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真のヒロインは私°


ジュリア視点です。



こんなはずではなかった。どうしてこうなってしまったの?!私は今頃、カデンと一緒に過ごしているはずだったのに。どうして?上手くいっていたのに……!!


ガリガリと爪を噛む音が響くけれど、気にしてなんていられない。だってカデンは本当に一人で北の辺境に行ってしまった。最愛の私を置いて。ああもう!!


そもそも私は、ベオウルフとの婚約のために行う顔合わせの前日に、ここが前世でやった乙女ゲームの世界だと理解した。ずっと心と体に違和感があったけど、理由が分かった途端に大きく伸びあがって、心から喜んだのを覚えている。メイドが飛んできて何事かと心配されたけど、ただうるさくて無視してやった。


それよりも明日ベオウルフと顔合わせという事は、近々私の最推しであるカデン・ベイリーと会えるって事ね?!それなら!!絶対に何がなんでもベオウルフに気に入られて、婚約者にならなくては。いずれ捨てる相手でも、その立場が無いと会う事も困難になりそうだ。ゲームのストーリー上そうだったし、絶対に気に入られよう。


幸いベオウルフルートも、一応メインヒーローだから攻略したし、割と簡単に上手く出来ると思う。そして同時進行でカデンもやっちゃおう!!ヒロインと会うのは入学式以降だし、それまでに私に骨抜きにさせちゃえばいいんだから。


そうと決まれば早速忘れないように、攻略のためのノートを作成した。覚えている範囲ではあるけど、他の攻略対象の分も書いておこう。もしかしたら今後絡んで来る可能性もあるし、その婚約者達を味方につければ、ヒロインを追いやる事も出来るかもしれない。


そして重要なのが、ヒロインの弟が天才魔道具士として覚醒するゲームの後半からは、ほぼチート級のアイテムを貰えるから仲良くなっておきたい。それがあればより一層、カデンとの仲は強固なものになるし、ヒロインを近づけさせない事にも繋がる。


悪役令嬢に転生するなんて、ありきたりすぎて最悪!!って思ったけど、運が回ってきたと思えばいいのかもね。出会うのは私の方が先なんだから、とにかく落ち着いて攻略していけばいいのよ。その前に家の力を使って、ロバーツ伯爵家を潰す事も可能だけど、そうすると万が一バレた時に面倒臭い問題が起こりそうだし。


思い出せる限りを書いたノートを、エグゼクティブデスクの鍵付き引き出しに大切に仕舞う。そして侍女を呼ぶと、明日に備えてドレスや装飾品の確認をしたのだった。


そして満を持して迎えた翌日、私はベオウルフの好みの通りに振舞った。するとやはり、子どもという事もあるんだろうけど、彼は私に興味を示した。既に内定していたとはいえ更なる彼の要望で、きっと婚約者という地位は固いものとなっただろう。


すぐに王宮から連絡があり、婚約者に決定した私はすぐに王子妃教育が始まった。10歳には当然難しいし、何より王子妃になるつもりはないのだからと、いろいろと理由をつけては授業をサボった。その過程で、同じく剣術が嫌で隠れていたローガンと知り合い、自然と仲良くなったのである。彼はもともと隠しキャラで、ベオウルフルートの分岐によって出現するのだけど、この時点で知り合えたのなら僥倖だ。猪突猛進で純粋な彼は、一度好きになったら何がなんでも守ろうと、あらゆる事柄と戦ってくれる性格だったはず。ならばここで味方にしておくと、きっと後々役に立ってくれるのではないか?


そう思った私は、どんなに自分が努力しているか、それが報われなくて悲しくて、よく抜け出しては自分を励ましていると説明する。そしてローガンにも、優秀すぎる兄と比べられて、苦しみ悩んでいるという彼の弱味にやんわりと触れ、貴方は貴方のままでいいのだと言い続けた。勉学の才能は本物だから、そこを伸ばしてやれば更に良い方向へ行く。そして時が来たら、私とベオウルフの婚約解消のために一役買ってもらうために、ずっと味方でいてもらわなければね。今のところ私に夢中だし、きっと問題ないはず。


漸くそんな日々から2年が経った日、遂にベオウルフの専属護衛にカデンが任命されたのである。この日をどれ程待ちわびたか!!ゲームで見るよりも幼く、しかし精悍な顔立ちはあと数年すれば、ゲームの中と同じように男らしいイケメンとなるだろう。ずっとベオウルフの婚約者として努力していて良かった!!


王子妃教育は相変わらずサボってるけど、お茶会やパーティでベオウルフと交流してるから変わらず彼は私が好きだし、順調に目標へ向かっている。だからここで一気にカデンとの仲を縮めたいけど、そうなると周りの目や本人から警戒されてしまいそうだし、慎重に少しづつ距離を詰める事にする。カデンの求める大人しくも芯がしっかりしていて、ニコニコとかわいい女性を演じよう。ふふ、楽しみ!!


もうそこからはあっという間だった。まだ常にベオウルフと一緒にいるわけではなく、公務やパーティの際に護衛する彼は、意外と一人になる時間が多い。そのほとんどはだいたい剣術や自主トレをしているから、差し入れをしたり男性との付き合い方などで相談があると言って交流を続けた。すると彼は徐々に私に夢中になり、後ろめたい気持ちはあるようだけどそれでも好きだと言ってくれた。


ああやったわ!!この時ほどこの世界に生きていて良かったと思った事はない。それからは坂道を転がるように恋に落ち、隠れつつも逢瀬を重ねて愛を育んだ。そしてもうすぐ王立学園への入学という時、ベオウルフのために身を引いたローガンが隣国へ留学した。これはゲームの通りだから分かっていたし、それでも利用する価値があるから交流は続ける予定だ。


そうして迎えた運命の入学式。ベオウルフにエスコートされながら、学園の門をくぐった。そしてゲームの通り、入学式を終えて教室へ向かう途中の中庭にある噴水で。キラキラと煌めくシルバーブロンドを惜しげも無く風に靡かせ、小柄な身体で必死に腕を伸ばし、噴水の中に落ちたハンカチを拾おうとしているその女が、パッとこちらを振り向いた。惹き込まれるような輝く深紅の瞳、羨ましい程のパッチリ二重にフサフサまつ毛、そしてなにより庇護欲を容易に唆られてしまうかわいい見た目。もう全てがゲームの通りである。


ヒロインはやっぱりかわいいのね、なんて思っていたけど、私は見逃さなかった。「どうかしたのか?」と声を掛けるベオウルフを見つめるその顔が、一瞬ニヤリとしたのを。そしてその目が、ギラギラとした欲望を孕んでいる事も、瞬時に察したのだった。


……ふうん。ある程度予想はしていたけど、やっぱりヒロインも転生者か。この感じだとベオウルフの攻略もしてくれそうだし、早々に接触して利害一致のためと言いながら、とことん利用してやろう。願わくはこの女が、賢くないといいけどね。


果たしてヒロインである熊谷萌は、願った通りに頭が悪かった。というか、ずっと日本でカースト低位の陰キャ根暗女子だったとかで、美少女且つヒロインになれた事に浮かれて、浅はかになっている感じがした。だから彼女を手のひらの上で転がすのは容易く、それもあってカデンとの愛はより一層強くなった。もうすぐ、もうすぐ本当にベオウルフと婚約を解消出来る。そしたら、そうしたら……!!!


浮かれていた事は否定しないが、もうすぐだと察したカデンも大いに盛り上がっており、その勢いのままに求め合い、肌を合わせたのである。しかし私はせっかくのチャンスを逃したくない。絶対にカデンを私のものにしてやるために、このやり取りを金と権力によって手にれた録音機能の魔道具をブレスレットに加工し、そして会話を全て音声記録として残したのだ。これならば万が一ヒロインである熊谷萌が失敗しても大丈夫だろう。逆ハーを目指すとかバカな事を言っていたけど、この現実ではそう上手くはいかない。だからその時に、もしカデンに来られても困るから証拠はしっかりしておかなければ。


ウキウキとしながらカデンと共に、ベオウルフとヒロインが待つ応接室へ向かった。これで私達は解放されて、お互いの愛を隠す事なく堂々と過ごせるだろう。そうして順調に始まった話し合いだったのだが。


ヒロインの様子がおかしい。事前の打ち合わせでは、もっと私とベオウルフを離れさせる発言をする予定なのに、どうして?扇子で口元を隠しながらも、目の前の女を観察していると、どう見てもおかしい。終いには突然土下座したかと思うと、誰もが驚く程の大声を出して謝罪してきたのである。しかも脚に縋ってきて、本気で心から謝り私とベオウルフの仲を何とかしようとしているのが伺える。


どうしようどうしよう、困る困る……!!お前は私の言う通りにしていればそれでいいのよ!!なんでそんな事も出来ないの?!ああこうなるならもっと早くに、潰しておくんだった。完膚無きまでに金と家の力で、どうにかしておくんだった!!入れ替わりなんてバカげてる!!!


カッと頭に血が上った私は、大声を出して怒りを爆発させたのである。だって我慢出来なかったのだ。ここまで来て、もうすぐ手が届くという時に、目の前でガラガラと崩れていく事に耐えられなかった。何のためにここまでらしくもない演技を続け、カデンの思いを惹き付けてきたのか。それはもう凄まじい怒りだった。


しかし怒鳴った直後に、カデンの空気にハッとなる。ああまずい……!!なんとか言い訳しても彼はドン引きし、以前のように熱のこもった目を向けてくれない。そんな、たった一回のミスで?!ここまで確かに、しっかり愛を育んできたのに!!許さない、逃がさない、絶対に!!


猛烈な怒りが込み上げてくる。貴方がそうやって私を見限るのならば、絶対に許さない。だから躊躇わずに録音した会話を流す。この時の私は本当に冷静じゃなく、ただ逃がしたくないという思いと、カデンの裏切りに絶望していた。それだけだった。


それなのに、今どうして私は自室にこもり、カデンには置いていかれ、爪を噛んでいるんだろう。こんなはずではなかった。とっくに彼と婚約を結び直し、一緒にこの家を盛り立てていく予定だったのに。彼は私になんの相談も無く、自ら北の辺境への異動を希望して、本当に行ってしまった。私を置いて。愛していたはずの私を置いて。


ここまでなんのために頑張ってきたんだろう。彼のためだけに、必死で演技までして努力したのに。どうして?どうしてこうなったんだっけ。ああそうか、直前で熊谷萌がしくじったから、裏切ったから。何をどうしたのか知らないけど、全く違う人間と入れ替わった。そのせいで何も知らないその女が、私の努力を水の泡にした。そうだあいつが悪い、全部あの女が悪い。


それなのにあの女は、私の後釜となる婚約者の座につくらしい。ハッキリと公表されていないが、確定と周りが思う程にベオウルフに愛されているという。


はあ??私はこんなに苦しい目にあってるのに、なにのうのうと攻略を進めて幸せになろうとしてるわけ?あー許せない。そんなの絶対に駄目。ていうかもともと、その場所は私のものだった。ベオウルフは私が好きだったし、私のために尽くしてきたはず。だからそばにいて慰めてくれただけの女に、ちょっと心が傾いたっていう状況なんじゃないの?私がいないから、仕方がなくその女に縋ってるだけじゃ……?


それなら、目を覚まさせてあげなきゃ。修道院に第一王子殿下を欺いた罰として、無理やり勉強に行かされたけど、それは彼にとってつらくてつらくて耐えられない事だったんだろう。だって私以外に縋るなんて、それしか考えられない。ならどうにかして、ベオウルフに会わなくては。そうして、あれは気の迷いだったと伝えれば、きっとまた彼は私を見てくれるし夢中になる。


カデンとの事は本当に心から残念だったけど、ベオウルフも見た目は綺麗だしお金もあるし、何よりゆくゆくは王様になるのだ。だからその妻、つまり王妃になるんだから誰もが私に傅いて、憧れの目で見てくれる。そんな生活も悪くない、いやかなり良い。カデンはそれを見て、逃した魚は大きかったと後悔したらいいのよ。


ふふ、もしもカデンが縋ってきたら、ちょっと焦らしてから受け入れてやろう。ベオウルフの子どもを何人か産めば、あとは好きにしてもいいだろうしね。だってベオウルフは私を愛してるから、そばにいるなら許してくれそう。これまでもそうだった。絶対に私とカデンの事に気付いていたのに、何も言わずに私の事を思っていた。ふふ、なんて可憐(いじら)しいのだろうか。そうと決まれば、兎にも角にもベオウルフに会わなければね。お父様に泣きつけば、きっと何とかしてくれるだろうし。


よくこういう展開では、悪役令嬢が幸せになる事になってるんだもん。私だって例外では無いはず。乙女ゲームでは罰せられて隣国に嫁がされるけど、ここはゲームを元にしたってだけの現実だし、漫画やラノベではヒロインじゃなくて悪役令嬢が最終的には、幸せになって大団円というのがお決まりだもんね。


ほくそ笑んだその時、自室のドアが控えめにノックされた。最近ずっと気が立っている私は、少しでも大きな音がすると怒鳴っていたし、気を遣った侍女はいつも控えめにノックする。だから面倒臭いけど返事をしてやると、ソロソロと入ってきて銀のお盆に乗った、面白みも何も無い白い封筒をこちらに向けてきた。


ムッと眉間に皺を寄せて、威圧的な態度をしながらそれを手に取ってひっくり返す。その封蝋を見た私は、思わず声を出して笑った。それはもう腹の底から、この屋敷に響き渡るんじゃないかと思う程の大きな声で。



「あっははははは!!やっぱり私は、幸せになる運命にあるんだわ!!」



目に浮かんだ涙をサッと拭うと、お茶の支度をするよう言い付けてソファに腰を降ろし、早速その封筒を開いた。中には綺麗な字で私に会いたい事、助けになりたい事、あの女を元の世界に送り返したい事、ベオウルフを取り戻したい事が書かれている。こんなに書いて覗かれた時にどうするのかと思われるが、これは王族のみが扱える特別な封筒であり、書いた本人か渡す相手にしか開封出来ない仕様になっているので、いくらベオウルフであろうとも読む事は不可能だろう。だから安心してそれを読むと、返信用にと同封されていたレターセットに書き込むために、侍女が用意したお茶を飲みながらペンを持ってこさせた。


うふふ、やっぱり私こそがこの世界の本当のヒロインなんだわ。待っててねベオウルフ、必ず助けてあげる。そうしてまた私を愛してくれたらそれでいいわ。


ニコッと我慢出来ずに口角が上がるが、そんな事は気にせずに侍女が持って来たペンを乱暴に奪い取る。それからローガンに返事を書くために、しっかりと喉を潤したのだった。



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