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勉強って楽しいなあ、うん。


昨夜(ゆうべ)はお楽しみでしたね、なんて事には断じてならず。一人でしっかり起きた私は、ヤナが準備してくれたタオルを持って洗面所に向かい、洗顔や軽く歯磨きを済ませた。


正直ごはんを食べた後は一緒に寝るとか大騒ぎされたけれども、未婚の男女ですしそもそも婚約だってしてません!!って押し通してなんとか逃げ延びた。しかも殿下の寝室だと思ってた天蓋付きクソデカベッドは、「これは俺とサラの夫婦のものだよ?」って輝かしい笑顔で言われたのは今でも震える程に怖い。夫婦前提で話してくんの本当になんなん…?


まあとにかく生き延びたわけだし、ヤナと一緒に朝ごはん食べよう!!と元気に支度を終わらせた私を、魔王が呼びに来たのであった。エルヴィスさんじゃなくて、殿下直々に来るなんてありえる?



「ああサラ!おはよう!!今朝もかわいいね、最高だよ本当に。会えなくて寂しかったよね?俺もだよ、すんごく寂しかった。やっぱり今日から一緒に寝よう?」



子どもを抱っこするみたいに、左腕に私のおしりを乗せて持ち上げ、そのせいで位置が殿下より高くなっている私を見つめながら、魔王が早口でそう言うけど、全てが何言ってるか分かるのに分からないってまじかよ。ていうかあまりにも流れるように抱っこされたから抵抗出来なかったけど、この状況おかしいでしょうが!!!



「ででで殿下……!!私は小さな子どもではございませんよ?!降ろしてくださいませ!!恥ずかしいですよ!!」



真っ赤な顔でプルりながら叫ぶように言うと、わざわざ立ち止まってから蕩ける笑顔をして聴いてくれたはずなのに、「ああ、そうだね?サラは立派な淑女だよ。」って言いつつそのまま歩き出した。え、あれ??


ずっと赤い顔のまま、頭に「???」が浮かんだ状態で殿下の私室に運ばれる。短い距離とはいえとんでもなく恥ずかしかった…!!あんなん5歳児ぐらいまででしょ、どんだけ腕力あるんだまったく…!!もしかして、魔法で強化してるとか?そこまでして抱っこする必要あったん?!


朝からごちゃごちゃうるさい頭の中を、目を細めて見ようとしているかのような顔の殿下に怯えて、どうにか現実に戻ってきた私は大人しく膝の上に座らされたのだった。やっぱりここか…。まあお腹空いてたら授業も集中出来ないし、これで満足して大人しくするって言うなら耐えるしかないな。うん、美味しい!!



「サラ、朝からしっかり食べてえらいねえ。かわいいかわいい。もぐもぐしてかわいい。ほら、あーんして?」



終始耳元でイケボを聴かせてくる殿下を頑張って無視して、なんとか完食すると寂しいと騒ぐ殿下を振り切って、ヤナと部屋に戻ってきた。やっと落ち着いて息が出来る…!!さあしっかり歯を磨こう。



「お嬢様、クソや……殿下にすっかり執心されて大変ですねえ。私が四六時中そばにいて、お守り出来たらいいんですけど。我が物顔でお嬢様に触れてるのが心底腹立ちますね。短剣の練習をしておきすから!」



私の髪とお化粧をしてくれながら、ヤナがなんかアサシンみたいな事を言い出した。しかも一瞬クソ野郎って言いかけてなかった??気にしないようにしよう。うん、だってヤナは勇者だもんね!!



「いろいろ心配かけてごめんね、でもありがとう。今日も髪型もお化粧も最高!!世界一の美少女になった気分だよ!!頑張ってくるからね!!」



私の瞳に合わせたような深紅のシンプルなドレスに、大きめのお団子を上の位置に作り、同じく深紅の石がついたシルバーの髪飾りを添え、顔はナチュラルメイクで仕上げてくれた。天才かよ!!ヒロインの顔面ってやっぱストロングだなあ。


そうしてヤナとまたキャッキャしていたら、廊下に通じる無駄に豪華で大きな扉がノックされた。そして返事をしていないのに開いたわけだけども、そこにいたのは当たり前のように魔王(殿下)だった。そんなに私が自分以外と楽しそうにしてんのが面白いくないのかよ?!まあ怖い!!!でも気にせず楽しむからね、だってそうしないと人生ってつまらないでしょ??いや一番のモットーは『いのちだいじに』、だけどさ。



「まったく、油断も隙もないな。こんなにかわいい姿を見られたら、誰しもが惚れてしまうだろう?やっぱり閉じ込めようか。そのための離宮を建てようかな、大規模な認識阻害魔法を身につけよう。」



いやいやごめんてごめんて。いのちだいじにどころじゃないって!!!人権って知ってる??私はペットじゃなくて人間なんですけど?!そんな事が通じる相手じゃないから頭が痛いわけだけども。それよりも…それよりもってかなり毒されているな……?!まあしかし殿下の見た目がすごい、本当に王子様なんだなあ。今日もミディアムセンターパートの美しい黒髪が輝いているし、夕日色の瞳が綺麗で見とれてしまいそうになる。



「殿下も素敵ですね。装飾品が全部全部、深紅なのが気になりますけど、それ以外は素晴らしい程に綺麗で見とれてしまいそうになりました。」



そうなのだ、全部が深紅。着てるジュストコートみたいなのは黒が基調なのに、ついてるボタンが全部深紅。ピアスもエナメル素材のように輝く黒い革靴についてる宝石も深紅。これには思わず苦笑いですよ。こんなに揃えられるなんて事が出来るんだ…?私の後ろでヤナが悔しそうにしてる雰囲気が伝わってくるけど、きっとわざと夕日色と黒色を避けたのに、向こうがこんなに合わせてきたんじゃどうしようもないしね。怖いわあ。



「サラの服も、サイズのデータは手に入ったから今作らせてるからね。もちろん装飾品も。さあ行こうか、先生がお待ちかねだよ。」



ああやっぱりか、逃げられなかったかー!!!ドレスも装飾品も要らないって言ったじゃん!!絶対に全部夕日色か黒でしょう?!見なくても分かるよ。頼むから数はそんなに多くないであれ……。私の身体は当然一つなんだから少ないであれ…。着られない服も装飾品も可哀想だからね。


今日の一緒に受ける授業が楽しみだとか、殿下が一人で楽しそうに話しているけど、私はこれからの事に不安が大きくてあんまり聴いてなかった。でもきっと大丈夫だろう、だって根性は人一倍あると思ってるからね!!だから数メートル歩いた先にある部屋に着いて、ロッテン〇イヤーさんみたいな先生が入室即睨みをきかせてきたけれども、エスコートしてくれていた殿下の腕からサッと手を外して、下腹部で両手を揃えつつピシッと背筋を伸ばして大声で挨拶した。



「お忙しいところわざわざ私のために、お時間を割いてくださいまして、誠にありがとうございます!!私はサラ・ロバーツと申します、よろしくお願い致します!!」



先手必勝のクソデカボイスに加え、美しい45°のお辞儀を披露した。居酒屋でのスパルタ教育をなめないでほしい。この世界の挨拶はきっとカーテシーなんだろうけど、まだ美しく出来ないから私なりの誠意をみせるために日本式にしたのだった。


案の定先生はポカンとしてこちらを見ている。ついでに殿下が蕩けるような笑顔で、「サラはすごいなあ。彼女は厳しいと有名なのに、呆気にとられているよ?」なんて言っている。見た目通り厳しいらしい。受けて立とう!!かかってこいや!!!


気を取り直した先生に促され、高そうなエグゼクティブデスクにそれぞれ座る。膝に座れとごねる殿下をなんとか窘め、用意されていた教科書とノート、それにペンを確認した。デザインは全て異世界風なんだけど、これはやっぱり日本と同じようなノートと万年筆で安心したのである。羽根ペンとか羊皮紙?だと使いこなせる自信が無かったけれども、これならなんとか頑張れそうだ。



「それでは授業を始めましょう。私はロッテ・マイヤーと申します。マイヤー侯爵の妻で、今は主に王宮や王立学園の教師をしておりますの。」



おいおいスタッフ??ほぼロッテンマ〇ヤーさんじゃんよ!!ここは北のアルプスなんか?!教えておじいさん!!



「殿下はいつも通りに学園に通っていただきたいのだけど、どうしても貴女と授業を受けるときかないものだから仕方なくね。気になるでしょうけど、どうにか頑張って頭に叩き込んでちょうだい。貴女が学園に復帰するまでに、一週間しかないのだから。」



先生は殿下を睨みつつ、教科書を開いてそう説明した。そうだね、気になるけど気にしないで死に物狂いで頭に叩き込もう。まずは歴史から!!


邪魔かなと思っていた殿下の存在だが、授業が始まると全く気にならなかった。というか集中しすぎてそれどころじゃなかったのである。面白すぎてスイスイ頭に入り、歴史以外も難なくクリアしてしまった私は、「そろそろお昼にしよう?」という殿下の無駄に甘い声で、やっと集中しすぎて時間が溶けていた事に気づいたのだった。


そしてやっぱり膝の上に座らされ、問答無用で食べさせてくれるごはんをもぐもぐしながら、授業について考えていたら。



「サラはすんごく優秀だね。俺がいなくても平気みたいで悲しいなあ。でも必死で覚えてくれてるんだよね、もちろん俺のために。だから頑張って、寂しいけど見守るね?」



いいえ貴方のためではなく自分のためです!!と声を大にして言えたらいいのに、怖いから黙ってごはんを食べた。美味しい!!早朝から授業をみっちり受けたからか、五臓六腑に染み渡る感じがして尚更美味しい。午後には食事のマナーとこの世界の挨拶の仕方を学ぶわけだけど、今後も絶対に膝の上なんだろうなと言われなくても分かる。分かりたくないんだけどね!!


そしてヤナにトラベル用の歯ブラシを渡してもらって、当然のように付いてきた殿下と一緒に歯磨きをした。丁寧に磨く私の見よう見まねをして、一生懸命シャカシャカしている殿下がかわいいと思ってしまって焦る。きっと気のせいだ。勉強疲れで脳がやられたんだ、そうに違いない!!だから仕上げ磨きをしてあげたのも仕事柄でしかない!!そうだよ血が騒いだから!!!


ほんのり頬を染めた殿下と一緒に、再び授業を受ける。やっぱり知らない事を学ぶのが楽しくて時間が溶けてしまったけれども、確実に身についていると言われたから大丈夫だろう。食事のマナーも挨拶の仕方も、サラさんとしての身体の記憶なのか、先生に言われてから実践してみるとスッと出来たので安心した。


そんな感じで終わった今日一日、朝から晩までみっちり授業を受けたけれども、いい感じの疲労だけだったし一週間頑張れそうである。時折殿下が寂しそうにしているので、その時はちょっとだけ構うなどして気を紛らわせた。そうしないと授業を中断せざるを得なくなり、進まないからというのが大きな理由なんだけれども!!


どうにか必死で喰らいついて、5日間が経った今日は、ダンスの授業を行うらしい。毎日一緒に授業を受けつつ、ちょっとだけ自分の仕事のために席を外していた殿下も、今日だけは一日中いるつもりだと言っていた。例え先生でも、自分以外と私が踊るのは耐えられないと真顔で言っていたので、誰も文句は言えない。ヤナでさえ言えなかった。だって本当に怖かったから!!


まずマイヤー先生がエルヴィスさんと踊ってみせてくれたわけだが、思っていた以上にダンスの種類が多かった。せいぜいワルツにタンゴでしょ、と思っていたのに違った。めっちゃある。バカなの?!こんなに覚える必要ってある?!頑張るけどさあ、こんなんじゃ脚がつっちゃうわ!!!


不安で不安で仕方なかったけど、向かい合ってお辞儀し、ダンスのホールドをしてくれた殿下の不敵な笑みを見てたらそれどころじゃない。なんか食われそうじゃない?!これからするのってダンスですよね?!怖い逃げたい逃げられない……!!


王宮楽団の方々のうち、少数が来て奏でてくれる音楽に合わせ、ステップを踏んでいく。これもサラさんに染み付いていたようで、思ったよりもずっと楽に動く事が出来た。いやしかしでもこれは、殿下がそうさせてくれてるんだろうけど。やはり熟練の技なのか、まったくつらくなく踊らせてくれる彼の手腕はすごいと思う。他の人と踊ってないから分からないけど、ターンも抱えて回られるのも、ただただ楽しいだけだったのは感動ものである。



「サラ嬢、貴女はダンスのセンスもあるのねえ。これならきっと大丈夫ですわ。殿下のリードが主な理由であるとしても、きっと問題ないでしょう。他の殿方と踊ったとしてもね。」



最後にクソデカ爆弾を投下した先生のせいで、殿下が魔王と化した。「俺以外と踊ることはありませんよ、マイヤー侯爵夫人?」と言ってゴゴゴゴゴ……という効果音がつきそうなオーラを出してすごむ殿下怖ぇぇ……。さすがのマイヤー侯爵夫人も目を逸らし、「そうですか…。」としか言わなかったのは仕方がないだろう。だって魔王怖いもん。


そして本当に殿下以外と踊る事なく、頑張ってダンスの授業も合格をもらえた。これならば学園に復帰しても、クラスの授業についていけるし問題ないというお墨付きをもらったが、油断出来ないので残りの2日も集中して手を抜かない事にした。


そして最終日。今日までの授業のテストを行った私は、ほぼ満点合格をしてマイヤー侯爵夫人を唸らせ、殿下を意図せずまた夢中にさせてしまったのである。優秀でごめんて思う事なんてあるんだ?!



「サラ嬢、よく頑張りましたね。貴女は予想外にも非常に優秀な生徒でした。学園でも手を抜かずに頑張ってくださいね。今後も教師としてお会いする機会は多いと思います。よろしくお願いしますよ。」



最後には微笑んでそう言ってくれた。ええ、なにこれ青春ドラマじゃん……。ちょっと感動して泣きそうになっちゃう!!こちらこそ本当にありがとうだよ!!厳しかったけど懇切丁寧だったし、すんごく解り易かったです!!という尊敬の眼差しで熱く見つめていたら、隣から黒いオーラが漂ってきたのでサッとノートに目を落とした。えーと、復習復習……。


そして夜。相変わらず膝の上でごはんを食べさせてもらいながら、明後日から始まる学園について殿下から入念な注意を受けていた。



「サラ?学園についてだけどね、俺とクラスを同じにしてもらったから安心なんだけどさ。それでも俺から離れちゃダメだよ?くそ、やっぱりあと1年なんて無視して卒業してしまおうか。サラが他の誰かと話すところを見るなんて耐えられないし許せない。やっぱり閉じ込めるか……。」



すーぐそうやって怖い事言う!!!本当に離宮建てていいか陛下にかけあってるって、知ってるんだからね??しかもクラスを同じにしてもらったって言った?!バカじゃないの!!習いたての魔法で攻撃しようか?!無理だけどね、習ったから分かるけど簡単に魔法なんて使えない。だから魔道具が重宝されてるわけだし、魔力が尋常じゃない殿下だから日常的にホイホイ使ってるみたいだけど、一般的にはあんまり使わないものだった。王族ってすげえ。



「殿下、大丈夫です。熊谷萌さんが粉を掛けていたというお2人にも近付きませんし、そもそも周りが私を避けると思いますよ?ですから私なんてお気になさらず、殿下は殿下の学園生活を送ってください!!」



デザートのプリンをもぐもぐしながら、元気よくそう言った。学園が楽しみなんだけれども、そこでもピッタリと張り付かれたら代わりの女生徒の発見が出来ないしね?!



「ふふふ、サラはやっぱり優しいね?でもいいんだよ遠慮しないで。俺がサラといないと息が出来ないから、ずっとずっと一緒にいようね。サラ、大好きだよ。サラも俺が大好きだよね?ふふ、両思いがこんなに嬉しいなんてね。ああ早く婚約したいなあ。」



ぅおおおお……!!!誰か通訳連れてきて?!いつ私たちが両思いになったんだよ??知らなかったなあ!!しかも自然な流れで婚約するみたいな事言われたけど、無理じゃないの?!家柄的にギリギリ王太子妃になれなくはないけど、後ろ盾になりきれる??なんかあった時に弱くない??まあ、問答無用で跳ね除けそうだから怖いんだけどね…。



「サラは以前の何倍も魅力的になってしまったから、横恋慕されそうで不安だよ。そんな奴は俺が片っ端から潰す予定だけど、それでも不安だなあ。俺から離れないでね?そうじゃないと、周りの人間が消えてしまうかもしれないよ?」



どんなホラーより怖いじゃんよ!!どうしてこの人はこんなすぐに恐ろしい発想するわけ?!そして思ったことをすぐに言うなや…。慣れないし慣れる気がしないよ、まったくもう。



「ええ、はい、離れません…。」



精一杯そう答えると、心底嬉しそうに膝の上でもぐもぐプリンを食べる私をギュッと抱きしめてきたのだった。スンスンスリスリも忘れずに。あー、プリンが美味しいなあ(棒)。



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― 新着の感想 ―
あら…(o^・^o)サラちゃん意外と優秀でしたね♪ さらっとロッテ・マイヤー先生のお墨付き(サラちゃん鬼集中力で魔王(殿下)ゎ立てませんでした 笑)も頂き いよいよ学園編突入ですよね♪ めっちゃ楽しみ…
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