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世界がどうなったとしても。


結論から言うと、やっぱり盛大なフラグだったし、私は見事にローガン殿下の策略に落ちたわけだけども。今どこで何をしているかと訊かれると、ちょっと答えられないというか?だって自分自身でもよく分かっていない。ここはどこなのだろう。見渡す限り何も無い、乳白色の世界を漂っているだけの状態。どうなるんだろうね、これ。ずっと泣き声が聞こえるけど、泣きたいのは私の方です。


何があったか思い出そうと、昨夜の寝るまでの事に考えを巡らせる。いつも通りに寝支度をヤナに手伝ってもらい、ぽよぽよおっぱいでギュッとしてもらった。そして眠気に抗えずにクソデカファンシーベッドに入ってすぐ、夢の中に落ちていったはず。それから、とてもとても胸を締め付けられるような声がして、呼ばれているような気がして、ふと目を開けるとこの場にいた。これは夢の中なのかな?でもそれにしてはずっと、身体も自由に動かせるし移動も出来る。まあどこに行っても何も変わらなくて、ずっとずっとこのままだったら気が狂ってしまいそうだ。そんな時、



「元の場所に戻れ。良かったな、お前なんかをずっと呼んでいる者がいる。戻れ、今すぐに。邪魔だ。お前なんて害悪でしかない。洗脳するような卑怯でクズのような、いやゴミのお前を、これ以上兄上のそばにいさせるわけにはいかないんだ。処刑しないだけありがたいと思えよ、クソ女。」



この空間に響き渡る、テノールボイスが辛辣な言葉をビシバシと投げかけてくる。ベル様と違い、ローガン殿下は声が高いのね。なんて思っていたけど、やっぱり彼にとって私は目の上のたんこぶでしかなく、早急に消してしまいたいんだろう。分かるけどさ、元の世界に戻れって簡単に言ってくれちゃって。それが出来なかったから、ここまで時が過ぎちゃったんだけど?なんてちょっとぷんすこしていても、彼には伝わらずにまた罵られた。



「兄上が助けに来ると期待してるんだろう?無理だよ、残念だったな。お前の首にある物凄い加護が付与されたチョーカーは俺が持っている。ははっ、いい気味だな?ジュリア嬢との仲を引き裂きやがって、それなのに図々しくもその座につくとはな。ああ腹が立つ。洗脳済みだから兄上に何を言っても通じないし、お前は本当に極悪人だ。ほらまた呼んでいる。帰れ。良かったな、どうせ呼んでる奴もゴミなんだろうけど。」



一方的にボロクソ言ってくれるなあ。反抗期真っ只中って感じだ。うちの兄が中学生の時、こんな状態だったな、まさに厨二病という感じで。懐かしいなとちょっと思い出して、フフッと笑ってしまった。それに対して憤慨したらしい彼は、またしても何か罵っていたけど、それを遮って口を開いた。その時に気付いたけど、声はふつうに出るみたいで良かった!



「あのねえ、第二王子殿下?一生懸命に私を傷つけようとしてるみたいだけど、そんなんじゃそこまでのダメージじゃないよ。こっちはそこそこの年数を生きてきてて、それなりにつらい事もたくさんあった。もっと生きてる人からすれば、まだまだなんだろうけどね。貴方なんて15年しか生きてないでしょう?王族とはいえさあ。そんな貴方に、私を上辺の情報だけで罵って傷つけるなんていう事は出来ないよ。もっとしっかり中身と人間性を知ってもらって、それからじゃないとね!」



最後にニコッとしてやった。すると案の定かなり頭に来たようで、なにか魔法を使ったらしい。急激に苦しくなって、息が吸えない。けれど私は思うのだ、このまま死んだとしても、それもいいのかもしれないと。元の世界に戻ったところで、また毎日歯科医院と自宅の往復をして、たまに友達と飲みに行って。ベル様の世界に行ったら行ったで、もしかしたら今はサラさん自身の人格が戻っているのかもしれないし。そしたら私は本当にただの邪魔者だ。だったらもう、このままここで力尽きてもいいかな。


自殺願望なんてないけど、だからといって絶対に生きたいという気持ちも、今は不思議と落ち着ている。きっとこれは、ベル様が毎日毎日本当に心からの愛を与えてくれたから。温かくて、包み込んでくれるような大きな愛を。いや大きすぎて怖かったけど、それでもやっぱり嬉しかった。そして幸せだった。


だったらふつうは、貪欲になってもっと一緒にいたいとか、そう思うものなのかもしれない。しかし私は、もう十分すぎる程に愛してもらった。たった1年間だったけど、それなのに木内紗良としての26年間よりもずっとずっと、大きくて温かく、絶対的な愛をくれた。だからこそ、この心の底から幸せだと思える今、死んでしまってもきっと大丈夫だろう。へへっ、ベル様のお陰だなあ。



「どうして笑うんだよ気持ち悪いな。全てにおいてやっぱりお前は害悪だ。よくも兄上を洗脳してくれたな。暫くそうやって苦しんでいろ。兄上も俺も、そしてジュリア嬢ももっとつらくて苦しかったんだ!」



へえ、そうなんだ。でもたぶんだけどね、ジュリア様は違うと思うよ?ローガン殿下は彼女が好きだったみたいだし、きっとそう思い込んでるんだろうな。まあ別にいいけどさ、分かる気のない人に労力と時間を割くなんて面倒臭いしね。


それはそれとして首は締まり続けていて、すごく苦しい。もがいても意味が無いから、ただ流れに身を任せて目を閉じてるだけなんだけど、それもやっぱり終わらない苦しみというのはこんなにも死にたいと思わせるんだな。



「本当に気持ち悪いな。もういい、今すぐ戻れ。去れ、消えろクソ女が。」



そう言われたと同時に、なにか強い呼び声が聞こえてきた。それはどこかで聞いたことがあるような、ひどく懐かしいようなそんな声。泣いているようで、ギュッと胸が痛くなる。しかし泣きたいのはやっぱり私もなんですけどね、なんて思っていたら。



「紗良……、紗良…、紗良っっ!!!」



パチッと目を開けた。もう首の締まりは感じず、それよりも呼ばれた方を向く。すると乳白色の世界の中に、半透明のモヤモヤした球体がいつの間にかあり、そこから声が聞こえる。私を呼ぶ、その懐かしい声。ああこの声は、これは。



貴一(きいち)くん……?」



思わず口から出た名前に、本当に懐かしいなと思った。私が最後に見た姿は、同僚の女性と楽しそうにしている姿で、だからどうして彼がこんなにも泣いていて、胸を締め付けられるような声で私を呼んでいるのか分からなかった。彼は自分から出て行ったのに、どうしたんだろう?仕事で何かつらい事があったのかな、あの女性と上手くいってないのかな?


いろいろと考えながらも、少しづつその球体に近づいていく。それに伴って、彼の悲痛な泣き声も強くなっていき、ずっと私を呼んでいた。好きだとか、愛してるんだ別れたくなかった、気を引きたいだけだった、とか懺悔も聞こえてくる。これはあれか?都合のいい夢のかな。


これもローガン殿下の魔法で、元の世界に戻れると思わせておき、実は地獄に落ちたりとか。ありえそう。しかして貴一くんのあまりにつらそうな声に、さすがに心配になって覗き込む。するとそこには本当に彼の姿があった。あれから歯科医院に来る営業さんも担当が変わって、全く会ってなかったけど、それでもかなりやつれているように見えた。あらあら。



「おいクソ女、いつまでそうしているつもりだ?早くそれに触れろ。そしたらお前はもうこの世界に戻る事はない。元の世界で、元通りに生きていくんだ。早くしろゴミが、手を焼かせるな。」



へえ、これに触れたらいいのか。ならそうしようかな。出来る事なら最後に、ベル様にお礼を言いたかった。それから謝罪もしたかったな、たくさんご迷惑をおかけしちゃったしさ。


あと肝心の事を一度も伝えていない。好きだと言った事がない。あーあ、こんな事になるなら、卒業式で言おうと思っていたけどもう日常的に伝えておくべきだった。心残りが出来ちゃったわ。くそ、頼んだら言ってくれる?まあ無理だろうな。



「分かったよ、第二王子殿下。でも最後の慈悲として、ベル様に感謝を伝えてほしい。心の底からありがとうって、それだけは頼みたいなあ。約束してくれる?そしたら今すぐにでも、この謎の球体に触れてもいいよ。」



ベル様を思って、ちょっと微笑みながらそう言った。私が消えてしまった後に彼が世界を壊しても、もう私にはどうする事も出来ないし。なんて考えていたら、大きな舌打ちが聞こえてきて、左の頬が叩かれたように痛くなった。あれこれ、身体に干渉出来ちゃうんだ?じゃあさっき苦しかったのも魔法じゃなくて、ローガン殿下が物理的に首を絞めてたって事ね。そして今は強くビンタしたんか、って女の子に何してくれてんの!!ああ、きっと腫れるだろう。サラちゃんごめんね。



「くそっ!!……腹が立つが伝えてやる。だから今すぐその殺したくなる面を消せ!!」



いったい!!あの厨二病、また左頬を叩いたな?!かなり腫れるじゃんかよ、ベル様が治癒魔法をかけてくれたらいいな。



「よろしくねー!!あと怒ったからって女の子に暴力振るう奴はねえ、世界共通でクズなんだよ。今のうちに改な?じゃあね、反抗期のボクちゃん!!」



痛いってばやめろ!!またしても叩きやがって、あいつ何も分かってないじゃん!!はあ、疲れたなあ。約束はしてくれたし、とりあえずもういいや。



「ベル様、バイバイ。好きになってごめんね。」



ちょっと涙がこぼれたけれど、これは悲しみなんかじゃない。頬が痛いから、そうすごく痛いから。だからどうか元気でいてね。世界を滅ぼしてもいいけど、両親とアンディは助けてほしい。特に弟は本当にいい子なんだ。だから。


少し微笑みながら、こぼれる涙をそのままに球体に触れた。



























「ルーカス、お前死にたいのか?」



ドアを吹き飛ばして現れたのは、予想通りにベオウルフ殿下だった。ローガン殿下が国宝の魔道具を操作するためにこの極秘部屋を訪れた時から、絶対にこうなると思っていたし、覚悟も出来ていた。だから俺は、何も言わずに片膝を着いて片腕を胸の前に添え、頭を下げ続けるしかない。


俺のベオウルフ殿下に対する忠誠心は本物だ。しかし、だがしかし俺の最愛の婚約者を人質にされてしまっては、例えこの命を奪われても、世界が滅んでも構わないのだ。だから発言を許可された際に、まっすぐ目を見てそう伝えた。彼女のために死ねるならば、俺は本望だ。彼女を隷属させるための魔道具を完成させられなかった事だけが、唯一心残りだけど。



「……そうか。お前が婚約者を愛しているのは知っていた。気持ちは痛い程に分かるが、今回は相手が悪かったな。」



部屋の中がブワッと寒くなり、全身が悴んで上手く息が吸えない。しかし彼は俺を冷えた目で睨み続け、言葉を発する。



「サラが、どれ程俺にとって命や世界よりも大切か知っているだろうに。それでも婚約者を守ろうとしたお前は見上げた根性だな。」



そう言うと、首筋に氷のように冷たい剣の切っ先が当てられた。少しでもベオウルフ殿下が動けば、柔らかな人間の皮膚なんていとも簡単に切れてしまうだろう。



「……お前の婚約者は俺が助けてやる。だから今すぐに俺のサラを引っ張り戻せ。」



絞り出したような苦しそうな声で、ベオウルフ殿下がそう言う。助けてくれる……?俺の最愛の婚約者、クローネを?みるみる目に輝きが戻り、期待している事を隠そうともしない俺に、殿下はニヤリと口角を上げると更に言葉を続ける。



「本当に助けてやる。しかしお前は今後、この仕事を完全に外れてもらうからそのつもりで。しかし今回は特別だからな、お前の後継となる者に全て包み隠さず仕事を譲渡しろ。その過程で何よりも大切な、俺のサラを最優先する事をもちろん忘れるな。わかったか?」



ああ、ああやはりか。万が一生き残る事が出来たとしても、きっと俺はこの役目を下ろされると思っていた。分かっていたのに、誇りを持って心からの忠義を誓っていた俺としては、心の底から悲しかった。しかし婚約者を自分や世界よりも愛しているのだから、これは致し方ないのである。だから烏滸がましくも涙を流しながら、キュッと口を真一文字に結ぶと強く頷いたのだった。


すると首に当てられていた剣で、首が少し切れた感覚がした。部屋が寒すぎて痛みが麻痺しているが、きっとかなり血が出ている。痛みは少ないのに流れ落ちる量が多い温かな液体を、じっと見つめていた殿下が無言で指を鳴らし、治癒してくれた。それに深く感謝して頭を下げた時、バタバタと廊下を走る音が聞こえる。こんな場所に来るなんて誰だ、まさかローガン殿下では……?だとしたら俺の大切なクローネに何かあったのかもしれない。そんな風に焦って扉を睨んでいたが、現れたのは別の人間だった。ベオウルフ殿下の専属侍従である、エルヴィス・コナー辺境伯令息でもない。



「お前かーーーっ!!!!」



入ってきて俺を認識するなり、大声を出して殴りかかってきた。ずっと部屋に閉じこもって魔道具の勉強や研究ばかりしていた俺に、細身とはいえ鍛えているような令息からのパンチはきつい。簡単に後ろに吹っ飛び、エグゼクティブデスクに頭を強くぶつけた。しかし彼は更に殴りかかろうと走ってきて胸ぐらを掴まれたが、それをベオウルフ殿下がやんわりと止めている。



「……アンディ、気持ちは分かる。だがしかし今は一刻を争うんだ。まずは魔道具の使い方を習え、そしてサラを引き上げろ。」



泣きながら暴れて殴ろうとしてくる彼の名を聞いた時、ああと納得した。そうか、彼はロバーツ伯爵令嬢の弟で、次期当主となるアンディ・ロバーツ伯爵令息だ。どうりで見た事があるような気がした。シルバーブロンドに深紅の瞳は、まさにサラ・ロバーツ伯爵令嬢そのもの。噂で彼は魔道具に関して天才的だときいたことがある。だから彼が適任だと判断されて、ここに連れてこられたんだろう。ベオウルフ殿下が、単に彼女の身内というだけで連れて来るはずがないのだから。



「お前っ、お前のせいで!!!俺の姉さんが!!!くっそ、早く使い方を、教えろっ!!」



ボロボロと涙を流しながら、そう叫ぶ彼は本当にロバーツ伯爵令嬢を慕っているんだろう。申し訳ない、申し訳ない本当に。それでも、それでも俺にとってクローネは。


なんとかヨロヨロとしながらも立ち上がると、強い目をしてロバーツ伯爵令息を見抜く。そして察した彼が舌打ちをしたが、それでも大人しく付いてきてくれた。だから禁書を開いて、使い方をとにかく早急に教えていく。するとさすがは天才と言われるだけあってあっという間に吸収し、構造も理解してしまったのである。だから安心してどんどん教えこんでいき、彼の質問にも包み隠さず答える。俺に出来る事はこんな事しかないのだから、絶対に出し惜しみなんてせずに、誠意を込めて伝授し続けたのだった。


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