手紙書いといて良かった!
ヤナと一緒に文章を考えながら、アンディに手紙を書いた。自分だけで書くとどうしても、この世界風じゃなくて元の世界風になってしまうので、書き方を学んだのだった。毎週3回あるマイヤー先生の授業で、もちろん習っているけれども、それはどちらかというと業務的なものだから、親しい人への手紙はまだ習っていないのだった。
「ねえヤナ、アンディは本当に喜んでくれるかな……?迷惑だって返送されたらどうしよう。」
眉毛をハの字にして、しょぼんとしながら完成して封をした手紙を持ち、ちょっと俯いて問いかけると、「ゔっっ!!!」と言いながら淹れようとしてくれていた紅茶のポットを慌ててワゴンに置いた。そして左手で口元を押さえて前かがみになりつつ、右手を胸の高さに上げてサムズアップしてくれたのである。しかし唸った事が気になって、慌てて背中を擦るとなんとか呼吸が落ち着いたようで、すぐにスッと背筋を伸ばしてニッコリしてくれた。良かったー!!
「じゃあこれ、アンディに届くように出してもらえる?緊張するね、喜んでくれるといいなあ。」
ほんのり頬を染めて、もじもじしながら言うとヤナがまた挙動不審になっていたけど、大丈夫そうなので淹れてもらったお茶を飲んだ。そしてお菓子も食べてからベル様への手紙を書くために、私専用に置いてくれている小さめのエグゼクティブデスクに腰掛ける。アンディへの手紙のように、ちょっと近しい感じで書いていいのかな??それともやっぱり、業務的な方がいいのだろうか。んー、でも絶対にアンディ宛ての手紙を読むだろうし、それなのにベル様にはよそよそしいと拗ねるかもしれない。下手したらもう手紙を書くなって言われる可能性もあるし、よっし近しい感じで書いちゃお!!と決めてペンを握った。
「お嬢様、坊っちゃまへのお手紙を出すように手配してまいりました。恐らく本日の夕方には届くかと思います。」
半分ぐらいを書いたところで、ヤナが戻ってきて報告してくれた。けっこう届くの早いんだなあと感心しながら、「ありがとうね。」とニコッとしてお礼を言うと、再びペンを握って書き始めた。するとちょっと覗き込んできたヤナがムッと眉間に皺を寄せていたので、「やっぱり業務的な感じで書くべきだったかな?!」と焦って訊くと、ゆっくりと首を横に振られた。
「……いいえ、そうではなくて。坊っちゃまだけではなく、あの恐ろしい殿下にもそのように書いて差し上げるなんて。お嬢様は本当にお優しいですね!!それはもう大喜びするんだろうなと思ったら、りんごを握り潰しそうになっただけですよ。」
最後の不穏な発言は聴かなかった事にしよう。しかして書き方や内容は大丈夫そうだ。一先ずヘラリと口角をあげながら、なんとか最後まで書ききって封をした。そしてベル様が来るまで、ちょっと休憩しようとヤナと一緒にお茶タイムにしようと思った時。
「サラ!!ああサラ、サラ……はあ、いい匂い。大好き、会いたかったよ。」
後ろからお腹に手を回され、グンッと強い力で引き寄せられた。そしてすぐに耳の後ろをスンスンスリスリされた感触がして、耳元でイケボがしたのである。身長差がかなりあるのに、立ったままの状態で耳元にベル様の顔の気配がするという事は、かなり屈んでいるはずだ。咄嗟に目の前にいるヤナを見ると、とんでもなくシラケた顔して、冷たい目をベル様に向けているではないか。必死な彼に対してちょっと引くのはわかるけど、そんな顔で見ないであげてよ……。
そんな事を考えている間にも、サッと左腕に私を抱っこしてベル様の私室に転移した。そしていつものように膝の上に座らされると、改めてスンスンスリスリされたのである。これでは本当にマーキングじゃん!!
「本当に会いたかった。サラも寂しかったね?ごめんね、一人にして。ちょっと面倒な用事がいくつかあったから、これでも急いで片付けたんだ。お陰で今日はこんな時間までサラに会えなくて、もう少し掛かったら国を壊していたかもしれない。ふふ♡ああサラ、ほらこっちを向いて?かわいいね、かわいいかわいい。大好きだよ、愛してる。」
こっっっわ!!!あとしっかり息継ぎして??そんな一気に呼吸もそこそこに喋ったら酸欠になっちゃうよ?!そして早すぎて聞き取れないところだった!!私でなきゃ見逃しちゃうね?!それにこんな時間って言っても、まだ午後1時くらいなんだけどな…??
そして今日は何をしていたかを細かく報告してくれた彼は、大変ご機嫌そうにお茶を飲みながら私の口元にバニラ味のマカロンを運ぶと、もぐもぐする私を幸せそうな顔で見ていた。それはもうじーっと見つめられて、本来ならば緊張したり恥ずかしくて食べられなさそうなのに、すっかり慣れた私はふつうにもぐもぐして美味しく食べた。我ながら図太いなっ!!
「はあ、かわいいなあ。サラ、君に酷い事をした女生徒達の事だが。あまりいい気はしないと思うけど、結末を知りたいだろうから言うね?とりあえず3ヶ月家で自粛して、その間に改めてマナーの勉強をしてもらう事にした。そして君達の罰がこれだけで済んだのは、俺のサラのお陰だって女生徒とその親にしっかり言い聞かせたから、戻ってきたらきっと直接謝罪を受けるかもしれない。でも嫌だろうし断っておいたから安心してね。本当にサラは優しいよね。君が俺に頼まなければ、女生徒達はとっくに退学だったのに。」
いやいやだから……!なんかいろいろ言いたいけど、怖いから頑張って口角を上げるだけに留めておこう。そして謝罪を直接受けるのを勝手に断るなんて!!もしかしたらお友達になれたかもしれないのに!!えー、お話したいなあ…。という私の頭の中を読んだらしいベル様が、途端に暗い目をしたので慌てて逸らした。だがしかし時既に遅し。
「……ふうん、サラはあいつらの謝罪を受けたかったんだ?どうせあわよくば仲良くなりたいとか思ったんじゃないの?でもダメだよ。一度でもサラを傷付けたんだから、俺が許すはずないでしょう?それに俺がいるんだから他の誰かなんて必要ないね?そうだね?」
こんな事を間近で言われて、違いますって言える人いる??そんな魔王に対して命知らずな事が出来る人がいるなら連れてきてほしい。私はまだ生きたいから同意するけどね!!弱いと言われようともまだ生きたいんだから!!だから必死で首を縦に振る私に、瞬時に蕩けた顔に戻って顔中にちゅっちゅしたかと思うと、最後に唇に噛み付くような口付けをしてきたのだった。力が抜けるし苦しいって!!
「それで?サラはアンディに手紙を書いたらしいけど、どうして?絶対に家には帰さないから、2人で計画を立てようとしてもダメだよ。どんな事も全部阻止しちゃうからね?ふふっ。」
うわぁぁ……!!やっぱり我が弟に手紙を書いた事は当然バレてるし、分かってたけど内容も読んだんだな……。いやそれにしても一体いつ?!ヤナが手配をしてくれてから、そんなに時間は経ってないと思うのに!!だけどこの海に沈んだ夕日色の目をしたベル様に、早く説明してしまわないと閉じ込められる!!
「いえ、えーと、確かに家に遊びに行ってみたいとは書きましたが、帰りたいわけじゃなくて、そのぉ……、ただ仲良くなりたいというか……。せっかく2人だけの姉弟ですからね?話してみたいですし。本当にそれだけですよ?」
それはもう必死に、ガッチリ抱えられているため、ベル様の膝に跨る姿勢のまま伝えた。すると、そんな私に何を思ったのか、海に沈んだ夕日が徐々に朝日に変わっていくのが手に取るように分かる。「必死なサラかわいい。」と蕩ける笑顔で言われたけど、そりゃあ必死にもなりますやん?!だって目の前にいるのはベル様ですよ?!しかして今はご機嫌に耳を擽るように撫でてるし、大丈夫そうで安心したのだった。
それからまたマカロンを口元に運んでもらい、それをもぐもぐしながらまたお喋りしていたら、彼に手紙を書いた事を伝え忘れているなと気付いた。食べるために前に向きを直して座らせた私を、真横からじーっと見続けているベル様に、お茶を飲んで喉を潤してから口を開いた。
「あのですね、お恥ずかしいのですが……ベル様にも、お手紙を書いたんです。日頃の感謝をお伝えしたくて。ですから後程、持って参りますね?部屋の机の上に置いていr……」
と最後まで言い切る前にベル様が指を鳴らすと、開いていた私室のドアからスッとエルヴィスさんが現れ、目だけで何かを理解したらしい彼が出て行った。もしや…?!と思っているうちに秒で戻ってきて、どこにあったのかわざわざ銀のお盆の上に、私がベル様に書いた手紙を乗せていたのである。専属侍従さん仕事出来すぎるよ……!!何も言われなくても分かるなんて怖いわ!!
「ああサラ……!!嬉しいなあ、俺にも書いてくれてるような気がしたんだけど、やっぱりそうなんだね?はあ……、幸せすぎて魔力が漏れてしまうよ。これは国宝級だね。んふふ♡嬉しいなあ!!」
デロッデロに蕩けつつ部屋中が温かい魔力で包まれ、頬も赤く染ったベル様が本当に幸せそうにしている姿を見たら、書いて良かったなと率直に思った。そしてやはり期待されていたようだし、もし書いていなかったらどうなっていたのだろうとちょっと震えた。膝の上でマナーモードになっている私に、スンスンスリスリしているベル様がずっと耳元で愛を囁いてくれるけれども、これは喜びの震えではないのですよ?!
「大切に大切に読むからね。はあ……楽しみだなあ。アンディが羨ましくて、彼に直接俺が剣の指導をしてやろうと思った程だ。やっぱりサラは俺を愛してくれてるね?分かっていたけど嬉しいなあ♡」
めっちゃ怖い事をずっと言ってるけど、とにかくアンディを守れたらしくて安心だ!!あの子の腕前は分からないけど、まだ中学生ぐらいなのにベル様に稽古をつけてもらうなんて!!いくらアンディでも、レベル上げが足りてないから即教会行きの可能性もある。本当に良かった!!危険を察知して手紙を書いた私、グッジョブ!!
それからまたスンスンスリスリすると、封筒にちゅっちゅしてからゆっくりと開封し、ねっとりした目の動きで読み始めた。その間ずっと膝の上におり、ちょっと落ち着かなくてソワソワしながら、お茶を飲み飲み感想を待っていたのだけれども。いつまで経っても何も言わないではないか。もしやまずい事でも書いてしまった?!と不安になってチラッと見ると、彼は手紙を右手に持ったまま上を向いて、恍惚とした表情をして目を閉じていたのである。あ、嬉しかったんですね……。
ちょっと照れるけど、やっぱり喜んでもらえると書いて良かったなと思える。だから私もほんのり頬を染めながら、お茶を飲もうと手を伸ばした時。クルッと回されてベル様を跨ぐように座らされると、色気をダダ漏らしにしている絶世の美男子の顔を正面から見せられた。しかも超近距離で。
こ、これは……!!木内紗良としての26年間でもこんな経験は全く無かった!!ひえー!!美の暴力って本当に痛い!!満身創痍だからその色気を仕舞ってくださいよ?!とそれはもう頭の中はまるで、サンバダンスを踊っているかのように騒がしかった。そんな私を目を細めて見つめると、撫でるようにチョーカーに触れられたために、怖くて思考を停止させたのである。
「サラ、本当に愛してるよ。もうすぐ婚約出来るからね?待ち遠しいだろうけどすぐだから。はぁぁ、一切サラを放す必要がなくなるなんて、幸せすぎて世界中が常に春になりそうだね?」
とりあえずチョーカーを撫でるのやめてもらえます?!首締められそうで怖いので!!それにしても本当に婚約するつもりなのか……。素直に心が喜んでいるのが分かる。私達の心はほとんど一つになっていて、違和感なく感情が表に出せるし、きっともうすぐもともとのサラさんは私に取り込まれてしまうだろう。それでいいのだろうか。それにベル様も、私を愛してくれているのは痛い程に伝わるけど、伯爵家の令嬢が婚約者で大丈夫なのかな??何かあった時に後ろ盾が必要になるって、よく漫画やラノベで読んだけど、それはいいのだろうか。
と悶々と考えて思考回路の海に潜っていたけど、きっと問題ないのだろうな。だってベル様だし!!という結論に到って、フフッと声を出して笑ってしまったのである。こうなったらしっかり頑張って、ベル様にとっても誰にとっても、恥ずかしくない人間を目指そう!なんて思っている私を。
「なんてかわいいんだ!!こんなに間近で、そんな顔を見せるなんてサラは悪い子だね?!そんな子にはお仕置が必要だ……!!さあ今すぐ食べてしまおうね?かわいいかわいい俺のサラ♡」
物凄く早口で、且つ尚更顔を寄せられて言われたけれども、とにかく怖くなってちょっと震えて涙目になった。それを勘違いしたらしい彼は、感動した上に蕩けた顔で当然のように押し倒してきたけど、私の素晴らしい専属侍女さんが飛び込んできて助けてくれたので、今回も無事に貞操は守られたのである。勇者ってすげー!!




