10. 明かされる真実 1
「俺の名前はブレイド・オブ・ラナドニア。領主ラナドニア侯爵の次男として生まれて、今は後継者の立場にある」
ブレイドは私の前に跪き顔を見上げながら、静かに語り始めた───。
* * *
俺は侯爵である親父としがない子爵の三女との遊びの間に、庶子として生まれた。
親父と正妻である夫人の間には既に嫡男である兄が生まれていたので、一応次男とは言え庶子の俺は後継には全く絡まない存在として領地の片隅で緩く育てられた。
長男である兄貴が優秀で跡継ぎとして揺るぎなかったこともあって、俺は侯爵家の中枢には極力関わるつもりはなかったし、それで良いと周りも皆そう思っていた。
だから貴族の子弟が通う王立学園を卒業したあとは親父が展開する商店を任せてもらうことで話がついて、俺は円満に貴族籍を離れて平民として領地に下った。
……そう、俺が勤めているあの商店。
あの商店の実際のトップは会長ではなく、俺だ。
商店を更に発展させて、領地内の経済を活性化させることで侯爵家を支えていくつもりだったんだ。
親父や兄貴は俺には領地内の有力者の娘をあてがうつもりだったようだけれど、俺は市井の生活が新鮮で、仕事が楽しすぎて、結婚なんかまだ先だと突っぱねていた。
……そんな時に、君に出会った。
花を抱えて笑う君は、溢れる緑の中で光を浴びて働く君は、とても眩しくて。
貴族の仲間達に感じた血の連帯感とも市井の平民との交わりから得る高揚感とも違う、抗えない熱を俺は初めて知った。
世界はこんなにもキラキラと輝いているのかと思ったよ。
君は気づいていなかっただろうけれど、君はとても人目をひいていて、君を狙う男はものすごく沢山いた。
だから君と交際できた時はその幸運に天にも昇る心地だったし、付き合った1年でその愛しさは薄れるどころか深まるばかりだった。
もう他の女との結婚なんて考えられないと思った。
だから、侯爵家には黙って婚姻届を出したんだ。
俺の身元を知れば気後れするだろう君には、天涯孤独だと嘘をついて。
商店の上の者達の報告で侯爵家にはすぐにバレたけれど、俺は構わなかった。
既に平民になっていたし、嫁の実家の財力の有無なんて自分自身で結果さえ出せば文句などないだろうと思っていた。
そして、実際に結果も出していた。
領地を経済活動で支える、それで何も問題ないと思っていたのに……。
兄貴の体調が急激に悪くなった。原因不明の病気だ。
ノックスが生まれた頃のことだ。
兄貴は結婚はしていたけれど、まだ子供に恵まれていなかった。
もし兄貴に何かあれば、跡継ぎがいなくなる。親父は焦った。
俺には息子が生まれている。
親父は俺に、ノックスを連れて侯爵家に戻れと言い出した。
それをかわしていたけれど、事態はどんどん厳しくなっていった。
──そして、2年前の夏。遂に兄貴は死んでしまった。
親父の焦りはもうすさまじくて、侯爵家へ戻れと、さもなくばノックスだけでも渡せと商店に使者を寄越しては無茶な要求を繰り返した。
園芸店の彼女が聞いたのはその時の俺の怒鳴り声だ。
このままだと俺達が住んでいたアパートにまで来て、強引にノックスを奪われかねない。
それだけは避けたくて、俺は君とノックスを別邸に移した。
侯爵家の屋敷にノックスを囲い込んでおけば、親父は安心して無茶なことはしないから。
…………そう。他の領地の貴族や商店に狙われているというのは、嘘だ……。
敵がいるよう演じろと会長にも命じて、君に危険が迫っていると思い込ませて引っ越させた……。
別邸に移ったあとは、商店からは離れて跡継ぎの仕事を代行しながら、優秀な後継者候補を親戚筋に探した。
そいつを侯爵家に養子に迎えさせて、また家族3人で町に戻るつもりだったんだ。
……だが、適当な男がいなかった。
能力や年齢を見た時に、侯爵位を継げるやつがいなかったんだ。
このままだと侯爵家は終わりになる。
そうなると侯爵領は王家へ返納となる。
領民の生活が一変してしまう。
数百年続いた侯爵家も途絶える。
俺は焦った。
そんな、後継者探しに行き詰まり頭を抱えていた頃。
────親父から、兄貴の元妻を娶れと命じられたんだ。
義理の姉の実家である伯爵家とは、その縁で様々な政策を共にしていた。
このままだと家同志の繋がりが途絶えてしまう。
そして義理の姉も、慣れ親しんだ侯爵家を出て未亡人として生きるよりは、俺との婚姻を望むと。
……俺は、君を愛していた。今でも誰よりも、何よりも愛している。
……だが。数百年続いてきた侯爵家を終わらせる決断はできなかった……。
だから。
俺は侯爵家の後継者となることを決意し……兄貴の妻だった女性と、結婚したんだ。




