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手のひらドリルすな。


こう、漫画とかだと運良く気絶してくれるのに、実際そう上手くいかないよなあ……。どうしよう、謝罪のプロ木内がもう一回本気の謝罪をするしかないか?でも何度も同じ手は食わない相手だろうし、どうしようどうしよう!!!


殿下を見ているのに全く視界に入っておらず、思考の海に溺れた私はとにかく必死に回路を動かした。しかし結論なんて出る訳もなく、もう土下座るか、土下座るしかないよな!サラさんのほっそい身体にあるなけなしの腹筋をフルに使って、腹から声出して謝ろう!!と諦めてスカートをギュッと握った時。



「サラ?君は思った事をすぐ言わないあたりが賢いけど、俺としては全て知りたいなあ。今何を考えてるの?」



おいちょっと待て近い近い近いっ!!美の暴力をやめなさい!!それに今なんて???呼び捨てせんかった???あれ、いいんだっけ?貴族のルールもこの世界のルールもよく分からないんだよ、否定すべきなの?どうしたらいいんだろう。考える事がまた増えた!!お姉さんは早急に帰りたい、ビール飲みながらどうぶつ達と島で戯れたい、戯れさせてくれぇぇ……。


しょぼんとしつつも殿下の顔が近い事に真っ赤になった。そこで発売されてから、ずっと続けているどうぶつ達のゲームの推しを必死で考えて、なんとかやり過ごそうと目を泳がす。しかし逃がさないとばかりに、両頬を手で挟まれてはどうしようもない。うぅ…、お姉さんをからかってさあ!!この世界では17歳かもしれないけど、現実では26歳なんだぞ?!大人を弄ぶんじゃありません!!!


どうにか目だけでもキッ!!と鋭くしてみたが、殿下はクスクスと声に出して笑いつつ、「なにそれ、もしかして怒ってるつもりなの?」と言って顎を撫でてくる。ぃやめろったら!!!本当にホストかよ?!17歳で女性の扱いに長けやがって…、お姉さん経験値は平均なんだからやめてよね?!


真っ赤になりながら、「…殿下!!お戯れが過ぎますっ!!」と必死で言うのがやっとだったのである。歳上の威厳なんてちっとも出せずに情けないお姉さんは、少し強めのお酒が飲みたいです。割と多めに。



「ふふ、正直君の事はとても苦手だったんだけど。おかしいよねえ?見た目は同じなのに中身が違うと思うだけで、なんだかとても魅力的に見えて仕方ないんだから。」



ばっかたれ!!容易にそういう事言わないの!!もういいからさっさと処遇を言ってくれよ!!という強すぎる思いがつい口から出て、「処遇をっっ!!!!」と目をギュッと閉じながら叫ぶようにして言ってしまった。しかしなんとか伝わっただろうと、少し安堵したのも本当であるが。



「ああ、そうだったね。本当は君とキャンベル公爵令嬢の共謀で、俺を嵌めようとした罪で修道院に送るつもりだったんだけど。土壇場で事情が変わっただろう?だからさっきも言ったけど、君が粉を掛けていた他の2人とその婚約者への迷惑行為について、罰させてもらう事にしたんだ。そうじゃないと入れ替わった君に罪は無いのに、可哀想だと思ったし。俺はすごく優しいだろう?」



終始笑顔でそういう彼は、最後は本当に嬉しそうにしていて怖かった。優しいって自分で言っちゃう…?そういうのって第三者が言うことじゃないんだ…??という感想は怖いので飲み込んだ。


しかし中身が入れ替わった事によって処遇を急遽変更してくれるなんて、確かに優しいのかもしれない。修道院って言ってたから、熊谷萌さんが好き勝手したせいで針のむしろ状態である学校に通わなくていいのは魅力的だったけど、それでも私自身を気遣ってくれたのは素直に嬉しかった。だから相変わらず頬を挟まれたままという、超近距離のイケメンに向かって、小声だけども「本当にありがとうございます。」と言えたのは褒めてほしい。


するとニコニコと満面の笑みを浮かべながら、「よし、それならいいね?」というよく分からない事を言っている。何がええねん、ちゃんと説明しないと詐欺になるんだぜ?書類とかちゃんと用意してあるんでしょうね??そうじゃない口約束ならお姉さん、絶対に断っちゃうもんね。もしくは言ってません、知りませんでしたって押し通してやるんだから!!!と強く誓った時。



「決まりだね。サラ嬢は俺が預かる事にするよ。その方がこの世界の常識や魔力の使い方も覚えられるし、君が他の生徒に何もしないか観察しているという体で見ていられるしね。大丈夫安心して、君の魔力が変わった事がすぐに分かるから証明は簡単だ。そしてキャンベル公爵令嬢には、王族専用の魔道具を使って全て話してもらうし、何も問題ないよ。」



ちょちょちょ、安心とは??どうして私なんかを殿下が預かるんだ?!確かにこの世界の勉強をしたいと思っていたけど、貴方には習いたくないんですが?出来る事なら家庭教師とか学校の先生とか、サラさんのご家族とかじゃダメなんですか?それはもう必死で目をパチパチさせて、なんとか発言しようとしたが慌てすぎて難しい。それを眉間に皺を寄せつつ、「また頭の中だけで考えてる。教えてって言ったでしょ?」と言って耳をくすぐられた。


っておいこらセクハラやぞ?!?!但しイケメンに限る♡じゃないんだってバカたれっ!!お姉さんはときめきご無沙汰なんだから!さっきからずっと心臓がサンバダンスしてて本当に苦しい。呼吸がしづらいよ助けて…。熊谷萌さん戻ってきて?今なら貴女の望んだ未来が手に入りそうよ!!まあ戻った時点で修道院行きは決定だろうけども。



「ごちゃごちゃ考えてる君も面白いけど、どうしたら全部話してくれるんだろうね?魔道具を改造して、常に思考回路を俺にだけ聞こえるようにしちゃおうか?それならいいかもな、だって何を考えてるのか知りたいから知る必要があるよね?俺が君の全てを知りたいんだから、知るのは当たり前だよね?」



おっわ怖い怖い!!どうして知りたいから知る事が当たり前なんだろう。俺様なん???生憎ですが私は俺様系とは馬が合わないんですわ。どっちかって言うとこう、同じ陰キャ風の人の方が波長が合うっていうか。そもそも貴方はイケメンすぎて論外です。恐らく身分も違いますしね???そう思って殿下を見据えると、何故かうっとりした顔になった彼を敢えて無視して口を開いた。



「恐れ入ります、大変申し訳ございませんが!!私は身分も違うでしょうし、そもそも評判も悪いのでは?そんな人間が監視のためとはいえ、殿下のお側にいるのは良くない事かと存じます!!!」



途中で殿下の目が怖かったけど、なんとか言えた事にホッとする。間違ったことは言っていないし、きっと周りもそう言うだろう。ちょっと誇らしげにしていたら、両頬を挟んでいた手が離れていって分かってくれたんだと安心したのに。



「ふうん。俺じゃない誰かを側に置くつもりなんだ?中身が変わったのに結局そういう人だったんだって思われる事も考えたの?それに誰を側に置くつもりなんだろうね。腹が立つなあ。ねえ、やっぱり記憶があるんじゃないの?他の2人に頼るつもり?」



左手で私の右手を掴み、親指で手のひらを撫でながらそういう彼が怖すぎて閉口してしまった。気付けばピッタリと身体が当たってるし、彼の右手は私の長いシルバーブロンドを指に巻き付けている。何してんの?それに何言ってんの??記憶まじで無いっつってんじゃん!!あるならさっさと打開策を練ってるわ!!!



「記憶は本当にありません!!その2人という方も覚えておりませんし、婚約者の方々も当然存じ上げないです。なによりも殿下はお忙しいでしょうし、私なんかの面倒をみていただくなんて恐れ多い事ですから!!こう、影?の方にお願いするとか出来ませんか?」



眉間に皺を寄せつつムッと口を尖らせてそう言うと、「本当に記憶が無いんだ、それならいいよ。」なんて嬉しそうにしている。なんでやねん。それよりも影について何か言ってほしい。嬉しそうに触ってこられても正直困って困って仕方ない。こちとら生まれてこの方、こんなにも超絶イケメンに出会った事が無いんだ。お触りはご遠慮願います!!Don't touch me!!!


そう言えたらどんなに良いか。実際には「近いです、近いですよ…!」と言うのが精一杯だし、しっかり無視されて悲しい。このおませさんめ!!17歳はおうちに帰ってジャ〇プ読んでなさい!!!



「それなら尚更いいね。それにこれはもう決定事項だから何を言っても意味が無いよ。だってもう君が花を摘んでる間に、父上である国王陛下に言っちゃったからね。それでも君はまだ抗う?」



こんのっっ……!!最初から逃げ道なんてないじゃん!!!美しすぎるその顔の口腔内を検査してやろうか?!あるか分かんないけど思いっきり歯石取るぞ!!本当に弄んでくれちゃってさあ、泣いちゃうんだから。お姉さん大人だけど泣いちゃう時もあるんだからね?今がその時かもしれないよ?!いいの?大の大人の本気(まじ)泣き、正面から受け止める覚悟ある?!?!


あまりの衝撃に、真っ逆さまに思考の海に溺れていく。あっという間に深海にたどり着いたのに、何も無い真っ暗闇しか広がっておらず答えなんてどこにも無い。逃げられない、逃げる事も出来ない、諦めるしかない。そういう結論に至るまで、深海を彷徨うのはそう長くはなかった。ただちょっと、現実に向き合うのが嫌だったから思考の海に逃げていただけで、本当は言われてからすぐに気付いていたけれども。



「さて、答えを聴こうか?ふふふ、もう結果は分かってるけどね、俺は君の口から聴きたいなあ?」



輝かしい程の笑顔がこんなにも憎たらしいだなんて……!!それにベタベタ触らないでよ、ジュリア様の事好きだったんだろうが!!!失恋した途端に何してんだまったくもう!!そう強く文句を言いたいのに無理な私は、諦めて絶望に染った目を殿下に向けて言ったのである。



「……ご指示に従います。」



と。この瞬間の殿下の弾けるような笑顔を、破顔と言うのだろうな。なんて考えてしまうくらいには、思考回路はショート寸前で使い物にならなくなっていたのだった。


そうしてそれはもう嬉しそうな殿下が指を鳴らすと、部屋の外に控えていた侍従さんが入室してきて、「お呼びでしょうか。」と恭しく頭を下げる。それに彼は相変わらず破顔したまま、私の目が飛び出して転がるんじゃないかという発言をしやがったのである。



「エル、彼女の部屋を早急に用意してくれ。出来れば俺の隣がいいなあ。言い訳なんてなんとでもなるでしょ?監視のためだって言い切っちゃえば乗り切れるよ。よろしくね?」



どーん!!!という効果音がつきそうな程に勢いよく後ろに倒れた。だって何言ってるか分かるのに分からないんだから仕方ないでしょう!!バカなの?!隣って事は一般的に、婚約者の部屋なんじゃないの?!ちょっともう、ジュリア様に失恋してまだ時間も短いってのに、手のひらクルックルじゃん。舌の根も乾かぬうちにさあ……、ドリルすなや!!!中身が入れ替わった事が珍しいだけでしょうが!!どうか侍従さん、ダメだって言ってくれ、バカじゃないのって窘めてくれ!!!そんな私の願いなんて、最初から無駄だったんや…。



「かしこまりました。早急にご用意致します。もともとの彼女の学生寮から、すぐに引越し作業を開始しましょう。」


「止めてくれないんかいっっ?!?!」



思わず大きな声で突っ込んでしまったけれども、心の底から許して欲しい。



「ふふ、本当に面白いね。止めるわけないでしょう。そうだサラ?彼は俺の侍従で、エルヴィス・コナー。この国の南の国境を護ってくれている、コナー辺境伯家の次男だ。」



楽しそうに説明してくれる殿下と、私に向かってまでも恭しく頭を下げてくれる彼に何も言えなくなった。だがしかし仰向けに寝たままなのはいくらなんでも失礼極まりないな、と思ってなんとか起き上がろうとソファの背もたれを掴むと、察した殿下が腰に手を入れて支えてくれた。優しいなと思ってお礼を言おうとしたのに、「ねえ、色目を使ったら許さないよ?」なんて耳元でいいながらギュッてされた。


いやもう本当にええ加減にせえよ?!耳元て!!耳元でそんないつまでも聴いていたくなるような、鼓膜が犯されてしまうようなバリトンボイスで囁くんじゃないよ!!ASMRマイクかよこの!!!耳が妊娠したらどうすんのっ?!


危うくオタク全開の思考回路に溺れかけ、推しの声優の名前を叫びそうになったのに、なんとか(すんで)で堪えた自分を褒めたい。でもその代わりに何も答えられず、ただひたすらに真っ赤になって目をギュッと閉じたのはご愛嬌という事にしていただこう。



「エル、これは煽ってるよね?俺は煽られてるよね?それなら応えなければならないね?今すぐにでも応える必要があるね?」


「お待ちください。お気持ちは痛い程に分かりますが、段階というものがございます。まずは周りからしっかり雁字搦めに致しましょう。そうでなければなにか得策を考えられ、逃げてしまう可能性も捨てきれませんよ。」


「そうか、そうだね。仕方ないから我慢しようか。しかしこんなの誰かれにやられたんじゃ、俺の心臓がいくつあっても足りない。常に監視出来る魔道具を、父上に言って使わせてもらおう。」


「確かに良い案でございますね。それならば逸早く対応出来ますし、殿下のお心も安寧なさるでしょう。では早速、彼女の部屋の準備と共に掛け合ってみます。」



両耳を塞いで真っ赤な顔をしながら、泣きそうになりつつも殿下を睨んでいただけなのに。彼らは何かを高速、且つ小声で話しているが聞き取れなかったのが悔しい。くっそ、チョロい女とか言ってるのか?ああそうだよ、イケメンに弱いよ!!オマケにイケボに心底勝てません!!!でもなんとか抗ってみせますとも!!


そんな風に強い気持ちを胸に抱いた時。相変わらず私の腰の下に入れていた手を不埒に動かしながら、とても美しい笑顔で殿下は言う。



「さあ、引越しだよ!俺が手伝うから一瞬だし。任せて、君の侍女にも伝達しておくから。楽しみだね?今日から隣同士で暮らせるんだ。もちろんサラ、君もそうだね?」



ぐぁぁぁ……。思わず喉から奇怪な声が出たけど、そんな事はどうでもいいのだ。あまりにも話が通じなくて怖いし、そもそも私は罰せられる罪を減刑してもらったという恩がある。そして中身が別人とはいえ、めちゃくちゃ迷惑を掛けた引け目もあるわけで。


諦めの境地に陥った私は、「……はいゃ…。」という、『はい』と我慢出来ずに『いや』が混じった返事をしてから、ヘラリと口角を上げて自力で起き上がったのだった。もちろんその際、どさくさに紛れて殿下の不埒な手は外しておいた。不服そうだったけど我慢してもらいたい。なんせ私のこの身体は、あらゆる貞操から守らなければならないのだから!!



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