ある日の家路
セーフ...かな?
「みんなお疲れさまです。各自整理体操をして完全下校時刻までには出るようにしてください。私からは以上です。先生、何かありますか?」
「皆、お疲れ様。気をつけて帰れよー」
「では終わりにします。ありがとうございました。」
部長もとい翠を含めた三年生のリーダーが声をかけこの日の部活動は終了した。ちなみにこの声掛け、日替わり制である。理由は単純。三年生の四人が部長をなすりつけ合う光景を見た去年の先輩方が呆れてこの年だけローテーションを採用したからである。
そんなことはさておきここから急いで支度をしなければならない。あと15分足らずで下校時間だからだ。翠は急いで汗の始末をし、制服に袖を通した。
(雅功めー!!)
顧問が調子に乗った日は練習が長引き、帰りはテンヤワンヤ。心のなかで毒を吐きながら手早く準備を済ませる。
「おつかれー!!」
「翠はやっ!」
「お疲れ様〜また明日!」
「じゃーなー」
三年生部員全員に声をかけながら走って家路を急ぐ。でないとめんどくさい事になるのはわかりきっているからだ。しかも翠は歩きなので帰りがけの野球部集団に挟まれながら帰るのはよくあること。皆頑張っている匂いがするので辛いのだ。そこと被らないためにもこうして走っている。
(ここまでくれば追いつくまい)
正門をでて200m程度走ったところで速度を変える。後方には野球部が見えるので今日は成功ということでいいだろう。
帰ったらご飯のデザートとしてアイスを食べよう!そんな事を考えながら通学路を一人歩いた。そして二十分ほど歩き、あとこの角を曲がれば家につく、というところまできた。
(早く帰ってお風呂に浸かりたいー!!)
そんな思いもあり、ウキウキして角を曲がる。すると
「おー、おつかれ」
(ゲッ...)
クラスの、いや学校の人気者である柳田瑠依と出会ってしまった。そう。翠が家路を急ぐもう一つの理由は
「やっほー湯河原さん!お疲れ様〜」
「あぁ〜お疲れ様です」
(目が笑ってないですよ)
帰りに家が隣である柳田瑠依と鉢合わせないようにするため。女子の鋭い視線から逃げるため。
今この瞬間、先程までのウキウキを返してほしいと切実に願った翠であった。
「ほらもう暗くなるからお前も帰れよ〜」
「えーだって」
「だってもクソもない。気を付けてな。また明日!」
「明日...うん!」
あぁ、こういうところがモテるんだろうな、と素直に一連の瑠依の行動を見て感心した。感心しながらも興味はないので、静かに家に入ろうとさり気なく二人を抜かした。が、
「ちょっと待てよ」
「はっ?何で?」
「いや、お母さんがお前の親に渡してほしいものがあるって言ってたから。」
「あっそうなの。ならポストに入れ_」
「なま物だからすぐ渡すからちょっと来て。」
なま物ならポストは辞退したい。翠には瑠依についていく以外の選択肢は与えられなかった。
「あの子、そのまま返していいの?まだこっち見てるけど」
「あー大丈夫だよ。いつもそうだから。」
そう言いながら瑠依は先程までの女子生徒に笑顔で手を振った。
しかし女子生徒が見えなくなるとすぐに真顔になり、
「ガチでめんどくさ。女子わからん」
本音が漏れ出す。本当に皆こいつのどこに良さを見出しているのか疑問である。少なくとも私はこんな奴、御免被りたい。
「ちょっ、まっすぐ歩いてよ」
「ん?あーゴメン」
「思ってないでしょ」
「うん。それが?」
右によってきた瑠依を手で押し返しながら歩いていく。一応私も女子なので部活帰りに近づくとかやめてほしい。ニオイ、気になるから。
「はい、コレ。フキだって。」
「おー!ありがとう。お母さんにもお礼言っといて。」
「んー。」
「じゃーね。」
さっさとお風呂に入りたいという一心から適当に会話を切り上げ横を通ろうとした時、右腕を掴まれた。
「もう入るの?もうちょい喋ろうぜ。小学生の時みたいに。最近冷たくない?」
「なんで?どうせ話って言っても愚痴でしょ?スマホでいいじゃん。」
ていうか手離して、とやんわりと振りほどく。
「ゴメン。何か久しぶりにこんな喋ったから楽しくなっちゃった。」
(なにもそんなシュンとしなくても...)
イケメンが落ち込むと体裁が悪い。通りがかった奥様、そんなに見ないでー。私なにもしてませんからね?
「わかった、分かったから。今日は汗かいててキモチワルイの!しかも怒ってるわけじゃないし。」
「じゃぁこれからも普通に接してくれる?」
「うん。」
「なら帰って良いよ〜。」
(はっ?)
そう言うと瑠依は先程までのが嘘だったかのように平然とした態度で我先に家に引っ込んでしまった。置いてきぼりを食らったのは結局のところ翠であった。
(なんなのあいつー!!)
何に満足したのか知らないけど、人を巻き込んでおいて先に帰りやがった!!アイツなんて...
「大っキライ!」
閉じた扉に向かって思いっきり叫んだ。