諦めて受け入れるのが吉…?
なんだか温かいんだけど物凄く息苦しくて、気持ちよく夢の中を揺蕩っていたというのに。ムッとしてちょっと眉間に皺を寄せたら、聞き覚えしかないうっとりとしたバリトンボイスがしたのである。
「ふふっ、サラはとってもかわいいねえ?いつまでも見ていたいなあ。愛してるよ?でもあんまりかわいいから我慢が出来なくて、食べてしまうかもしれないけど別にいいよね。だってもうほとんど夫婦なんだし。」
え?!と思ってパチッと目を開けると、案の定目の前にとんでもない美男子がいた。寝起きという事と、ローガン殿下に精神世界?に引きずり込まれてから、まだ頭が付いていけていない部分があって、目を見開いたまま固まった。そんな私に、愛おしくて仕方がないという風に頬を染めて、顔中にちゅっちゅしながら愛を囁いてくるなんて……。ていうか食べる……???
「きゃあああああっっっ!!!!!」
やっと脳みそが動き出して腹から声を出した。それはもう盛大に。サラさんの華奢な腹筋から繰り出されたとは思えないような大声なのに、全く動じずむしろ更に頬を染めているベル様はなんなんだ???……魔王か。
そして更にポカンとしていると、ドォォン!!という爆音と共に飛び込んできた人。女性にしては低めの、しかして大変伸びやかなその声。ききたいと思っていた勇者のようなその声の人は……!!
「こぉぉぉら殿下ぁぁあああ!!!!」
そうして問答無用で殿下をベッドから引きずり下ろすと、そのまま私をギュッと強く抱きしめてくれた。ああこの、安心する温もりとぽよぽよした感触はっっ……!!!
「……ヤナぁぁっっ!!!!!!」
理解した途端、 ポロポロと涙が滝のように流れてシーツを急速に濡らしていく。わああ!!と声を出して、恥ずかしげもなく泣いた。会いたかったんだよ、すごく!!気付けばヤナも泣いていて、ギュッスリスリと自分から私をぽよぽよおっぱいに擦り付けてあやしてくれる。優しぃぃぃ……!!!
「さあお嬢様、もう大丈夫ですよ。ヤナがそばにおりますからね?何も怖い事はありません。常にそばにいて、お守りいたします。実はお坊ちゃまに、素敵な魔道具をいただいたのですよ!!ですからへんt……殿下なんて気にせず私に甘えてくださいね!!」
未だにしくしくと嬉し泣きをする私に、彼女も同じように泣き続けながら怖い事を言った。え、アンディが作った魔道具を……?!それってつまり、かなり強力で危険な物なのでは?!近付いたら弾き飛ばしちゃうとかしそうで怖い!!暴力はよくない、話し合いで解決する方向に持って行こ?!とまたごちゃごちゃ考えていたけれど。
「お前、そんな魔道具があろうとも俺のサラを奪うなんて許さないし、絶対にさせないぞ。この馬鹿力め……。侍女なのにどうしてそんなに強いんだ…。」
呻くような低い声を出しつつ、ベル様が私の後ろ側に転移してきて、ギュッと抱きしめながらそう言った。やっぱりヤナって力が強いんだ……。何度かそう思っていたけど、サラさんが華奢だからかな、って流してたけど違ったらしい。ヤナTUEEEE!!!
「ほらまた!!ダメですってば!!確かに婚約は結びやがったようですが、まだ国民に公表したわけではないんですから!!離れろこらぁ!!!」
最後はものすごい声でブチ切れ、その声を聞いたエルヴィスさんが飛び込んできて間に入ってくれたために、事態はとりあえず落ち着いたのだった。「まだロバーツ伯爵令嬢は混乱の中におられるのですよ?」という的確な一言によって、2人とも途端に口を閉ざしてくれたので安心した。いやー、やっぱり敏腕専属侍従ってすげーー!!!うちのヤナも負けてないけどね!!!
そうしてどうにか引っ付いて離れたがらないベル様を、エルヴィスさんが退室させてくれた事によって、ヤナと一緒に身支度を整えた。その時に感無量といった感じでお世話してくれたけれども、「そんなに日が経ってないんじゃないの?」と訊いた。するとブンブンッと首を大きく横に振って、「あれから一週間が経過しています!!」と言われたのである。えええっ?!
「ヤナはずっと寂しかったのですよ。お嬢様が突然昏睡状態になられまして、まるで美しすぎるドールのようでした。お世話を当然、誰にも譲らず私がさせていただいたのですが……。目を開けず、動かず、鈴のようなお声をきかせてくださらず、「ヤナ!」と呼んでもらえず……。それはもうどれ程に泣いたか分かりませんっっ!!!」
超高速で言われた事は、とても胸に響いて涙がせり上ってきた。私とサラさんの魂が完全に融合してしまったがために、身体は動かなくなって人形と化したらしい。そんな状態なのに、一生懸命お世話してくれたヤナに申し訳ないと同時に、心から慕ってくれている事が分かって嬉しすぎて泣けた。サラさん、貴女はちゃんと愛されてるよ!!私と一緒に、たくさんの人に愛されて、同じぐらい愛を返していこうね!!!
「ですからこうして、お目覚めになられて本当に嬉しいのです。ヤナは幸せですよ!!どこまでも付いていきますからね!!!例えあのへんt……、いやクソやr……でもない……、えっとあれ、殿下と本当にご結婚なさっても、ヤナは死ぬまでおそばにおりますからっっ!!!」
途中、とんでもないわるくち挟むやん。変態もクソ野郎も言ったらまずいって……!!まあここには私達しかいないし、変態は当たってるから流しておこうかな!!!
「ヤナ、ありがとうね。私もすごく嬉しいよ!!目が覚めてから、ヤナに会いたいなって思ってたんだ。向こうの世界に一度戻った時も、すごく寂しかったんだよね。だから戻ってこられて、しかも皆が私を待っててくれたって知って、心の底から嬉しかった。本当にありがとうね!!これからもずっと、そばで支えてほしいなっ!!」
ちょっと照れながら、鏡台の前でお化粧と髪の毛を整えてもらっている時に、思っている事を伝えた。すると櫛を手に持ちながら、「……お嬢様が尊ぃぃ!!!」と言って泣き出したので慌てて立ち上がろうとしたけれど止められた。「髪が乱れます!!」ってそれどころじゃないでしょうに!!!
しかしてヤナは怒ると大変怖いので、大人しく従って腰を降ろした。そしていつも通りに完璧な美少女にしてもらうと、待ちすぎてドアの前にずっといたらしいベル様に拉致されて膝の上で朝ごはんを食べた。睨み合うベル様とヤナが怖かったけど、このやり取りも好きだなと思って只管もぐもぐして、デザートもしっかり食べた。美味しい!!!
そうして食後のお茶を相変わらず膝の上で飲んでいる時に、ベル様がうっとりしながら口を開いた。
「サラ、あの日からもう一週間が経ってしまったんだ。君がいない間、この国を、いや世界を滅ぼそうとしたんだけど思いとどまったよ。偉いでしょう?それにつらい思いをさせてごめんね。俺の大切な大切な愛しいサラに危害を加えた者は、全員きっちり処したから安心してほしい。だから5日後の卒業式が終わってからのパーティで、早く公表してこれまで以上に堂々と一緒にいようね?」
わあ、まるでオタクの早口!!彼は少し興奮した状態でバババッと話すと、またしてもスンスンスリスリギュッギュにちゅっちゅを繰り返し始めた。「君じゃない身体にしても意味がない。」と言っていたので、恐らく魂の抜けた状態の身体には何もしなかったんじゃないだろうか。ていうかそうであれ!!!
「そうだったんですか……。あの、全員を処した、とは……?」
いろいろと訊きたい事だらけだったけど、とにかく一番気になったものをチョイスした。怖いけどね、ものすごく怖いけど知りたいから!!!少しプルプルと膝の上で震えながら、どうにか頑張って問う私に、「んふふ♡震えてかわいい♡」って耳元で囁かれて、この精神的ドSの魔王め!!と思った事は絶対に内緒だ。うん、バレたら怖いもの!!!
「もちろん全員処したよ?サラの魂を勝手に帰した挙句、顔を何度も叩いたローガンは追放したし、それに協力した元キャンベル公爵令嬢は隣国に送ったし、王宮の専属魔道具士は利用されただけとはいえ、俺のサラを苦しめる事に協力した罪で、代々仕えていた仕事を外れてもらったんだ。後任はしっかりしてるから大丈夫だよ、性格は全く気に入らないけどね。」
おぉう……???気になる事しかない!!!ローガン殿下が追放され、ジュリア様、元ってなんだ……?まあ彼女も隣国に追放され、そして魔道具士さんもクビになってしまっただなんて!!!それって私のせい……ですよね??え、どうしよ、どうしたらいいんかな……?!ヤナに相談したい!!!高速でウワーーッ!!となっていると。
「ああ、こうやってごちゃごちゃ考えてるサラもかわいいね。でも教えてくれないと悲しいなあ?新しい魔道具士は性格は論外だけど、天才な事に違いはないんだ。開発してもらっちゃおうかな?」
ヒエエエッ!!!というか、性格が気に入らないけど天才魔道具士ってまさか……??思い当たるのは一人だけなんだけどな?!と思った私は、「……それってアンディ?」と訊くと、ムッと眉間に皺を寄せて渋面をしながら頷いたのである。
やっぱり!!!だってあの子は天才だもんね!!!さすが天使で天才のアンディ!!!と途端に目をキラキラさせた事が気に入らなかったようで、クルッと回して向き合うようにさせられた。跨ぐような体勢はなんど強制されても慣れないなあ……、なんて現実逃避していても一瞬で終わった。ああ魔王が降臨している……!!!
「いくら弟って言っても、頭の中が俺以外で埋められるのは耐えられないなあ?腹が立つよねえ。確かにあいつは天才だけど、俺のサラにいつまでも執着してるし。サラが俺以外を優先するなら、王宮魔道具士から外れてもらっちゃおうかなあ?」
海に沈んだ夕日色のような、暗くて引きずり込まれそうになる瞳を三日月形に細めながら、そんな恐ろしい事を言う。と、とんでもねえぜ……!!!
「……ええと、アンディを外すのはダメです。そんな事をしたら、もう膝の上に乗りませんよ……?」
と小声で反撃してみた。だって他に方法が分からない!!全てにおいて魔法と権力でどうにか出来るベル様相手に、私ごときが太刀打ち出来る事なんてあるか……?!と考えた末の苦肉の策だったんだけど、予想外に効力があったようで彼は絶句した。それはもう、絵に描いたように絶句した。それを見て私も固まった。お互いに同じような表情をしながら、数秒見つめあっていたけども。先にハッとしたベル様が、めちゃくちゃ高速で言葉を発した。
「サラっ……!!!それは絶対にダメだ!!!許さないよ!!だから、だから!!アンディは外さないから!!どうか膝の上に座り続けておくれ!!そうしないと俺は狂ってこの世界を滅ぼすよ?!いいの?!」
ぅええ……?!こんなに取り乱した姿は初めて見た……。ちょっとした反撃のつもりが、とんでもない爆弾を撃ち込んでしまったようだ。どうしよ、ごめんする……??した方がいいよね、そんなつもりは無かったけれども、かなり傷つけちゃったみたいだし……。と眉毛をハの字にしながら、よしよしと頭を撫でて謝った。
「えっと、ベル様?そんなに傷つけてしまうとは思わなくて……。ごめんなさい。アンディを外さないでいただければ、ずっと膝の上に座って、こうしてお話したりごはんを食べますから。」
すると途端に真っ青でも美しいままのお顔が、瞬時にバラ色に戻ったではないか。えええ……、チョロぉぉ……!!
「もちろんだよサラ!!絶対にアンディを外さないから、一生俺の膝の上にいてね?どんな時もだよ、約束だからね??あ、大丈夫、陛下や王妃の事を気にするかもしれないけど、あの2人も若い頃はそうだったみたいだから問題ないよ。今はしてないけど、俺達は生涯するからね!!サラ嬉しいね?もちろん俺も。」
あれれー??思ってたんとちがくなーい??どうして陛下と王妃様が出てくるんだろう??しかもどこでもっつった???え、嫌な予感しかしない!!!しかしてここで突っ込むと、やぶ蛇になり兼ねないから黙っておこう。流すのが一番だ、だって気のせいだと思っていた方が、心に対するダメージが減る気がしない??いや事実が目の前に来た時に、けっこう喰らうか。だけど今向き合うのはちょっと怖い!!!
またしてもごちゃごちゃ考えていたら、目を細めてじっと見つめられたので、慌てて思考を放棄した。そうして向き合ったまま、幸せそうに愛を囁きつつ、私の大好きなチョコ味とバニラ味の手作りマカロンを食べさせてくれたけれども。うーん、美味しい!!!でも手作りっていうのが怖い。何も入ってないだろうけど、なんか怖いと思うのに美味しいから止まらない私も大概やばい。お腹壊したらごめんね、サラさん……!!
そしてその状態で、今後についての説明をしてもらった。彼は終始恍惚とした表情で、蕩けるような笑顔をして語っていたのが、なんか良かった。こっちまで嬉しくなったという事は、やっぱり私は既に脳みそを侵略されているんだろうな、この魔王に。
「とりあえず学園にはもう行かなくていいからね。王太子妃教育もほぼ終了しているし、なにか追加すべき事があればマイヤー侯爵夫人が来てくれるし。それに母上も張り切っていてね、大変君を気に入っているんだ。腹が立つけれど、君の魅力は計り知れないなあ。それから、卒業式はもちろん俺と出るんだよ?ドレスも装飾品もあるから、楽しみにしててね。弟とはいえアンディに何も作らせないで、あいつは危険だからダメだよ。」
一番危険な人に危険と言われる我が弟、やはり天才か……!!しかして本当に卒業するのかあ。この世界に、サラさんに呼ばれて1年が経ったけれども、もう元の世界に戻りたいなんて思わないし、今となっては感謝しかない。呼んでくれてありがとうね。
あと王太子妃教育が終わってるとは思わんかったなあ。まだまだ覚えるべき事はたくさんあると予想してたけど、ガンガン詰め込まれていたらしい。どうりで授業量多いなって思ったもん!!でもやっぱりまだまだ自信がないし、これからもお世話になります、マイヤー先生!!そして麗しくも威厳のある王妃様!!!
「立太子は正直どうでもいいんだ。重要なのはその後のパーティで、漸くサラとの婚約を発表出来るという事だよ。やっとだ、やっと。君に出会ってから1年も掛かってしまった……!!もっと早くに囲い込むつもりだったのに、難しいからこそ余計に燃えたっていうのもあるから、まあいいか。今後は常に一緒にいられるんだしね、ああ良かった嬉しいなあ。」
うわぁぁ、息を吸うように魔王モードになる……!!こぇぇ……!!サラッと囲い込むとか言ってたから、簡単に絆されなくて良かった!!グッジョブ自分!!まあ、最終的に堕とされたからベル様の勝利なんだろうけどね。はっはっは。いや笑えないわ!!
「サラ、卒業式までの間はずっと俺のそばにいてね?この一週間ですっかり不安定になってしまったんだ。そんな王太子なんて嫌だろう?だからサラはそれを支える義務があるんだ。王太子妃になる練習にもなるし、サラにとっても良い事しかないからいいね?常に俺といられて嬉しいよね?」
是、しか認めないという強すぎる圧を受けて、どうにかコクコクと首を縦に降ったのだった。だって今後の人生で、本当に彼と常に一緒にいるんだとしたら、今から慣れておかないと、後々恥ずかしさに埋もれて引きこもりになる可能性が高い。そしてそれを心配しつつも、嬉々として閉じ込めるベル様の姿が容易に目に浮かぶのだった。そんなのは困る困る!!
そんな風に、今後についての流れはしっかり把握した。いや、させられたのだけれども!!そして本当にずっとベル様が私に張り付いて、全く離れなくなった。公務の時だって、執務室へ連行すると私を膝の上に乗せてから、満足そうに書類や側近達にいろいろと指示していた。えええ、これ極秘内容とかじゃないの……??これ、相当まずくない???そう徐々に顔色が悪くなる私に、さっきまで鋭くて切り裂くような雰囲気だったのが一気に蕩けたものに変わった。そうしていつものようにスンスンスリスリし始めると、この部屋の全員が戸惑っているのが分かる。いやあ、そうですよね、ある意味怖いですよね。分かりますよ!!と思って目を向けると、サッと逸らされたのだった。えええ、ひどぅい……。
そんな日々をずっと繰り返し、王妃様とのお茶という名の勉強会も、マイヤー先生との授業という名のお茶も、本当に彼は常に一緒にいたのである。もちろん膝の上に私を乗せて。どちらも苦言を呈してくれたけども、適うわけもなく聞き流されていて、困惑した空気のまま終わったのだった。気まずいですよね……!!
このまま明日は卒業式をして、その3日後に立太子を行うわけなんだけれども、もはや不安しかないのは気のせいだろうか。いや気のせいじゃない!!しかしてそれでも、そばにたいと思うのだから、諦めて受け入れるしかないのだ。
そうだ、そうだね。なんて思いながら寝支度を整えてくれたヤナと一緒に、久しぶりに並んで2人で寝たのだった。ぽよぽよおっぱい安心するんじゃ〜ー!!!




