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嫉妬の鬼神

キーンコーンカーンコーン


「小テスト終了! 後ろの席の人、回収して下さい」

「うーい」


 適当に呟いて、端の席の俺は立ち上がり、同じ列の答案を集めて先生に渡した。

 疲れた頭を休めながら、自分の席に戻り、頭を使わずに会話できる鹿馬と話す。


「ふぅ。難しかったな」

「そうかぁ? 簡単だっただろ」

「回答欄に怪物の絵を書いてた奴の言うことじゃない」

「ん? アレは先生の絵だぞ」

「……あの火を吹き、黒い波動を放つ怪物が?」

「ああ」


 どんだけ怪物なんだよ……。

 俺はずっと魔王側にいたので、みんなが戦っている様子を見たことが無いが、話を聞いているだけで凄いことは分かる。


 何となくその光景を想像していると、清建が話しかけてきた。


「どうだった? 今回の小テスト」

「まあまあかな。多分平均くらいだ」

「そうか。まあ、勉強に付いていけなくなったら言え。アタシはまだ手前に恩を返せていない」

「もういいのに……」


 清建月夜、義理堅い系のヤンキーだった。


「ちなみに、犬とか飼ってたりする?」

「犬二匹、猫三匹、ニホンオオカミ一匹なら」

「絶対雨の日に拾ったヤツじゃん……待ってニホンオオカミって絶滅してなかった?」

「絶滅したのはイノシシじゃなかったか?」

「適当な流れ弾がイノシシを襲う!」


 教室の隅の、三人の談話。

 それを、鋭く睨む者がいた。



「月夜サン……!」


 鬼塚(おにづか)(みちる)

 吊目と朱色(しゅういろ)の髪が特徴的な……清建月夜のヤンキー時代の相棒。

 月夜とは小学生の時からの付き合いで、ヤンキー時代は副長として、彼女を支えてきた。


 教室の端で、月夜サンが男子に笑いかけている。

 美しい笑顔だ。それが、私に向けられたものであれば、完璧だったのに。


 すべてはアイツのせいだ。科津、久周。

 アイツが月夜サンをたぶらかしたせいで……私が月夜サンと話す時間が減った!


「絶対に、あの死体野郎からを月夜サン引きはがしてみせる!」


 この【鬼神ノ巫女】の力で。




 まずは、月夜サンからアイツへの高感度を落とすところからだ。

 移動教室でヤツが通るであろう廊下に手を置き、簡単な罠を設置した。


「鬼法、〈停罠〉」


 一瞬、魔法陣のようなものが廊下に描かれたが、すぐに透明になって姿を消した。

 これを踏んだ途端、足が動かなくなり、科津は無様にスッ転ぶだろう。

 後は、アイツが通るのを待つだけだ。


「来た」


 廊下から、科津と月夜サンが喋りながら歩いてきた。

 私は物陰に隠れて、科津が罠を踏むのを待つ。


「そういえば、ペットの名前って何なの?」

「猫は、シロとクロとミケだ」

「……清建にしては普通だな」

「犬は、白と黒だ」

「同じじゃねえか!」

「違うぞ、猫はカタカナで犬は漢字だ。ちなみに、ニホンオオカミの名前はネズミだ」

「ねずみ色だからって、オオカミにネズミって名付けるなよ……」


 二人が、楽しそうに話しながらこっちに向かって歩いてきた。

 とても忌々しいが、それももう終わる。


(いけ!)


 科津がトラップを踏み、その足が固定された。

 それに気付かないまま、ヤツは歩みを進め


ブチッ


 固定された右足が千切れた。


「え?」

「あ、取れた」


 科津は、まるで何事もなかったかのように左足一本で立ち、千切れた足を回収しようとする。

 慌てて私は、固定の鬼法を解除した。


「よし、くっついた。誰も見てないよな?」

「……いつも、こんなのなのか?」

「いや、いつもはこんなに(もろ)くないんだけど……どこかで呪いでも食らったのかな」

「……アタシのせいで、レベルが低いからか」

「それはもういいって。行こう」

「ああ」


 そう言って、二人は行ってしまった。


 ……結果、月夜サンの罪悪感を高めるだけになってしまった。

 そういう、責任感が強い所も素敵なのだが、今回は逆に働いてしまったようだ。


「チッ!」


 噛む力が強すぎて、親指の爪が割れた。



「クソ、次はどうするか」


 奴の脆弱性を見せると、月夜サンが責任を感じてしまう。

 ここは……月夜サンには申し訳ないが、生理的嫌悪感を引き出すことにしよう。


 授業中ずっと考えていた作戦を実行しに、教室に戻る月夜サン達を待ち構える。


「ネズミじゃなくて、グレイとかの方がカッコいいんじゃないか?」

「むぅ、確かに」

「一周回ってアッシュグレイとかどうだろう」


 よく分からない厨二男も増えているが、まあいい。


シュシュッ


 手印を一つ二つと組み、鬼法〈鬼火〉を発動させる。


(服を燃やして、汚いものを出してやる!)


 紫色の炎が、科津のズボンの裾に憑りつき……奴の身体まで燃え始めた。

 すぐに炎は身体の上へ上へと登っていき、奴の全身を埋め尽くすように、一瞬で燃え上がる。


「あれ?」

「ん」


 科津が間抜けな声を出し、月夜サンですら少し困惑して動きが止る中、厨二が慣れた手付きで奴の首を切り離した。

 そして、残った体はすぐに燃え尽きた。


「危ね。サンキュー、全身燃えると再生に時間かかるし」

「なに、俺とお前の仲ではないか」

「そうだな。それより、農美(のうみ)のところに連れて行ってくれ。このまま再生すると、制服が無くて死ぬ」

「私が連れて行こう」


 月夜サンが首だけの科津を抱えて、三人は服が作れる農美がいるであろう、教室に向かう。

 だが、私は見逃さなかった。月夜サンの豊満な胸が奴の顔に触れたことを!


「あいつううううううううううう!」


 こうなったら……!


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