Ep.1
カーンカーン
朝日が地平線の向こうから顔を出し、鍛冶職人の鍛鉄音が静寂の中に響く。この街の朝の始まりである。
そして今日も元気な挨拶と足音が聞こえてくる。
「おはようございますゲーレさん!おはようございます!会長!」
満面の笑顔で誰よりも先に街中を挨拶して回るこの少年は、街の三番鍛冶エフゲニオスの息子ノアだ。
「あら、ノアくんおはよう!今日もパン配達手伝ってくださる?いつも助かってるわ!ありがとね!」
パン屋のアンナさんが生地の仕込みをしながら少年に声をかける。
「はい!!喜んで!では後ほどすぐ伺いますね!!」
少年は元気に答えて街の中心へと走っていく。
「ここの金属の処理と、採掘も頼むよ!」
「わかりました!すぐ!」
「うちの馬の蹄鉄交換もそろそろ頼むよ!」
「了解です!そういえばこの前産まれた仔馬のニケもだいぶ大きくなりましたよね!一緒に蹄鉄つけましょうか?」
街の人に応えながらやはり少年は一目散に街の中央へと向かって走っていく。
少年が向かった先は鍛冶場が密集するエリアの中心から少し離れたところにある小さな小屋だった。
少年は中に入ると大声で挨拶し、中で作業をしているボロボロの服を着た大男に話しかけた。
「お父さん、おはよう!!例の王様に献上する宝剣仕上がるといいね!」
少年に父と呼ばれた男の顔はその大きなガタイに似合わず顔はこけ、虚な目をしていた。
男は少年の顔を方を見て少し微笑んで、すぐまた作業に取り掛かかった。
「けっ、ジェンみたいな余所者にそんな立派な代物作れるかよ」
そう言い放ったのは鍛冶場のまとめ役のパウロスだった。鍛冶場は住み込みで働く人がほとんどだったが、早朝から働いている人はエフゲニオスただ一人だった。