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ちかったりべんじ~

「我は悪魔の末裔であり、悪魔の根源でもあるサタン。今は人間社会に潜伏しているが、ゆくゆくは人類を滅亡させ、悪魔族の復活を企てている、最悪の悪魔だ」

「いいえ、ただの人間です」


 俺の背後で恥ずかしい言葉を恥ずかし気もなく発したのは、【根源悪魔】の亜藤(あとう)忠次(ちゅうじ)だった。


 左目を隠す眼帯に、超強力マーカーで手の甲に書かれた紋様。 

 忠次は元から厨二基質な奴だったが、異世界で能力を得たことでそれが爆発した。

 それっぽい設定を並べているが、向こうの世界での貢献度は一、二を争うレベルで、本当に人間を襲うつもりは無い。

 そんな勇気も無い。


「我が同志たる不滅の者よ。今日という日は虚空の彼方にあるか?」

「……『今日暇?』ってことか?」

「そうとも言う」

「普通に言えよ……。まあ暇だけど」

「ならばよし。付いてくるがいい」


 忠次は、身をひるがえして放課後の教室を出て行った。

 何だか面倒な予感がしてくるが、忠次には恩があるので、俺もさっさと荷物をまとめて忠次についていく。


「で、何するんだ?」

「過去の傷跡を清算しに。有り体に言えば、復讐(リヴェンジ)というヤツだ」


 手のひらに青白い炎を作り出し、キメ顔でカッコつけたが、雰囲気が伴っていないので、あまりカッコよくは無かった。





 俺達はカラオケで時間を潰し、夜に活動を再開した。

 ちなみに、一番点数が高かったのは忠次のプリ〇ュアOP。


()であんな高音が出るんだよ……」

「悪魔の力だ」

 

 太陽は沈み、星が煌めく夜空の下で、不死者と悪魔は動き出す。


「いい月だ。絶好の復讐日和といえよう」

「いや、めちゃくちゃ微妙な形だぞ? 三日月でも満月でもない、何とも言えない卵型だぞ?」

「……知らないのか? アレこそが最恐の月、血月(ブラッドムーン)だ」

「ブラッド要素どこだよ」


 軽口を叩きながら、俺達は夜の路道を往く。

 さっきから忠次に連れられて歩いているのだが、目的地が分からず、どこか彷徨っているような印象を受ける。


「お前、どこに行こうとしてるんだ?」

「小悪の収束地だ」

「……復讐相手って、ヤンキーかよ」


 想像よりずっとショボい相手に、俺は目を細めて溜息をついた。


「ちなみに、いつ、(ンに)されたんだ? カツアゲか? それとも殴られたのか?」

「四年前……異世界のことも合わせたら、昨年のことだな。ボコボコにされて金を取られた。……幾らやられた思う?」

「三千円くらい?」

「惜しい、二億だ」

「どこらへんが惜しいんだ!?」


 被害が予想の遥か上をいっていた。


()で一介の高校生が数億も持ってるんだよ!」

「いや、パ……父に指定の場所に持って行けと言われて――。俺の方が何かと都合が良いらしい」

「運び屋じゃねぇか……」


 本当にとっちめるべきなのは亜藤親なのではないか。

 今度何かしら探りを入れようと思いつつ、歩みを進める。


「で、今回はその二億を取り返しに行くってことか?」

「いいや、マイブラッドファザーは『取り返さなくていい、通報もするな』と俺に言いつけた」

「ますます怪しくなってきたな……」

「だいたい、金を強奪されたのは悠久の昔だ。あの金は既にロストしているだろう。だが、ボコボコにされた俺の邪悪な怨念は残留、憎幅し、今にも爆発しそうなのだ……ッ!」


 つまり、昔ボコボコにされた恨みを、チート能力で晴らしたいと。

 何だか凄く俗というか、下らないというか。


「……まあ(どうでも)いいか。先生にバレたら面倒だ、さっさと終わらせて――」

「シッ!」


 オーバーな動作で忠次は俺の口を抑えた。

 そして、何が起こったか分からない俺に、指をさして何があったか伝える。

 ヤンキー。おそらく、忠次を襲ったヤツの一人なのだろう。


「見つけた。アレこそ我が仇敵、闇の眷属ギャリック・マフィアだ」

「マフィアでは無いと言いたいところだけど、二億も奪い取るのは本当にマフィアかもしれないな」


 おそらく、アイツに付いていけばヤンキー(仮)のたまり場に行けるだろう。

 忠次を先頭に、足音を殺し、物陰を縫うようにして、ヤンキーの後をついていく。


 数分ほど歩くと、廃墟となった学校の様な場所に着いた。

 仲間のヤンキーが追っていたヤツを歓迎し、廃校のグラウンドで騒ぎ始めた。


「あそこがたまり場だな。どうする?」

「俺が特攻する。久周は正門で逃げるヤツを抑えてくれ」

「厨二語が崩れてるぞ」

「……さあ、敵地に足を踏み入れるとしようか」

「お前踏み入れないだろ」


 忠次はニヤリと笑い……背中に翼を生やした。




ドォン!


「オアア!?」


 いきなりグラウンドの中央が爆発し、土煙が舞う。

 ヤンキー達は突然の衝撃に声を上げ、その発生源を見ると……そこには、怪物がいた。


 青紫色の巨体。

 ヤギのような顔とヤギのようなねじれた角を持ち、赤い目を(ほとばし)らせて、丸太の様な腕を振り回す。

 それは、まるで悪魔の如き存在だった。


「ヴァアアオオオオオオオオ!」

「な、何だこいつ!」


 生きのいいヤンキーが悪魔に突っ込んで行ったが、悪魔の腕が消えたかと思うと、次の瞬間には突っ込んだヤンキーはふっ飛ばされていた。

 顔の形が変形し、気絶している。

 何が起こったか分かっていないヤツらが、バッドやナイフを片手に怯まずに立ち向かった。


「うおおおおおおおおお!」

「フン!」


 しかし、一蹴。

 蒼い雷を纏った悪魔が、腕を一振りしただけで、立ち向かったヤンキーは全員昏倒した。


 そして、悪魔は何事も無かったかのように、残ったヤンキーを見渡す。

 既に三割ほどは昏倒し、残りのヤンキーも腰が引けていた。


「ヴヴゥ」


ポタッ


「ヒィィィ!」


 悪魔の(よだれ)がグラウンドに落ちたのを皮切りに、ヤンキー達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ始めた。

 勿論それを許す悪魔ではなく、全力で逃げるヤンキーを一体一体叩きのめす。

 彼らは、一斉に出口である校門を目指し。


トットトッ


 足を踏み鳴らす、一つの人影を見た。

 首が無い男の人影を。


「ヒイイイイィィ!」


チャカッ!


 ヤンキーの一人が拳銃を取り出し、そいつを撃ったが、全く効いている様子は無かった。


「銃を持ってるって、やっぱただのヤンキーじゃねえだろ」


 そんな声が聞こえた気がして、銃を持っていたヤンキーは気を失った。



「……気は晴れたか?」

「ああ、とても清々しい気分だ。それより、どうして久周は首を外して、彼の敵の前に現れたのだ?」

「ああいう奴らに顔を知られるのはどうかと思って」


 そう言って、首を付けながら……俺は廃校の方を振り返った。

 ヤンキーが数十人ぶっ倒れていた。

 忠次は特に何もしていない。ちょっと変身して、適当に暴れただけだ。

 それだけで、ケンカ慣れした、武器を持ったヤンキー数十人が、相手にもならなかった。

 

 これが、俺達が持つ力だ。


「……この――」

「この力は、慎重に使わないとな」

「お前が締めくくるのかよ……」


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