元・不死鳥、現・消防士〜今日も燃えないように燃えに行く〜
──俺はかつて、フェニックスだった。
燃えては蘇り、蘇ってはまた燃える。世界が「ヤバい」「もう終わった」と言い出す頃には、だいたい俺が原因だった。
山を焦がし、海を蒸発させ、自分が蘇るために、意図的に都市を焼いたこともあった。神々からは「お前ちょっと自重しろ」と言われた。
そして気づいたら──
「火野! お前また寝坊か!」
消防署の詰所で怒鳴られていた。
現在の俺は、火野 恒一。
地方都市の消防士。不死でも神獣でもない、ただの地方公務員だ。翼はないし、炎を吐こうとすると普通にむせる。
だがなぜか火に強い。訓練で火に近づいても、教官が「ちょ、近すぎ!」と叫ぶくらい平気。
同僚からは「火野って前世マグマ?」とか言われている。
惜しい。かなり惜しい。
◆
その日は総合病院の大火災だった。
「地下から出火! 患者多数!」
サイレンを鳴らしながら出動する。病院は燃えたら終わりのオールスターだ。
カーテン。薬品。酸素ボンベ。俺の元同類みたいな奴らが勢揃いしている。
「よし、救出優先だ!」
隊長の指示を受け、俺は走った。煙の中、患者を抱え、階段を何度も往復する。
──ああ、この熱。
懐かしい。昔はこの三十倍くらいの炎で昼寝してた。
「火野! 顔近い近い! 眉毛焼けるぞ!」
「大丈夫です、替えはあります!」
「替えって何だ!?」
◆
一時間を過ぎた頃、医者や職員、患者全員の救出完了。鎮火も目前──と思ったところで。
「すみません……主人が……」
避難者の中から、老婆が震えながら言った。名簿を見る。確かに一人足りない。
「……俺が行きます」
「待て火野! もう限界だ!」
俺は振り返り、親指を立てた。
「俺、燃えるの得意なんで」
意味がわからないという顔をされたが、気にしない。
◆
中は、完全に地獄だった。天井は落ち、梁は崩れ、黒煙で前が見えない。普通の人間なら三歩でアウトだ。
──が、俺は普通じゃない。
「フェニックス的には、まだ序盤だな」
八階まで一気に駆け上がる。中央の個室に、老人がいた。
「お迎えです!」
「……天国かい?」
「違います、消防です。方向は逆です」
老人を抱えた瞬間、天井が派手に崩れ落ちた。熱と炎が迫ってくる。
──昔の俺なら、ここで翼を広げていた。今は、背中だ。
瞬時に老人に覆いかぶさり、瓦礫を受け止める。
「ちょっと熱いですが我慢してください!」
俺は歯を食いしばり、前へ進んだ。体の奥が、かすかに燃える。
「……久しぶりだな、この感じ」
崩壊寸前の建物を抜け、俺たちは外へ飛び出した。
◆
歓声。拍手。泣き崩れる家族。
「ありがとう!」
「命の恩人です!」
老人は俺の手を強く握った。
「本当に……ありがとう……」
「いえ、公務ですので」
そう言って、俺はそっと距離を取った。ヒーロー扱いは性に合わない。
同僚が肩を叩く。
「お前……何者なんだよ」
「元・鳥です」
「は?」
「冗談です」
──半分は。
◆
夜空を見上げる。もう炎はない。
不死鳥だった頃は、世界を救っても誰とも肩を並べられなかった。
今は違う。汗をかき、怒鳴られ、ホースを握る。
──悪くない。
「現代に転生したのも、案外アリだな」
俺はヘルメットを被り直し、消防車に戻った。次に燃えるのは、きっと世界じゃなく、どこかの現場だ。
それでいい。俺は今日も、覚悟を燃やして火に挑む。
──元・フェニックス、現・消防士として。
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