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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

嘘つきの話

作者: 篠原 ひなた


 殺してやりたいほど、憎い相手がいる。



 アレが今日もムダに命を奪い、口にしているのかと思うと、それだけで嫌になる。

 アレが我が物顔で酸素を浪費しているのかと思うと、喚きだしたくなる。

 なんたる無駄。

 アレのすべてが嫌いだ。むしろ、生まれることを選んだアレ自身の正気を疑う。アレがいなくとも世界は回るというのに、厚顔無恥にも程がある。


 別に考えたくもないのに止まらない思考に辟易しながら、思うのはアレの愚かしさばかりだった。


 アレこそが無用の長物だ。生まれたその場で死ぬべきだった。おめおめと生き恥を晒させてやる親切心など、アレには過分だ。


 一つ呪うごとに、笑ったままの口元へ落ちるしずく。なぜ流れるのだろう。涙などアレに必要なものか。


 訝しさは、憎しみの前に潰えた。

 アレはどうして死なないのだろう。アレの居場所などどこにもないのに。


 思う間にも水滴は増すばかり。ぽろぽろぽろぽろ滝のようだ。

 ぎゅうとしめつけられた胸が何かの病のように痛む。


 憎らしくてならないアレのことなどこれ以上考えなければいいものを、思考は勝手にいつもの軌跡をたどってゆく。


 忌まわしい。アレのことなど誰もが忘れてしまえばいい。記憶も記録もアレにはいらない。

 死体すら残らぬよう、死んで消え失せるがいい。


 痛みの増した胸をおさえて、体を丸める。敷布はすでにびしょぬれだった。まったく無意味な水のせいで。


 ふ、と。

 本当にふっと思い出す…今日が4月1日だということを。

 世界の公営放送が、自らが嘘つきだと認める唯一の日。そして、誰もゆるしはしないが、故意に嘘をつくものが増える日でもある。


 あまりのくだらなさに笑いかけた頭が、戯れごとを一つ思いつく。本当にくだらない、戯れ。


 私もまた、嘘をついてみてもいいだろうか。

 くだらない、戯言というほどの価値もない大嘘を。




 ばかげた思いつきは、思いついた勢いのまま口をついた。


「私は私が好きだ

 私は私を愛している」


 途端に、涙が止まった。胸をしめつけていた何かも消え、私は自由になった。


 戸惑いながら見やった時計の針は、0時をだいぶ回っていた。




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