3話 警官は踊る 【フリガナ版】
_「あっああーーそんな、だめ!起きて、起きてよ」
私は、彼女の死体を抱きしめる。
_「どうして、どうしてこんな事をするの、ルイ!」
死体の瞳に映るルイは、血の付いたナイフを終い、その場を後にする。
_「ねえ、待って。止まって!」
コートを掴もうとする手は、無情にも、すり抜けていく。
_「待って!…ごめんなさい」
そっと、死体を地面に降ろし、ルイの後を追った。
ルイは、速足で、ぼろぼろの空き家へと向かう。
_「・・・」
_「待って。待っててば」
ギーバタン!
勢いよく閉められた扉に、足が止まる。
これはルイの、誰も寄せ付けないと言う、意思表示なのかもしれない。
_「だめよ。ひるんじゃ」
ゆっくりと扉を抜けて、暗い部屋の中に居る、ルイを捜した。
_「ルイ。どこにいるの…」
バリンッ
_「ああ。あっああーー」
部屋の奥から、激しい物音と叫び声が、聞こえてくる。
バッ
_「ルイ!」
部屋は乱れ、暴れ狂ったルイは血と涙を流し、地に崩れ落ちた。
_「・・・」
複雑な感情を押し殺す…
すり抜ける、ルイの身体を、優しく抱きしめた。
_「マルコ!こっち来い」
_「はい」
_「この傷を見てみろ」
_「えっ・・・うぷっ」
_「おい!吐くなよ」
_「はう、うっ。はい」
_「そろそろ、死体ぐらい慣れろ!」
_「そうですよ。
そんなことでは、いつまで経っても、警視に追いつけませんよ」
_「おいおい。自分の息子に追いつかれてたまるかよ」
_「すみません。必ず、追いついて見せます」
_「追いつくつもりなんだね…」
_「まずは、一人前の警官を目指せ。話は、それからだ」
_「はい!」
_「亡くなったのは、10~30代の女性。
身なりからして…貴族か商家の娘だろう」
_「心臓を一突き。例の殺人鬼ですかね…」
_「えっそれって!」
_「・・・しばらく静かだったが、また動きだしたのか」
_「父さん。自分も、捜査に加えてください」
_「現場では、父さんと…」
真剣な眼差しを向けるマルコ。
_「わかった。各自、目撃者がいないか、聞き込みを行え!」
_「はい」
_「警官大量殺人事件に、殺人鬼事件。物騒な世の中ですね」
_「・・・ああ」
雲一つ無い、快晴の空を見上げる。
_「・・・朝」
目を覚ましたベル。
気持ち程度の、クッションと、ブランケットが、付近に添えてあった。
_「また、眠ってしまった…」
_「起きたか。もう、昼過ぎだぞ」
昨夜の面影が無い…
_「ふー」
ルイの様子を見て、安堵する。
_「こんな時間まで、ここに居たら、屋敷の人が心配するんじゃない?」
_「心配は、されないと思うが、仕事が山積みになっているだろうな」
コンコンコンッ
_「だれだろう?出ないの、んっ」
ルイは、唇を手で押さえ、静寂を促す。
_「すみません。事件のことで、お話しをお聞きしたいのですが」
_「んえん?・・・んいあん」
_「ここは、父が所有する倉庫として、扱われている。入っては来ないはずだ」
_「おい。ここは、誰も住んでいない。次に行くぞ」
_「あ、はい」
扉の前から遠ざかる足音。
_「行ったみたいだ」
_「ふぁいえん!もう」
_「ああ。すまない」
_「て、あれ?なんで…わたし、口を押さえられて…」
_「触れられるようになった?」
口元に右手を近づける。
しかし、ルイの手は、顔をすり抜けてしまった。
_「だめ…みたい」
_「意識的には触れられないのか…無意識にだったら…」
ルイの左手が頬を通過する。
_「今、叩こうとした!」
_「手を、ぶつけてみただけだ」
_「最低」
_「でも、なんでいきなり、触れられるように?」
_「もしかしたら…成長しているのかもしれない」
_「成長?幽霊なのに?」
_「いずれ、人間に戻る可能性もある…」
_「本当に!」
_「あくまで、可能性の話だが…」
_「可能性…人間に戻れるかも」
喜ぶベルの横顔に、ルイは悲痛の眼差しを向けていた。
_「とにかく、帰るぞ」
_「裏手に馬車を回させる。そこからなら、出入りしても見つからないだろう」
ヒヒッン、ガラガラガラ
_「お待たせいたしました。お乗りください」
_「さあ、乗って!」
無意識に、左手を差し出しエスコートする、ルイ。
_「あ…」
今なら、掴めるかもしれない…
_「何をしておられるのです。早く!」
_「あっ…はい、そうですね。すみませんでした」
_「ああ…」
わたしの姿は見えていない。馬車にも乗れない。
ルイの乗った馬車は、勢いよく走りだした。
_「はー。疲れないとは言え、同じ距離を、同じ景色で、同じ時間。
憂鬱だな~」
月で照らされた屋敷が、ベルを迎える。
_「着いた~」
_「ルイは、仕事があるって、言ってたし…屋敷の中を探検しちゃおうかな?」
昨夜の様子を見て、確信したことがある。
ルイは、人殺しを望んでいない。
でも、ターゲットを決めて殺しているみたいだった。
殺人は、ルイの意思で行っている?
屋敷を探索するベルは、大きな書斎の部屋を、見つけた。
_「ここは…お父さんの部屋かな」
_「棚に本がいっぱい。ルイの部屋と同じだ~」
机の上に置かれた、写真立てを、見つける。
_「わあ~ルイの子どもの頃だ。でも、何か雰囲気が違うような…」
ドンッ
_「誰だ!」
ビクッ
_「・・・気のせいか」
_「ふー。よかった、姿が見えてなくて。今のうちに」
そおっと部屋を後にした、ベル。
_「なぜか、すごく見られていた気がする。霊感?」
_「ベルか。遅かったな」
_「うん。いろいろと…あったの」
_「?」
_「すまないが、話しを聞く時間はない」
_「どうして?」
_「今から、隣町まで行く」
_「今から!もう夜だよ」
_「特別な仕事が入った」
_「特別?」
_「最近、隣町では、殺人事件が相次いでいるらしい」
_「ルイの仕事と、何か関係があるの?」
_「亡くなった者は、この商会の工場で働く者。または、その関係者だった」
_「偶然・・・じゃないよね」
_「このままでは、工場が立ち行かなくなる。
その前に、事件を解決してほしいそうだ」
_「だから、特別な仕事なんだ」
_「いや違う。事件の解決は、責任者として、当然の仕事だ」
_「違う?じゃあ、なにが」
_「”俺が犯人を殺す”ことで、特別な仕事になる」




