10話 彼は踊る
~登場人物~
主人公~~ベル
貴族の息子~~ルイ
村人~~キャシー
村人~~ヘレン
幽霊~~ルイン
_「彼は、いい人でした…」
お茶を啜り、思い出に耽る、キャシー。
_「彼との出会いは、彼が村に移住して来た時でした」
_「私と同じ外から来た人間なのに、持ち前の人の好さで、すぐ村に溶け込んでいました」
_「そんな彼を…私は好きになった」
_「だけど、彼は優しすぎた」
顔を顰める、ルイ。
_「彼は、誰にでも優しかった。別に私は、彼の優しさを、独占したかった訳ではありません」
_「ただ…自分を犠牲にしてまで、人を助ける彼が、嫌いだった」
_「この村の男に、碌な奴はいない。村の男達は、彼の優しさに漬け込み、金をせしめていた」
_「だから…村に火を点けたのか」
_「はい。あの時、村に火を点けて回ったのは、私です」
_「ヘレンさんの家が燃えているのを見て、今しか!村人に、復讐する機会は無いと…」
_「だって!何で、夫だけが、死ななきゃいけなかったんですか!こんなの…おかしいですよ…」
感情を剝き出しにして、泣き出すキャシー。
_「・・・夫を死なせたのは、”あなたの意思”だろ」
_「はい?何を仰っているのですか」
_「あの宝石は、唯の村人が、簡単に買える物では無い」
_「ましてや、村人に金を取られていたあなたの夫が、宝石の付いたネックレスを買えたとは思えない」
_「いいえ。あのネックレスは、私の誕生日のために、夫が行商人から買った物です」
_「ネックレス自体は、そうなんだろう。しかし、ネックレスに付いていた、あの宝石は違う」
_「・・・」
_「あの夜、あなたは、夫に忘れ物を取りに行かせた。そして、人狼に襲われるよう願った…」
_「…ふふふ。そうです、私が殺したんです」
_「あれは、私への誕生日プレゼントではありません」
_「私の家系には、代々受け継がれる宝石を、誕生日に身につける決まりがあります」
_「結婚する時、夫からは、宝石を身に付けるための飾りを贈る。ネックレスは、その時に貰いました」
_「あの夜、『決まりを破れば、災いが降りかかる』と伝えると、彼は、慌てて取りに向かいましたよ」
_「夫が死んだ時、あなたは、あれほど悲しんでいた。順風満帆な生活を捨ててまで、なぜ死を願った?」
_「金!お金が無いんですよ!」
_「村人に、騙されていると忠告しても、彼は、聞く耳を持たない」
_「あなたには到底、理解できないでしょうね。貧しい村人の生活なんて…」
_「貧しい?この家のどこが、貧しい生活なんだ?」
新築の家に備え付けられた家具、棚に飾られた異国の食器、備蓄された食料。
_「暮らしに困っていないだけ十分じゃないかと、言いたいんでしょ?この村の中では、貧しい家なんですよ」
_「外を歩けば噂され、周りから白い目で見られる。そんな生活が、もう嫌だった…」
_「被害妄想では…」
_「違う!この村の奴らは、自分達の利益になることしか、興味がないのよ」
_「18年前の事件のことだって・・・ヘレンさんの話しを、誰も相手にしなかった…」
_「・・・彼女は、村人に真実を訴えていたのか?」
_「知りませんよ。18年前、私は、村に居なかったんだから」
_「・・・そうか」
席を立ったルイは、扉を少し開き、外の様子を窺う。
_「ねえ…私の罪は何?」
_「…村から出て行かなかったことだ」
_「・・・村はずれにある家の林道からなら、見つからずに村を出れると思います。あそこは、村人が近づきたがらないから」
_「分かった。一つ、頼みがある」
_「?」
_「・・・帰って来ない」
まさか…置いて行かれた?
幽霊だから、何日待たされても、飢え死にしないけど…
いつまで待たせるつもりなの!
_「こっちだ!」
ドタドタドタ。
複数の足音が、地下室の天井を揺らす。
_「こ、これは…見つけられたかも」
_「ここだ!」
村人の一人が、地下室への扉を開け、恐る恐る中へ入って来た。
_「なんだ、ここは⁉」
_「おい。暗くて見えないぞ」
_「もっと、前へ進んでくれ」
_「み、見えていないはずよね。わたしの事は…」
ゆっくりと、地下室の扉へ戻ろうとする、ベル。
コロンッ。
_「ビクッ。な、何か居るぞ!」
_「おい!これ、人の骨じゃないか」
_「骨って、誰の?」
村人が、祭壇の人骨で驚いている間に、ベルは、外へ出た。
_「ふーびっくりした。何で、村人達がこんな所に居るの?」
_「おい!」
_「はい!ってあなたは…」
_「あいつは、どこへ行った!」
_「ルイなら、ここには居ないよ」
_「ちっ。せっかく村人を嗾けたのに…」
_「あなたは、ルイに復讐するつもりなの?」
_「・・・復讐がしたい訳じゃない。ただ…約束を破られたことが、許せないだけだ」
_「ルイと、どんな約束をしたの?」
_「それは…いや。その前に、取引をしないか」
_「僕が、ルイに与えた情報を、君にも教える。その代わり、ルイとの約束を、君に果たしてもらう」
_「わたしに出来る事なら、構わないけど…」
_「じゃあ、取引成立だね…」
後ろへ回り込んだルインによって、ベルの視界は奪われた。




