツとスコップを持って出かけては見たことのない花や草をその丘から持って帰る。
それを屋敷の園芸の専門書で調べては庭に植えることが、小さな楽しみになった。
1人で庭の手入れをしていると、自分の知識不足を嫌というほど思い知らされる。
私はブレイドに園芸や土木の専門書を集めてもらうように頼んだ。
彼は私に集中できるものができたことにホッとしたようだったし、それが花や木々に関することであることを喜ばしく思っているようだった。
そのためお屋敷の本棚にはそれらの本がどんどん増えていく。
中には侯爵家から持ち出されたと思われる、立派な装丁だけれどもとても古い書物もあった。
* * *
「リリー」
裏庭で寄せ植えを作っていると、屋敷からブレイドの声がする。
「ここよ。裏庭」
今日は早い訪問ねと思いながら声を上げると、すぐに気軽な服装のブレイドがテラスに現れた。
私の姿を認めると、ホッとしたような笑顔を見せる。
「早いのね。お昼は食べたの?」
「いや、何も食べていない」
「お肉をパンに挟んだ簡単なものなら用意できるわ。これにお水をあげたら終わりだから、少し待っていて」
「ああ」
ブレイドはこの屋敷の外でどのような時間を過ごしているかなどは一切私には明かさない。
私も彼が話さないことは決して尋ねないようにしている。
それで、良いのだ。
そういう関係なのだから。
気持ちを意識して切り替えて、パンにはどの野菜を挟もうとぼんやりと考えながら寄せ植えに水をあげ始めると、ジョウロの周りに小さな虹ができた。
「……ブレイド、虹だわ!」
思わずブレイドをふり返ると、彼はテラスのベンチに腰掛けてこちらをまぶしそうに見ていた。
「どうしたの?」
「いや……君は、変わらないな。いつまでも」
懐かしいものを見るような口調で、微かに微笑みながら静かに呟く。
変わっていないはずなど無いのに。
この数年の間に私達に起きた出来事が、私に何も影響を与えていないと本当に思っているのだろうか。
それでも。
虹を見つけた小さな喜びを、今でも私はこの人と共有したいのだと──そんなことにも気付かされて胸が苦しくなる。
……だめだ、今はこれ以上考えるのはやめておこう。
私は何も言葉にしないまま、ブレイドが見つめる光の中で水をかけ続けた。




