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8−3 冥途の土産

 先代陛下が即位するまで使っていた館の広間が、避難民でごった返している。その広間にかかっている、すっかり自分達より若くなってしまった先代陛下の肖像画の前で、ローエンヘルム卿が呟く。


「ここに来ると思っていてな」


 人混みを押し分けて、ティーゼルノット卿がやって来る。


「お互いにな」


「家族は?」


「今のテオとクロードなら大丈夫じゃろう」


「そうか」


「町は騎士団達が再興するだろうな」


「それで、年寄りはどうするべきか、などと考えていたんだろう、ジェイコブ」


「そうだな」


 城、騎士団、魔法使い、小さくとも平和で豊かな国の礎を築き上げ、まるでそれと引き換えにまだ若くしてその生を終えていった、懐かしい自分たちの一番最初の主君。先代カールベルク国王陛下の若い肖像画の前で、騎士団の首席二人が静かに息を吐く。


「先代の最期の言葉を思い出してな『我々は、鉄を打ち、種も撒いた』」


「最後まで見守るのが、遺された我らの役目か」


「城の炉が無事だったら、色んな鋳造がいるな。家の建て直しや修繕か。釘の一本から再出発するのも楽しかろう」


「穀倉地帯が無事であれば良いが。あと、他国への街道や水路も。築いてきたのは我らだ」


 雷の音が近い。


「大雨まで連れてこられたら大災害だったな。不幸中の幸いか。騎士団は二階の部屋か?」


「霊廟とこちらで半分ずつ分けてある」


「ふむ」


「何とか上手くやれているようだ」


「ふふ、良いことよ。少しばかりの寂しさもあるがな」


 ローエンヘルム卿が静かに言った。


「全てが上手くいったら第一席を後続に譲る気でいる」


 ティーゼルノット卿も応じる。


「奇遇だな。わしもそう思っておった」


 二人が顔を見合わせ、同時に呵々と笑い出す。


「………ふふ、あと十年若かったら、適当な衣裳や仮面などつけて御前試合に突如乱入するなどといった面白い役どころが出来たのにのう、我が友よ」


「………惜しい、実に惜しいことじゃなあ。草葉の陰で先代が大笑いするに違いない」


 そんな老騎士ふたりを、先代陛下の若き肖像画が優しく見守る。


「先代への冥土の土産は多ければ多い方が良いからな。折角だから馬車にして百台分は持っていこうと決めておる」


「二人合わせて二百台か。悪くない。あの唐変木と阿呆鳥のことゆえ、たっぷりと、運びきれないくらいの面白おかしい話を、こんな時でも持ってくるだろうよ。愉しみにしてやらねばな」


 小さな窓の外、やや離れている場所に城が見える。若かりし頃、先代陛下やその仲間達と共に建てた小さいが堅牢な城。当時にゆかりのある面子で、今生きているのはとうとう自分達二人だけになった。しかしながら、老いた騎士達の追憶の場だけではなく、今のカールベルク城は、新たな出会いや冒険も生みだされていく実り豊かな場所になっている。


 城とは、そういう場所でなければならない。


「正念場か」


「うむ」


 肖像画の下で、騎士ふたりが紅く染まりゆく窓の外に静かに視線を投げた。

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