1話 君は踊る
~登場人物~
主人公~~ベル
幼馴染~~マルコ
貴族の息子~~ルイ
お母さん~~クロエ
お父さん~~ジャン
「お~い。おにごっこしようぜ」
「わたし今、”マッチ花”を売っているんだけど…見てわからない?」
「マッチ花?」
「そう。花一輪だけだと売れないから、実用性のあるマッチ一本付けてみたの」
「マッチ一本だけじゃ、火が点けられないのに…だれが買うんだよ」
「あら、意外と売れるのよ。これが」
「うげっ本当だ。ほとんど残っていない⦅のこり僅かじゃん⦆」
「商売の邪魔だから、さっさと消えて。全部売り切らないと、おばさんに怒られるんだから」
「そうだったな。悪い、邪魔した!」
・・・気をつかわせてしまった
子供たちの遊び声が、街道にこだまする。
「よし。わたしも花を売りきって、この仕事を終わらせよう」
ポツリ、ポツポツ。
ザーーー
青空から水が落ちる。
急変した空から太陽は消え、街が静まりかえった。
この雨の中、花を買う人は現れない。マッチも湿気って売り物にならない。
「あ~あ、売り切れると思ったのに。今日もごはん無しか~」
「お嬢さん、花を貰えるかな」
「えっ!は、はい」
「ありがとう」
・・・売れた
「よし。雨がなんだ、全部売ってやる」
降り頻る雨の中、雨宿りをする人に、花を売り歩く。
「ふー。あと一個か。一個分ぐらいお金が足りなくても、誤魔化せるかな?」
街道に繋がる路地の奥を、人影が通過する。
「人?見間違い…」
手元には、一輪の花と一本のマッチ。
「・・・なぜか無性に売り切りたい。わたしの”商売魂”が売れと言っている!」
人影を追って、路地に入り、奥へと進んだ。
「駄目、真っ暗でなにも見えない。わたしに商売魂なんて無かったのよ、うん」
路地の途中で我に返ったわたしは、来た道を引き返そうと、後ろを振り向く。
ドス。
お腹の暖かな感覚と共に、身体の力が抜けていく。
立つことも儘ならず、わたしは地面に臥せる。
街の冷気が、徐々に体を蝕む。
_「あっ…これ…死んだ」
涙を流した死体が路地に横たわる…
_「うっうーーん」
壁を昇った太陽の明かりが、目を覚まさせる。
_「ここは…あ!わたし…死んでない。血も…出てない」
_「夢でも見ていたのかな、わたし…路上で寝た!」
道の凹みに、水たまりを見つけ近寄る。
_「服とか汚れてないかな・・・だれ⁉」
反射する水鏡には、見慣れない顔が写し出されていた。
_「この丸い輪郭は…わたしか!でも、少し大人っぽくなってる?」
顔を、右に、左に、何度も確認するが答えは出ない
_「おばさん・・・家。とにかく家に帰ろう」
路地を出ると、賑やかな街が視界に飛び込む。
_「あれ?ここは・・・すみませ、えっ」
婦人の肩に伸ばした腕を、通行人がすり抜けて行く。
この街並みに、わたしは映っていなかった
時が過ぎ、様変わりした街を、行く当ても無く歩く。
_「わたし、幽霊なの?幽霊だよね…」
_「キャー。ルイ様、御茶でもいかがですか」
_「是非、私の店によって行かれてください」
_「すまない。予定があるので僕は…」
_「ルイ様?誰だろう」
目と目が合う。
_「あれ。今、目が・・・あの」
ルイは、何も無い空間を避け、馬車に乗り込む。
_「姿が見えないはずの、わたしを避けた」
走り出した馬車は、立派な屋敷の前で止まった。
_「つ、付いてきてしまった…この体、疲れないから便利だな」
馬車を降りたルイと、再び目が合う。
_「やっぱり、見えてる?わたしのこと」
試しに、周りを飛び回ってみた。
_「・・・なんのようだ」
_「喋った!」
_「俺に復讐でもしに来たか!」
_「復讐?あなた、誰かに恨まれているの」
_「おまえ…もしかして、喋れないのか」
_「わたしの声が届いてない?」
_「・・・」
クイッ!
ルイが顔を近づける。
_「知らない顔だな。君は誰だ?」
_「ち、近い」
ドキッ。ブンブン
_「君からは、触れられないのか」
クイッ
今度は手を頬に近づける。
_「ま、また!離れろ~」
手は顔に触れず通り抜けた。
_「こちらからも、触れられない」
_「なぜ俺に付きまとう。君はなぜその姿に。何が目的だ」
_「・・・」
_「喋れないんだったな…二択の質問にしよう」
_「ルイ様。お父様がお呼びでございます」
_「わかりました。今、行きます」
_「少し待っていろ」
バタン。
_「・・・行ってしまった。」
_「あの男。すごい猫を被ってる」
_「お坊ちゃまも色々と大変なんだな~」
_「これは、待っていたほうがいいのか・・・」
太陽が沈み始める。
_「・・・帰って来ない」
_「わたし、忘れられた!」
_「あの人以外見えていないわけだし、屋敷の中だけなら…」
見た目よりも広大な屋敷。
_「迷った?」
_「いやいや。建物からは出てないし、そのうち戻れ…」
ザバー。ピチャ、ピチャ
_「水の音?こっち」
庭の井戸で、水浴びをするルイ。
バッ!
_「見てはいけないものを、見てしまった」
キー、バタン。
_「あれは…裏口?」
裏口から出て行った、ルイを追った。
夕焼けの中、馬車を使わず街まで歩いて行く。
街に着く頃には、月が昇り、華やかだった街は光源に群がる人間で溢れていた。
ルイは、黒いコートに顔を覆うほどのフードを被り、街を歩く。
_「・・・怪しい」
街の一角にある、ぼろぼろの家へと入る。
しかし、すぐに家を飛び出し、どこかへ走りだした。
_「家も気になる…けど、追いかけよう」
ルイは、人目を避けながら、路地へと入って行く。
_「!」
路地の手前で、わたしは止まる。
あの時の恐怖が蘇り、足が竦む。
気持ちでは前に進みたい、が動けない。
不図、忘れていた思い出が湧き出てきた…
_「う~ん~」
_「あら?どうしたの」
_「怖くて眠れない」
_「そうか。なら、おまじないを掛けてやろう」
_「おまじない?」
ベルを、ぎゅうっとやさしく抱きしめるふたり。
_「ん、くるしい」
_「ふふふ、ちょっと力を籠めすぎたかしら」
_「いいかい。辛いことがあったら、お父さんとお母さんのことを思い出しなさい」
_「私たちはいつまでも、あなたのことを見守っているんだから…」
わたしは、路地へ足を進めた。
ザク、ザクッザクッ
_「何?この音…」
聞きなれない音の鳴る方へと、路地を進む。
視界に飛び込んだ光景に、体が拒否反応を起こし、硬直する。
数個の倒れた死体。死体の一つに跨り、ナイフで腹の中を貪る、男。
男は、血で染まったナイフを片手に立ち上がった。
_「駄目じゃないか~こんな所まで付いてきちゃ…」
_「ふふ、あははははは」
ポタ。ポタ。ポタ。
_「君・・・また僕に殺されたいの?」
顔に血を付け、血の垂れるナイフをこちらに向けた、”ルイ”が問いかける。




